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公園近くの歩道を歩いていると、学校の帰りであろう小学生達が4,5人なんだか騒いていた。登校日なのだろうか。
「おっせえなぁ!デブだから、おっせえんじゃねーの?」
一人のぽっちゃりした子にランドセルを全部持たせて歩かせている。
重みでぐったりし道端にへばっていた。
少し離れた場所から、それを見た私達は眉をひそめた。
「私が注意してまいりましょう。」
住田が耳打ちしてきた。
「いえ、子供の問題でしょう。私が話してきますわ。収まらないようでしたら、お願いします。」
「分かりました。莉奈様が危害をこうむりそうなら、即・殺・斬とします。」
いやいや、子供相手にそれは、いかん!日本の法律に反するからね?
「貴方の屈強な身体だと冗談に聞こえないから、やめてください。」
「冗談ではございませんので、お気を付けて。」
「...。」
少し憐れみに満ちた目で住田を見てから手提げバッグを受け取り、私は前に向き直って二人から距離をとった。
「何をなさっているのです?」
突然、背後から掛けられた声にいじめていた男の子達が振り向いた。
「な...。」
何故だか罵倒もせず、呆然としているいじめっ子達の横を通りぬけ、
「あら、怪我をされてるじゃありませんか!いいものもってますのよ。」
と、座り込む男の子の膝の怪我にカバンからミネラルウォーターを取り出し掛けた。
そして、私の趣味ではないピンクのヒラヒラのハンカチを巻き付けてあげた。
怪我をした男の子は、何が起こったのかわからない様子でされるままになっていた。
「貴方のランドセルは、この背中に背負ってるものですか?」
私がその子に尋ねると
「うん。」と頷いた。
「じゃあ、他のランドセルはいらないものなのですよね?」
「え?」
何人かの声が被って聞こえた。
「だって、自分の大事なものは自分で持つものですわよね?私だってルー様を自分で持っておりますもの。」
私は、振り向いていたずらっ子の方に向いてルー様を撫でたら「みゃー。」と鳴いた。あー至福!
「はぁ?」
五人の声に熱がこもってくる。
「私、ランドセル収集家なんですの。筋力がまだ少ない私の様な子供でも重たいものが、少しでも楽に持てるように、改良に改良を重ねた素晴らしいカバンです!そう思いませんか?なので、大事でない使わない物なのであれば、私がいただいても宜しいですわよね?」
私は、しゃがんで転がってるランドセルを一つ一つ軽く品定めをしながら、皆を見上げた。
「な、何を言ってる...。」
不可解な顔で背が一番高い子がつぶやいた。
「この色は綺麗な色ですわね!最近は本当にカラーバリエーションが増えました事!素晴らしい!」
「ちょっそれ!俺の!!」
私がひらい上げようとしたランドセルを一人の男の子が先に自分の背中に背負う。
「これもいい色ですわね!」
隣の物に手を掛けると
「お、おれのだよ!」
と違う子が奪い取った。
「これも作りがいいですわ!細かい刺繡が施されていて...。」
「それはおれの!」
「これも、意外に軽くていいものですね!艶も派手なく丁度いい...。」
「おれのだ!」
皆一様に私の手から死守して自分の物を背に背負った。
「あら、皆さん、よくお似合いですわ!お父様、お母様、ご家族様が選んで下さっただけありますわね!」
私は、すわった膝にルー様を置いて手をたたいてニッコリ微笑んだ。
「え?」
皆があんぐり口をあける。
「真の収集家は、物を大事にしてくれる事を望みます。してくれないので、自分がしようと思うわけです。それと、彼は太ってるわけではありませんわ。今、彼の身体の中は筋肉細胞や骨細胞を必至で生成している最中なのです。成長過程で必要なことなのです。貴方がたも美味しいもの沢山食べないと、彼に身長負けてしまいますよ?...では、これで。」
私が早々に立ち上がり、身体をひるがえすと
「え、こ、これ。」
怪我した男の子が巻き付いているハンカチを指さした。
「いらないものなので、差し上げますわ。」
「え、あ、な名前教えて!!僕、高垣徹!」
「...。莉奈です。安寿莉奈と申します。今日は遊んで頂いてありがとう!では、ご機嫌よう!」
私はレベルのあがった張りぼて笑顔を惜しみなく披露して軽くお辞儀して手を振り、エミリ達の所に戻った。
残された子供達は一様に呆然として見送っていた。
た、高垣徹って言ったわよね?あの子。や、やばいじゃん!同性同名の別人だよね?乙女ゲームの主要キャラがアンパ〇マンの様な訳がない!
「お嬢様?何かやっぱりされたのですか?」
エミリが心配そうに覗き込んだ。知らずに俯いて難しい顔していたようだ。
「いえ、何でもないのです。」
「お疲れになられたのでは?曇り気味とはいえ、真夏ですし。」
「大丈夫ですわ!肝心の物をまだ入手しておりませんもの!」
「そ、そうですか?では、もう少し頑張りましょう。すぐそこに見えてますので。」
「はい。心配掛けてごめんなさい。」
「いえいえ。でも、御立派でした。円満に解決なさる手腕お見事です!」
住田が過剰気味に褒め称える。
「ほほほ!それ程でもありましてよ!ふふふっ」
ちょっといたずら気味に笑ってみせると、
「これは一本取られました。お父様にもご成長のご報告させていただきます。」
と、住田も笑って答えた。
うん、これはかなりの遊び人だ。厳重注意だ。
ペットショップの前で、ルー様をペットケースに入れて住田に持ってもらった。
片腕に乗るくらい小さいルー様だが、夏場は暑い。大人しくて助かったけども。
色々買い物したいが、先立つものが...。
取り敢えず、目的の物を買い、今後の楽しみにしよう。
モンプ〇をレジに持っていき、お釣りをもらいお店を後にした。
帰りは住田が手配したタクシーが待っていた。
あー涼しい!極楽極楽!!気が利くねぇ。
「住田は、一体何人の女性を手ごまにしてきたのですか?」
私は、さっきから気になっていた事を聞いてみた。
「え??」
住田は明らかに挙動不審気味になっている。
「やることがスマートでそつがないですもの。さぞかしおもてになったと思うのです。」
「な、なにを仰るやら...。ハハハ。」
目が左右に激しく泳いでいる。
「バレンタインは凄かったですよ。お陰でチョコレートに不自由はしませんでしたよ。」
エミリがしてやったり顔で参戦してきた。
「エミリ、余計な事いうんじゃない!」
「それは、羨ましい!チョコレートの品評会ができそうですね。」
「ええ、もう、その時期は冷蔵庫が一杯になって、お母さんが怒ってましたわ。それと、他にも...」
「ごめんなさい。お願いします。もうやめてください。」
住田がエミリに謝罪と共に制止を申しいれた。
エミリが先ほどの仕返しをできたようで、スッキリした表情をしていた。