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 シオンが生まれて二ヶ月が経った。外はもうすっかり秋の空気になった。シオンはエリーやエリーの幼馴染である薬屋のジョン、そしてレオンと一緒に色んなところに出かけたりして色々知識や経験を増やしていき、少し女の子っぽくなってきた気がする。むしろ、エリーについて行って女の子っぽくなるのもちょっとおかしい様な気がするのだが、まぁ、そこはシオンの性格なのだろう。最近は原子分解が全く無い完全体のホムンクルスを造る研究の手伝いもしてくれている。

 午後一時半ごろ。この時間帯は食事の後片付けも終わり、僕は個人的に自由時間と決めている。シオンもこの時間帯は決まった場所にいない。今日はエリーたちの約束も入っていないようなのでたぶん館のどこかに入るのだろう。レオンも見当たらない。どこに行ったのだか。

僕は先日エリーに頼んで取り寄せてもらった小説が読み終わったので、本を持って書斎に向かっていた。僕の書斎は昔からの趣味である読書により読み終わった本を保管するためだけの場所となっており、既に本棚しかない部屋だ。なんせ何十年も色んな本を読み続けているのでかなりの本の量になってしまったのだ。整理して処分するにも、もったいない気がして処分できずにずっと残っているのだ。。

書斎に着くと、扉が開けっぱなしになっている事に気がついた。僕は開けたドアは必ず閉める性格なので、中にシオンかレオンがいるのだろうと思い、書斎に入った。

 書斎に入り確認してみると、窓に一番近い本棚を背もたれにして地べたに座って本を読むシオンがいた。カーテンから差し込む光がシオンの髪を輝かせる。まるで、絵画のような光景だと僕は一瞬感じた。

 その場に立ち尽くしていると、僕の気配に気がついたのか、シオンがこっちを向いた。

――あ、ウィル。どうしたの?――

 ふと、そんな声が聞こえた――気がしただけだった。シオンはこちらを見たまま首をかしげていた。僕はシオンに近づきながら声をかけた。

「やぁ、ここにいたんだ」

 シオンは本にしおりを挟んで懐から筆談セットを取り出し、サラサラと文字を書いて僕に見せてくれた。

『この部屋に置いてある小説は結構好きな物が沢山ある』

「そうなんだ。その本は……だれだったかな」

 僕はシオンが読んでいた本を取り、表紙を見る。

「あぁ、この作家か。僕もこの作家は好きでね、この人の本は全部ここにあるよ。結構古いんだけどね」

『この人の書く恋愛小説は今まで読んだ小説の中で一番好き』

「そうか。いや、やはりいい作家は誰にでも分かるものなんだろうね。僕もその人の小説は好きだよ」

 シオンは笑顔でうなずく。

「うん。じゃ、僕はこのあとやることがあるからこの小説置いたらいくね」

 僕が離れるとシオンは笑顔で見送ったあと、読書に戻った。僕は持ってきた本を棚に入れて書斎を後にした。

 同じ本を好きになる人が近くにいるのは嬉しい事である。やはりあの人の影響だろうか。あの人はさっきシオンが読んでいた小説をものすごく気に入っていた。

 ――あの人。

 数年前に死んでしまった僕にとっての最愛の人。僕が初めて愛し、僕の人生で幸せというものを実感させてくれた人。僕と同じ時間を歩んでくれた人。

僕はやはり、シオンと彼女を重ねていたのかもしれない。彼女の遺伝子を使ったから? 彼女と名前が同じだから? 彼女の仕草が似ているから? それよりも、彼女と姿が似ているからだろうか――


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