7
「よし。完成したぞ」
僕は研究室にて一人で完全体のホムンクルスを造る研究をしていた。そして、今。完全体のホムンクルスを造り出す魔術式が完成したのだ。これをうまく錬金術に組み込ませる事が出来れば、原子分解の無い完全体のホムンクルスを造る事が出来るだろう。後は、記憶の保持が出来る錬金術も完成させれば、たぶん。完璧である。
「にゃー」
突然猫の鳴き声がしたのでそちらを向くと、窓辺にレオンがいた。
「おぉ、レオンじゃないか。今日はシオンと一緒じゃないのか」
僕はそういいながらレオンを抱き上げる。
「さっき、完全体のホムンクルスを造る元の魔術式が完成したんだ。すごいだろう」
僕はレオンに向かって先ほどの自慢をする。レオンは今喋る事が出来ないが、昔は少し事情があって喋る事が出来たのだ。その名残でレオンは人の言葉を理解する能力があるのを僕は知っている。だから、こうやって話しかけても、
「にゃー」
と言ってなんとなくの抑揚で肯定か疑問か否定辺りを判断する事が出来るのだ。これはたぶん肯定のにゃーであると思う。
「よーし。今日の料理は僕の当番だから、今日は僕の得意料理のシチューにしよう。レオンにはお魚でも焼いてあげようか」
「にゃー」
レオンは嬉しそうに鳴いた。僕はそんなレオンを抱いたまま、研究室から食堂へと向かった。
食堂に着くと、僕はすぐさまシチューを作る準備をする。シチューは僕の大好物なので、何回も作っている内に得意料理になってしまったのだ。
シチューを煮込み始めて数十分、もうすぐ完成というところでシオンが食堂にやってきた。手には大きな袋が入っているのでエリーの商品の中に入っている食料を保存庫に入れるためにきたのだろう。
「あぁ、ちょうど呼ぼうかと思っていたんだ。もうすぐ夕食が出来るよ」
シオンは僕から目を背けるようにして保存庫に食料を入れて、食卓についた。ちょうどそのタイミングでシチューが完成したので僕は二人分のシチューを皿に盛り、食卓に出した。レオンのお魚は食べやすいように床に出した。
食事を始めて少し経ち、シオンがなぜか落ち着かない様子なのに気がついた。僕は何か話す事は無いかなと考えた末に一つの話題を選んだ。
「そうそう。今日はね、シオンが買い出しに行っている間にいい事があってね」
話しかけてもなにやら落ち着かない様子のシオン。むしろ話しかけてから更に落ち着かない気がする。
「なんとね、原子分解が完全に無くす魔術式が完成したんだ」
シオンがピクリと反応する。
「だから、それを応用すれば――原子分解の無い完全体のホムンクルスを造ることができるかもしれないんだ――」
その途端、シオンのシチューを食べる手が止まる。
「ん? どうしたんだい?」
数秒。シオンは動かなかった。
ようやく動いたかと思うと、シオンはメモ帳に文字を書いて、その紙を僕に渡して席を立った。
「え? あ、あぁ。って、もう食べないのかい?」
シオンの背に問いかけたが、そのままシオンは食堂を出て行ってしまった。
僕は、呆然とそこに座り続けるしかなかった。
渡された紙には『おめでとう、よかったね』と書いてあった。
たった、それだけが書いてあった。