10 安寿 匠の呟き2
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莉奈は、本当に表情が豊かになった。感情が手に取る様に分かる。面白い。
食事のマナーは、残念だがもう少しお母様のしごきに耐えてもらうしかないだろう。
しかし、昨日の夕食時のあの闇はなんだったのか。
「昨日の莉奈様のトラウマというか、常闇というか、怖かったですね。ふう。」
庭の花壇で花の新芽の選定をしている圭吾が話しかけてきた。
僕はホースを手に水やりをしている最中だった。
「まったく、小学三年生とは思えない洞察力というか、経験則っぽい言いっぷりだったよね?」
「ええ。あの年であの悟りはやばいですよ。男性不信というか...。恋愛とかしてみた方がいいかもですね。」
「! 恋愛??まだ、三年生だぞ。」
「あのまま、喪女となったらどうします?困るでしょう?」
「喪女...。」
「恋愛と言っても片思いとかでもいいのですよ。ドキドキワクワク感を感じることができるようになれればいいのです。なるべく早い目に...。今ならまだリセット可能でしょうから。」
「なんかいい案あるのか?」
「うーん。僕も恋愛の猛者と言う訳でも無いですからね。告られて付き合って、バレて振られての繰り返しなので..。」
「付き合ってからバレるまでの間で、何がバレたのか気になるとこだけど、莉奈の洞察力は当たってた様だね。」
「いやいや、僕の事はいいんですよ。問題は莉奈様でしょうに!」
圭吾と馬鹿なやり取りをしていたら、一台の黒いロールスロイスが表玄関から入ってきて、噴水周りのロータリーに止まった。
「お、あれは黒沢財閥専用車。まだ、旅行されてるはずじゃ?」
「うん?圭吾。ここから見ただけであれが黒沢様のものだって解るの?」
「当然ですよ。見てください。ホイールが違うのですよ。その御家でこだわりがあり、カスタマイズで微妙にちがったりするんです。あ、白鳥財閥の専用車まで...。今日なんかあったんですか?」
「いや?あ、今日莉奈の誕生日だったかも。いやでも記憶喪失の件があるからパーティの予定とかはしてなかったはず。」
「突然のご訪問ってことですか?あ、黒沢の坊ちゃんと白鳥の坊ちゃんが降りてきましたね。うを!!何ですか?あの花束!でか!」
「莉奈とお母様が出迎えてるね。僕は行かなくてもいいのかな?まあ、顔出せってことだったら連絡くるだろうし。」
一応スマホのチェックをした。
「で、どっちが匠様としては、お勧めなのです?黒沢様と白鳥様。」
圭吾が喜々として聞いてくる。
「はぁ?」
「どっちも、家柄は申し分ないですし、次期社長としては、どっちも美味しい相手だと思いますけど。」
「な、何言っちゃってんの?まだ、早いだろそーゆーのは!」
「なにをおっしゃる。こういう世界では、生まれてすぐに婚約とか普通じゃないですか。よい物件は早めに手を打っとかないと!」
「...。あ、つまずいた。莉奈慌てまくってるね。まあ、いきなり旅行いってる筈の人間が花束持って現れたらビビるわな。」
「話そらすの下手すぎますよね?...まあ、いいでしょう。僕もエミリが結婚するとか言い出したら、たぶん泣きますからね。」
「あー。エミリは僕が責任持って貰ってあげるから、心配しなくていいよ。」
「くぅ!殺しますよ!!」
「さっきの理論からすると、僕もいい物件に入るはずなんだけど。」
「だめです。貴方はだめです。」
「なんで?」
「本宅を港々に持ち、絶対バレないようにしそうだからです!」
「国内じゃ無理じゃないの?それ?重婚になるよ。」
「とりあえずダメです。僕の神経が持たない!」
「我儘なお義兄様だなぁ。」
僕がニタリと笑うと圭吾は、
「!!貴方のお義兄様になるつもりは、一ミクロンもないです!!」
と、奮起した。
圭吾をからかって遊んでいたら、莉奈からSNSで救助要請が入った。
今朝、お母様から、お詫びと誕生日プレゼントを兼ねた携帯電話が莉奈に与えられたのだ。
『お兄様助けて!』
『何があったの?』
と、返すと
『勇気様と高貴様がケンカしそうなの』
初めてSNSを扱うと思えない返信の速さで返ってきた。
とりあえず、只事でないようなので、服を着替えて挨拶に向かうことにした。
居間に入ると二人が椅子から立ち上がり、険悪な雰囲気でにらみあっていた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。あれ、莉奈が何か不備をいたしましたでしょうか?」
僕が声を掛けると、
「お兄様!」
莉奈が僕に駆け寄り、僕の後ろに隠れた。
突然の僕の来訪に二人は物を言いたげに口を開きかけたが押し黙った。
「すみません。莉奈は何も悪くありません。今度のダンスパーティーのパートナーに誘いたかったのです。」
勇気が申し訳なさげに答えた。
「どちらか選んでくれとお願いしました。」
高貴も落ち着きを取り戻したようだった。
僕が後ろに隠れている莉奈の顔をみたら、頭をフルフル振った。
うーん。どうやらお二人とも莉奈の好みではないようだ。しかたない。
「申し訳ありません。莉奈はまだダンスが得意じゃないので、お二人の邪魔になることを恐れているようです。僕が莉奈のパートナーの代役しますので、今回は僕に譲っていただけませんか?」
僕が申し訳なさげに微笑むと二人は渋々「はい。」と頷いた。
その後、二人はケーキを嬉しそうに頬張り、眠くなったようで、まだ時差ボケが残っていると言って帰っていった。
まだまだ、莉奈に恋愛など早いのだ。
僕がしたり顔で歩いていると、圭吾が
「気持ち悪!」
と、のたまったので、残された大量のお土産の運搬を圭吾に手伝わせた。




