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次の日。
「...。」
「...。」
「...。」
増えた...。ミニチュア版が増えたのだ。黒沢先生の横に陳列する勇気と白鳥高貴!
「よ、よくいらして下さいました!」
さすがに動揺が隠せず張りぼて笑顔も引きつった。
「ごめんね。二人とも遊びにきたいって言うので...。いいかな?」
よくねーよ!嫌だよ!空気読めよ!...お願いします。連れて帰ってください!!
「まあまあ!よくおいでくださったわ!リナさんは幸せ者ね!皆さんに仲良くして頂いて!上がって上がって!」
お母様は相変わらずのパーペキメイクで満面の笑みを浮かべて出迎えた。
さすがです!お母様!
部屋に入って、昨日のように先生を挟んで、勇気の横に高貴が座る。4人掛けの丸テーブルなので必然的に高貴が私の横になるという不条理。解せぬ!!
一体何がどうしたら、このメンバーでお勉強会を開くことになるのか...。
今回は推測不可能である。説明を求む!
黒沢先生が私の切実なお願いを察して言った。
「なんだかね。莉奈様のお母様のシュークリームが凄く美味しかったんだって!昨日あのあと高貴君がうちに来ていてね、頂いたシュークリームを食べたんだけど、気に入ったらしいんだよ。」
「...。そうだったんですか。お母様が聞いたら喜ぶと思います。」
元凶はお母様か...。ガックリとうなだれていたら、エミリとお母様がお茶とお茶請けを持ってきた。
「今日は、苺シュークリームにしてみたのよ。うまくお口に合うといいけど...。」
一粒単位で売られていそうな苺が丸々入っている気合の入りっぷり、お褒めの言葉が効いているようだ。
「いただきます!」
勇気に至っては、目を輝かせている。
「うま!!」
「美味い!」
ペロっと二口くらいで食べ終わる二人
淑女としては、お上品に食べないと...。苺は最後の楽しみに...。
私がちまちま切って食べていると
「好き嫌いはだめだぞ!」
高貴が皿の端に置いていた苺を自分のフォークでブッ差し奪取した。
「なっ!!!」
ショックのあまり青ざめた。私の楽しみの苺は高貴の頬袋の中だ。
「こんなうまいのになんで嫌いなんだ?」
ホクホク顔で高貴はご機嫌だ。
くっ!!コロス!!この恨み晴らさずに置くものか...!!
わなわな震えているとその様子を見て肩を震わせている奴がいた。勇気だ。
「違うよ。高貴!最後に食べようと残してたんだよ。莉奈は。」
こらえきれない笑みを浮かべながら高貴の肩をたたいた。
「え?まじか。」
...落ち着け。ここで喚き散らしたらだめだ!こう言う輩は止めをさしてやらねばならぬ!
私は最終兵器となった。
「わぁーん!!」
子供らしく声をあげて泣く。
驚いた黒沢先生
「莉奈様!ごめんね。お可哀相に!」
高貴に避難の目をしながら、先生が私の頭をなでてくれる。その体にしがみつき
「えーん!!」
再度声を上げて泣く。どうだ!まいったか!!
二人が気まずそうに見比べた。
「ごめん...。」
高貴が素直に謝った。
入口付近のサイドテーブルで蒸らした紅茶をカップに注いでいたお母様が振り向いた。
「あらあら。まだあるからいいのよ。高貴様。さっそく持ってくるわね!」
紅茶はエミリに任せて、お母様がバタバタ出て行った。
フン!食べ物の恨みは深いのだ!!
次の日。
「...。」
「...。」
「...。」
「...。」
増えた。もう一匹増えた...。もういいよ!このパターン!! もう飽きたよ!! そして、誰だよ?
「僕の妹なんだ...。来たい来たいっていってたのを誤魔化し誤魔化ししてたんだけど、今日家のものが誰も居なくてね...。愛華というんだ。」
申し訳なさげに黒沢先生が私に花束を渡す。その後ろから妹が顔を出してペコとお辞儀した。
非常停止しかけている思考回路を無理矢理動かして
「い、いらっしゃいませ。」
と、張りぼて笑顔を発動させた。レベルがあがった。
もうお店でいいだろ。ここはシュークリーム専門店なのだ。
「まあまあ!愛らしい妹様ね!皆さんに気に入っていただけて嬉しいわ!!どうぞお上がりになって!」
お母様はこの状況でも通常運転。さすがです!
「ごめんなさいね。今日はシュークリームは焼いてないの。贔屓のフランス産小麦粉がストライキの影響で入って来なくてね...。変わりにプリンを作ったの。申し訳ないけどそれで我慢してくださる?」
「いえいえ。そんな...ご迷惑をおかけしてすいません。」
手土産の和菓子を渡しながら、黒沢先生が申し訳なさげに謝る。
「にぎやかになって嬉しいわ!私の実家は6人兄妹ですの。だから大人数は慣れっこですのよ?こちらに来たのは日本料理のクオリティーの高さに引かれてですの。味覚を楽しんで頂ける仲間が増えて嬉しいわ!」
さすがの神対応!元女優のクオリティーの高さに感服いたします。
椅子が5脚に追加されているおなじみのテーブルに勇気と先生の間に愛華ちゃんがはいり着席。
また、高貴が隣という恐怖に苦悩していたら、隣の黒沢先生がホケーと惚けていた。
ちょっとちょっと!!危険を回避したと思っていたのに再発しそうだよ!今度は逆パターンで!
やめてよ?年が10歳もはなれているのに!お父様帰ってきてー!!
「明日から10日間、高貴ん家とロスに合同家族旅行なんだ。」
勇気が話しかけてきた。
「それは、素晴らしいですね。」
思わず感嘆する。うん。素晴らしい!主に私が!やっと解放される!
「で、よかったら、莉奈も行かない?今日来たのは誘いたいからなんだ。」
「ええ??」
「ここのメンバーは決定事項だから、莉奈も参加しやすいだろ?」
なに言ってるの?この人?頭からチューリップでも生えてんの?
嫌だよ!このメンバーだけは嫌だっての!!グランドキャニオンに足を突っ込む恐怖を楽しめるほど私は変態じゃない!!
なんとか回避の方法はないものかと、助け舟を求めて先生を見たら、常春の国にいってらっしゃいしたままお戻りではない様子! 使えない!!
その時、目に止まった☆印の付いたカレンダー。キターーーーーー!!これだ!神々の降臨だ!!
「せ、せっかくのお誘いですが、中等部寮生の兄が今日そろそろ戻って参りますの。明日から2週間ほど休暇なのですわ。近場で家族旅行もしたいと思っているので、申し訳ありません。」
「...そうなんだ。」
勇気が残念そうにつぶやいた。
よ、よかったー。生きた心地がしなかった。
お母様とエミリがお茶とプリンを持ってきてくれた。重くなりそうだった空気が明るくなりホッとした。
ひとしきり、プリンに舌鼓したところで、玄関あたりが騒がしくなった。
「た、匠様がお戻りになられたようです!奥様。」
これまたイケメン執事が入ってきた。イケメン率たけーな!おい! 顔か?顔なのか?
「まあ!それは大変!ちょっと失礼させていただきますわね?」
お母様は慌てて出て行った。
お兄様は“私”になって初めてお会いするのだ。おそらく私が記憶喪失だという事で伝わっているはずだ。
お兄様は、わが安寿家を担って立つ私の没落回避に最大貢献してもらわねばならない御人。嫌われないようにしなければ!!
プリン効果で復活した先生の元、勉強会を再開した私たち。
しかし話題はロスでどこを廻るかとの話のほうが盛り上がってる。
多少の阻害感を感じながらも黙々と問題を解いていく。だって鎮静化したロス行きが再発してはたまらない。
その時お兄様が訪問客に挨拶にやってきた。
「よくおいでくださいました。黒沢様がた、白鳥様。莉奈と仲良くしていただいてありがとう!」
白鳥学園の白い学ラン姿のイケメン少年がにっこりと微笑み、私の頭にそっと手を触れた。
「お邪魔しております」
黒沢先生たちが会釈し返す。
私は緊張しながら、張りぼて笑顔をお兄様に向けた。
「お帰りなさいませ。お兄様。」
お兄様は頷いて微笑み返しながら、
「なんだかロスのお話で盛り上がっていたようだけど、旅行に行くのかな?」
と、勇気達に話かけた。
「はい。明日から高貴のとこと合同で行くことになってます。」
「それは、楽しみだねぇ!僕も先月、親交合宿で行ってきたよ。あ、この店移転していたよ。」
勇気達が見ていたパンフレットを覗き込んで指さした。
「ええ?楽しみにしてたのに!」
高貴がぼやく。
「3番地から5番地に移動してるだけだけど、ちょっと遠くなってる。」
「あることはあるんだ。良かった。」
愛華が胸をなでおろした。
「合同家族でって何人くらいでいくの?」
「えと、15人くらいかな?従者も数人連れてくから。」
「移動って?飛行機?」
「あ、自家用ジェットで行くことになります。だから多少増えてもいけるんだけど、だからやっぱり莉奈もよかったらお兄様もおいでよ。」
「え?」
お兄様がびっくりしている。
すっかり油断していた私はローズティを噴出した。
「あわわ。いやいや、私はやっぱりご遠慮しますわ。なんの用意も出来てないし、パスポートもあるかどうかわからないし...。」
エチケットペーパーで口元をふきながらもごもご視線を泳がせた。
「大概のものは揃ってるし、現地調達もできるし、不自由はさせないよ?」
勇気が畳み掛ける様に私を凝視する。
ひいいぃ!お兄様助けて!!
私の縋る様な視線を理解してくれたお兄様は、
「実はね。莉奈はまだ少しこの前の怪我が治ってなくてね...。遠出は禁止されてるんだ。折角誘ってくれたのにごめんね。」
と、勇気に言ってくれた。
「...。はい。」
お兄様のナイスアシストのお陰で危険を回避できたようだ。感謝!感謝!
その後はお兄様のおすすめをパンフ見ながら聞いてもりあがっていた。
勇気がチラチラ見ているが気にしない!藪をつつく様な真似はせん!