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 僕たちは今、ウィルが作った魔力を原動力として動く乗り物で隣町に向かっている。今日はシオンとエリー、そしてジョンと僕の三人と一匹で隣町に遊びに行こうとしているのだ。

「今日は冬服を買いにいこー」

 シオンと雑貨屋に行くと、突然エリーが言い出したのだ。

 月に二、三回はこのメンバーで隣町まで買い物に出たり色んな所に出かけている。基本的にはエリーとシオンが隣町に行く約束をするのだが、僕はいつもシオンについて行ってるし、隣町に行く時には必ずと言っていいほどエリーがジョンを荷物もちとして引っ張ってくられてるから結果的にこの三人と一匹の形になってしまう。

 ガタンと音がして、乗降口が開いた。隣町に着いたのだ。

「いやー。着いた着いたー」

 降りたエリーが伸びをしながら叫ぶ。僕たちの住む町とこの町は結構離れているのでウィルが作った乗り物でも二時間かかってこの町に来ているのだ。

「さて、いつもの仕立屋さんに行こうか」

 エリーの号令にシオンはうなずき、ジョンはだるそうに続き、僕はみんなに付いていく。

 この町はあの事件の影響を受けていないので、ウィルに対する嫌な噂は聞かずに済む。だから、エリー達も安心してこの町を周る事が出来るのだ。

「ジョンも自分の服とか買う? あたしが選んであげるよ」

 歩きながら突然エリーがジョンに向けて聞いてきた。ジョンは突然の申し出に驚いた顔をした。

「え? 俺が? いや、いいよ」

 ジョンは突然の申し出というより、ジョンに向かってエリーからそんな発言が出る事に対して驚いているのだと僕は思う。

「そんな遠慮しなくてもいいって。いつも荷物持ちさせてるんだからそのくらいはしてあげるよ」

「うーん。じゃぁ、お願いするよ」

「よし、決定。そうと決まればさっさと行くよー」

 先導するエリーはそう言って仕立屋に向かって走り出す。

「おい! ちょっとまてよ!」

 僕らはエリーを追いかけるように仕立屋に向かった。

 行きつけの仕立屋は商品数が豊富で、常に色んな服が店においてある上に、頼めば一週間程度でオーダーメイドの服を仕立ててくれる。値段もそんなに高くはないし、結構お得な店なのである。

「じゃ、あたしはちょっとジョンの服見てあげてるからシオンはちょっとだけレオンと一緒に服見ててねー」

 そう告げて、店に着いたエリーはジョンと共に店の奥に消えてしまった。

 全く、自分勝手な人である。

 シオンと僕はそのあと僕と一緒に少し店内を回った後、男性服のコーナーに来た。エリーたちの声が近いのでこの辺りで服を選んでいるのだろう。シオンはエリー達のところに行くのかと思ったら、進路をすこし変えてコートが並ぶ辺りに向かった。その中で、灰色のコートを手に取ってから僕の目を見つめる。

『なんか、これウィルが着そうだよね』

 僕は言葉を喋れないもの同士の場合、目を合わせるだけで何を喋りたいのか解ってしまう。これは僕の異端者としての能力で、彼女は最近になって知ったようだ。ちなみに、異端者とは人間だけになるものではない。僕は昔ウィルと一緒に旅をしていた頃があり、その時に色々あって異端としての能力を手に入れてしまったのだ。そういうわけで、シオンと筆談ではない会話が出来るのは僕だけなのだ。

『確かに。そんな服着るね』

 僕がそう返すとシオンはいつもの笑顔を見せて笑ってくれた。

「あ、シオンちゃん。意外と近くにいたんだね」

 ジョンの服を色々と選んでいたエリーが僕たちのところにやってきた。

「ジョンのほうはそろそろいいから、今度はシオンちゃんの服を選んでみよう」

 シオンはエリーの言葉に対してうなずく。エリーの服選びのセンスは僕も認めてしまう。ウィルの服も選んであげればいいのにと思ってしまう。ウィルは暗い服しか着ないから結構エリーならいい服を選んでくれるはずだ。

 二人は女性物のコーナーに進んでいく。僕もそれについていきながら、ジョンの姿を探してみるが見渡す限り、ジョンらしき人物は発見できなかった。たぶん、自分の服の会計を済ませたらいつものように店の前の石段に座り込んで待っているのだろう。

「これなんかどう? シオンちゃんに似合うかも」

 エリーは一着のセーターを取り出していた。それは全体的に黒いセーターだが、胸元にちょこんと小さめの天使の羽根が描かれているだけの服だった。しかし、シオンは気に入ったようで、大きく頭を上下させると早速試着室へ行ってしまった。

 上を着替えるだけなので、シオンはすぐに出てきた。キラリと光る金髪に対して漆黒の服という光と闇のような対極差が意外にシオンの雰囲気に似合っていた。それに加えて、胸元の天使の羽根がすこしばかりの可愛さを主張していて、なんともいえなかった。

「うん。やはりあたしの眼力に間違いは無かった。ねー、レオンー」

「にゃー」

 僕はエリーの問いかけに答えるように鳴いてみた。

 褒められたシオンはなんとも嬉しそうな笑顔を見せて僕に目線を合わせてきた。

『どうかな? レオン』

 シオンは僕に同意を求めるような眼で見つめた。実際もうエリーの褒めに同意したのだが、僕以外にとってあれはただの鳴き声にしか聞こえないので聞いてくるのも不自然ではないだろう。

『うん。いいと思うよ』

 僕は素直にそう答える。すると、シオンはまた嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

『ねぇ、レオン――』

 シオンはしゃがみこんで僕を撫でながら目線を合わせ、語りかける。

『――ウィルもこの服、褒めてくれるかな』

 唐突に、ウィルが出てきた事に僕はすこし驚いてしまった。驚いた拍子に即答する事が出来なかった。

「よーし、シオンちゃん。それは決定ね。じゃ、もう少し探してみようか」

 僕が返答を悩んでいる間にエリーが邪魔に入ってくれた。これは偶然だろうけど、ありがたいと思うしかなかった。

 エリーの言葉に反応して、シオンは話を打ち切ってエリーの元に向かっていった。

 その後、シオンが試着したセーターとその他防寒具などを買って僕たちは隣町を後にした。その際、ジョンが可哀想に思えるほどの大荷物を持たされていた。

 そして僕はシオンの心に少しずつ変化が起こっていることに気がつき始めていた。


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