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期待値がでかいほどショックも大きいと言うが結構期待していた様でショックからなかなか抜け出せない
私のヨーロッパを返せ!
取り敢えず落ち着いて分かったことを整理しよう。
1、名前 安寿莉奈 安寿財閥の一人娘、但し4歳年上の兄がいる。安寿匠。
2、母、安寿クリスティーヌ。ハリウッド映画にも出演したことがあるほどの元女優。
3、父、安寿修一。安寿財閥の社長。今のとこ顔は分からない。忙しくてほとんど留守がち。
4、某高級住宅街の一角の豪邸に住んでいる。
5、白鳥学園初等科3年、皇室の方々も通う超お嬢様お坊ちゃま学校、VIPコースというものがあり、帝王学や経済学を学べるようになってる(らしい)20名の定員制で、成績や財力が大きく影響する。
「まだ少し頭痛がするから休みます。」と大人達を追い出して、箇条書きしたものを見ながら思い出す。
この容姿、見覚えがあるのだ。こんな目立つ容姿一度見たら忘れるはずなどないのに...。
安寿莉奈、莉奈、リナ...。
!!
思い出した!!
これは乙女向けハーレムゲームの登場人物だ。
メインルートの邪魔者キャラ莉奈様!3人位のルートの邪魔する人だったはず。
なんで忘れてたんだろ...。雅也と付き合う前、5年位前にハマってほぼ全ルートクリアしたのに...。
攻略キャラ
一人目、白鳥高貴。白鳥財閥御曹司。白鳥学園理事長の息子。
二人目、黒沢勇気。黒沢財閥の御曹司。
三人目、城山優。白鳥学園副生徒会長。城山総合病院の息子。
四人目、高垣徹。白鳥学園生徒会長。警視庁警視総監の息子。
後は裏ルートとなり複数攻略対象があるらしい。
私は2ルートクリアしたけど、まだあるっぽい。
乙女ゲーム攻略してもリア充にはなれなかったけども...。きー!
莉奈は、主人公の恋維持を邪魔して、主人公に選ばれたヒーローの手によって、御家諸共没落させられるというありきたりの当て馬キャラなのだけど...。
最大の問題は、主人公の名前がわからないのだ。ゲームなので、初期設定時に主人公が入力するからだ。
まあ、これはもう少し後のお話だ。主人公も三人、四人目も中等部入学組だったはず。
だったら、それまでに出来ることを探して、御家が没落しても生き残れるすべをさがす!
次の日、お母様が家庭教師を連れてきた。かなりのイケメンだ。まさか、顔で選んだわけではあるまいな?私の事、記憶喪失だと思ってるので学力が低下してるかもと焦ったのだろう。さすがになめすぎではないかい?小学3年生くらいの問題など楽々解けるはず!こちらとら三十路女が憑依してるんだぞ!
...解けない....ナニコレ?
1、次の連続する10個の数字を足した数を答えよ?
7~16
分かんないんだけど!!難しすぎじゃない?小学校の問題??仕方ない...。順番に足していく。解くのに15分もかかってしまった...。 取り敢えずの力作の答えは
115
「正解です。さすが莉奈様!」
黒沢蓮と名乗った家庭教師は少し大げさに褒めた。
顔に負けないイケボイス!
やめて!褒めないで!その顔その声で!!
私が頭をブンブン振って煩悩を振り払おうとしていると
「調子はいかがかしら?」
とお母様が飲み物とケーキを持って部屋に入ってきた。
「お嬢様は伸びしろが多くございます!解こうとする意欲が素晴らしい!」
黒沢は出された紅茶とケーキを会釈をしながら受け取りお母様の顔みてにっこりと微笑んだ。
ナニソレ...三十路の脳みそで伸びしろ多いって伸ばせてない部分が多すぎだと言ってるのか?
誉め言葉になってねーぞ!黒沢!!
「正解を導きだせたのに、それだけでは満足されてない様子。この問題の奥深さを探求しようとされてる様子なのが素晴らしいです。」
え?そんなことしたっけ?奥深さ?探求?
ポカーンとした顔で黒沢の顔を眺めていたら
「正解だったのに、ブンブン首を振って、満足されてなかったですものね。」
黒沢はそういって私の頭をなでた。
いえ、邪な煩悩を払ってただけなんですけども...。
「休憩後にドイツの数学者ガウスが導きだした法則に当てはめてやってみましょう。桜井進先生が導き出した法則もあるのでそちらもやってみましょうね。」
黒沢はにっこり微笑んだ。
邪な煩悩を齢9歳に抱かせた罪の重さの代償は大きいものとなりそうである...。
やばいのだ。お母様がやばい。世間は夏休み。うだるような暑さで頭がのぼせるのは頷けるが、朝から鼻歌まじりでシュークリームを作り出し、
「黒沢先生は、シュークリームお好きかしら?夕食も食べて行って下さるかしら?泊って行ってくださらないかしら。」
などと、常春の国に迷い込んだ蝶の様に浮かれ気分である。
いや、あんた人妻だろ?旦那はどうしたよ?その旦那は妻と子のために必死で働いてるのに何やってんの?
軽く頭痛がして、頭を押さえた。
このままでは、御家没落の前に家庭崩壊で大ダメージをくらいそうである。
私は、いつも私の身の回りの世話をしてくれているメイドさん、もといエミリをチラッと見た。
言わずもがな命の恩人と化したあのメイドさんである。人差し指を立てて横に流す合図をしたら、エミリはだまって頷いた。「やれ!」の合図である。
「あら、アンジェリーナどうしたの?虫でもいた?」
お母様が私の渋い顔に気をとられてるうちにエミリがその場から姿を消す。その様子を確認して
「なんでもありませんわ。空調の強さを測っていただけですわ。」
黒沢の笑顔攻撃を取得した私は負けじと微笑んだ。
エミリは優秀だった。黒沢先生が来る前に黒沢の身辺調査を済ませてきた。
その報告書によると、黒沢蓮は黒沢財閥の分家にあたる血筋だった。
既に安寿家没落計画は実行されているのか...。その割には成功しても家庭崩壊という陳腐な手口。
単なる偶然か...。もしかするとスパイ?安寿家の内部情報を黒沢家に...。
「リナさん。手が止まってるわ。お口に合わなかったかしら?」
お母様の声にハッと思考から戻った。ランチを食べている最中だった。
もやもやした気持ちが収まらない。黒沢財閥のスパイだとしたら、ぼやぼやしていられないのではないか。
私は一か八かお母様に注意を呼び掛けてみようと思った。
「お母様、黒沢先生は黒沢勇気様と同じ苗字ですのね?ご親戚かしら?」
ライバル財閥の親戚だと分かったら、多少警戒してくれるかもしれない。
「そーよ。黒沢の奥様がご紹介下さった方ですもの!とーっても優秀なんですって!大学でも常に首席。奥様の妹さんの息子さんだそうよ。将来は黒沢財閥の幹部候補らしいわ!黒沢家では結構実力主義を取り入れられてるそうで、社長にもなれる可能性もあるのですって!素晴らしいわ!」
お母様は手を合わせて、陶酔するように、目を閉じて感嘆した。
すっかり恋する乙女である。
そうだった。上流階級はレッツパーリィって交遊会があるのだった。黒沢のお母様とご友人だったんだ。
「黒沢様は次男でありながら、社長になられてる。ご長男は芸術に才能あられて、有名な画家様なのよ。勇気様のお母様の妹様はそのご長男の奥様なの!姉妹で黒沢家に嫁がれたのよ。」
「人に歴史ありですわね?そんな事情があられたとは。」
「あら?リナさん粋な言葉をご存知ね?黒沢先生のおかげかしら?」
「...。」
なんでやねん!まあ、9歳の子が話す諺ではなかったな。...反省。
ま、そういう事情ならば、お友達の甥っ子に無茶はすまい。...しないよね??
お母様はどこかしら残念臭がするので不安が残る...。
「お嬢様。奥様。黒沢様がいらっしゃいました。」
エミリが食後の紅茶をかたずけながら言った。
「まあ、大変。お化粧直しがまだだわ!」
お母様があわてて食堂を出て行った。
いや、私の家庭教師だからね?お母様に会いに来られてるわけではないからね?
「...。」
「...。」
お母様が部屋に戻ってしまったので、私がエミリと先生を出迎えに玄関にいくと、黒川先生の隣りに小型の黒沢勇気が居た。
とっさに言葉につまってしまったが、あわてて張りぼて笑顔を発動させる。
「よく来てくださいましたわ。黒沢先生。勇気様。」
中学生以降の黒沢勇気しか記憶にないので、ミニチュア版勇気は新鮮で面白い。平安風に言うところの
いとをかしである。
「すみません。勇気が一緒に行きたいというもので連れてきてしまいました。宜しかったでしょうか?」
黒沢先生が私に小さいブーケを渡しながら顔を覗き込んだ。勇気はプイっと顔をそむけた。
「え、ええ。勇気様が遊びに来て下さるなんて光栄ですわ。」
私の張りぼて笑顔がレベルアップする音が脳内で流れた。
内心何てことしてくれるんだ!できるだけ関わらず平穏に暮らしたいと思っているのに...。
と毒づいた。
「まあまあ!黒沢先生。勇気様まで!良くお越しくださいましたわ!」
さすがは元女優。あわてて化粧してきたとは思えない完成度の仕上がりのお顔で出迎えにやってきた。
「お世話かけます。」
と、勇気が花束とクッキーの詰め合わせをお母様に渡した。
「まあまあ!手ぶらで来ていただいて結構ですのよ。お世話かけてるのはこちらですもの。さあさあ!上がって下さいな。」
客間に入ると丸型のデザイナーズテーブルと椅子が用意されており、黒沢先生を挟んで左右に座った。
お母様とエミリはお茶の準備をしにいった。
勇気は終始、不貞腐れているのか余り話さない。
勇気の行動から推測するに、夏休み従兄のお兄ちゃんとこに遊びに行ったら私の家庭教師のバイトが入っており、遊んでもらえず、仕方ないから付いてきたという筋書きっぽい。
本物の同級生ならば、意味わからず気まずくなってるとこだろうが、私の中身は三十路女である。お子ちゃまの心情など、お手の物だよ。
「勇気様。夏休みですのに黒沢先生をお借りしてしまいまして、ごめんなさい。」
私は少し首を傾けて勇気に謝った。
「!」
「!」
二人はびっくりして私を見た。
「莉奈様は、本当に良く気の付く利発なお嬢様だねー。」
黒沢先生は私の頭をなでた。
「君が謝ることじゃないよ。勇気?」
勇気は先生に促され
「ごめん。」
と謝った。
勇気が私を信じられないものでも見たような顔で凝視している。以前の私は我儘暴君だったのかもしれない...。
エミリにどんな子だったか聞いておかないと、新学期に不自然すぎてしまうとまずい。
勇気の突然の訪問が好に生じ、先生を引き留め作戦は実行されなかった。良かった良かった。
「また遊びにいらしてね!勇気様も!」
お母様がお土産の箱詰めの桃を先生に渡し、気に入ってくれたシュークリームを数個勇気に渡した。
「ありがとうございます!」
二人が個々に受け取った。
「じゃ、またな!」
勇気が私に手を振った。
「はい。お気を付けて!」と、手を振り返すと
「うむ。」
と頷いて帰っていった。
勇気が私に声をかけるなんて意外だった。お母様の手前の御愛想か?何かの陰謀か?奴は危険人物トップツーに君臨してる!関わりたくない!!