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やっと黒沢家御一行が帰ってくれて、自分の部屋に戻った。
「疲れたーー。」
ベットにそのままダイブ。
これもなんとかせねば...目の前のドピンク天蓋。目がちかちかして休まらんやろ!
ううう...以前の自堕落な一人暮らしが懐かしい。ジャージで床にダラダラ寝転がって漫画読んだり、スマホやTVみたり、お菓子食べたりで一日を過ごす。ああ!パラダイス!
豪華な食事、広い部屋、美味しいお菓子!どれも欲しかったものだけど、...毎日だと駄目なのだ。
足を広げて座れないし、肘もつけない。お風呂上りにバスタオル一枚でウロウロできないし、コーヒー牛乳をパックのまま丸飲みできないし、「か~!」って言えない!
そして何より、るーちゃんに会いたい!ご近所で飼われてた猫のるーちゃん(勝手に命名)に会いたい!もふもふしたい!!
三か月間、会社帰りに貢物を日参し、やっとの想いでもふもふさせてもらえるようになったというのに...。グルメ思考でモンプ〇のグルメシリーズしか認めていただけず、食べていただけなかったものは、家に帰ってパスタの具材にして私が泣く泣く食べてたのも懐かしい...。あ、もふもふ禁断症状が...。
「うがーー。」
と、ベットの上で転げ回ってのたまわっていたら、お兄様がドア付近で固まっていた。...(/ω\)イヤン
「えと、ノックしたんだけど、返事がなかったので寝てるのかと...。夕食ができたそうなので起こそうかと...。」
目を泳がせて戸惑ってるお兄様
「もしかして、ロスに行きたかったのかい?」
「え??」
「なんか我慢しているようだったから。」
どうやらもふもふ禁断症状でのたまう私が、ロス行きを我慢してる子にみえたらしい。
私は乱れた髪を手串で整え、ベットに座りなおした。
「違いますわ。お兄様。ご心配には及びません!これは持病ですの。ある一定の条件の下発動する生理現象なのですわ!お兄様は尿意を我慢できますか?これはそーいうものです!」
「にょ...えと、病気なら病院で診てもらったほうが...。」
「どんな有名なドクターでも尿意を無くすことはできません!大丈夫ですわ!」
「そ...そうか。どうしても困った時は相談に乗るからね?」
「はい!」
張りぼて笑顔が徐々に板についてきてるようである。
乗り切ったーーーー!お兄様に変な子だと思われてしまうとこだった!危ない危ない!!
夕食は本格フレンチだった。
お母様の行儀作法の講習付きである。
「はぁ。この調子ではお茶やお花ももう一度初歩からだわ。何としても休み中に以前の様に出来るようになってもらいますよ!」
「お母様。莉奈をあまり追い詰めないでやって下さい。ゆっくりでいいではありませんか。」
おお!お兄様!!やさすぃー!!好き!!
「だって...。あの黒沢勇気様や、白鳥高貴様が遊びに来てくださったりしてるのよ?失礼があったら困るじゃないの!」
「まだ、9歳の子供のすることです。取り返しのつかない事じゃない限り、その限りではないと思います。僕も今寮に居ますが、結構みんなフリーダムですよ。二四時間四六時中、学友と共に生活しなければならないので、規則、規則で縛ると歪がでてしまうからだと思います。中には歪...いや、フリーダム過ぎる輩もいますが...。はぁ。ま、この話はここらでいいでしょう。」
お兄様が後半お疲れ気味に擁護してくれた。
「...でも...。」
まだ、腑に落ちない様子のお母様。
「では、社交ダンスは僕が教えましょう!テーブルマナーとダンスが出来れば他はそう問題ではないでしょう?」
「そーね。そちらのが優先かしら、お花とかは時期が限られているものね。匠さんお願いするわ!お盆明けにはパーティが控えてるし...。」
「え?」
社交ダンス??そんなものとは無縁の世界に住んでいたから、どんなものかも想像つかないよ。
「では、夕食後、早速やってみましょう。」
私の事なのに私そっちのけで話がすすんでいるが、口を挟むとまたもめるので災いの元に蓋をした。
9歳で社交場に引っ張り出されるなんて、お嬢様は大変だなぁ。
などと、吞気に他人事の様に憐れんでいた、一時間前の私!カムバック!!
「そこ、もっと肘上げる!開きすぎ!開かず上!!」
「猫背になってる!もっと背筋を伸ばして!」
「もっと背中の肩甲骨を綺麗に見せることを意識して!」
「手はここ!!小指たてない!!」
...誰ですか?あ、あのやさすぃーお兄様と別人なんですが...。
社交ダンスのⅮVⅮ鑑賞後、眼つきが変わったお兄様に多少の危機感は感じましたが、別人です!鬼です!鬼がいます!!!
「はい!勝手に休まない!1.2.3、1.2.3、そこでボックス、そこでターン!!」
難易度高すぎです!!たちけて...。
...意識が朦朧と仕掛けた頃、
「よく頑張ったね。莉奈。君は本当に頑張り屋さんだ!」
お兄様が優しく抱きしめてくれる。
終わったの?やっと?元の優しいお兄様に戻ってくれたの?
「いい子だ。莉奈は。大分、かたちになってきたよ。もう少しだ。また、明日頑張ろうね!」
「はい!お兄様!兄様の命令は絶対です!」
涙がポロポロこぼれ出る。
ああ!お兄様!私は貴方の犬です!!
床に手を付き、四足歩行をしはじめた私に傍で見ていたエミリが慌てた。
「お嬢様!!しっかり!!匠様に洗脳されちゃってますよ!!お気を確かに!!」
エミリに抱き起される。
「チッ」
お兄様が横向き舌打ちをする。
ブラックお兄様の降臨...素敵です!
「だから、だめですって!!しっかりなさってください!!お嬢様は猫派でしょ?」
猫。...柔らかい毛並み...もふもふ...
「!!」
セピア色だった視界に色彩がもどった。
こわ!!洗脳こわ!!!
「匠様もやりすぎです!!お嬢様は病み上がり。手加減してあげてください。」
「...はーい。」
「匠様は心理学を研究なさってるのです。テスターにされてしまったのですよ。まったくもう!」
エミリは以前、お兄様の世話係をしていたことがあるのだ。
「猫派の人間の方が洗脳しやすいってことか...。マゾヒストの傾向が強いってことだな。面白い!」
私は嫌な予感がして、お兄様に抗議した。
「学校の自由研究とかにするのはおやめくださいね!」
「もっとサンプルがほしいとこだな。」
「だから、やめろと!!」
つかさず、裏手をお兄様にきめると、お兄様は腹を抱えて笑っていた。
ここは、人々が求めた、安息の地ではないのかもしれない...。