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 あたしの名前はエリザベス。みんなはエリーって呼んでいる。この町の雑貨屋の一人娘であり、看板娘である。この店は特に繁盛しているわけじゃないけれど、贔屓にしてくれている人がちらほらいるのでそこそこ経営は成り立っている。

 この雑貨屋、数年前は骨董品屋をやっていたのだ。だが、数年前にお父さんが死んでからは骨董品の目利きの出来ないあたしとお母さんしかいなくなってしまったので、とりあえず何でも屋のような感じで雑貨屋を始めたのだ。一応骨董品屋の名残で骨董品も置いてあるのだが、色んなものに埋まっていて手入れも施されていないしどこら辺にあるのかもわからない。

 基本的にはお母さんとあたしで暇な時に交代して店番をするのだが、今日は違う。今日は魔導師さんが来るのだ。

魔導師さんは町から少し離れた館に住んでいる。週に一回、魔導師さんは買出しのためにこの店にやって来る。本当はこの店、魔導師さんが欲しがるような一週間分の消耗品は取り扱っていないのだがお父さんの代からずっと魔導師さんのために準備しておいてあげているのだ。

ちなみに魔導師さんはあたしが子供の頃から青年の姿である。それは魔導師さんが異端者という特別な能力者だからである。異端者の詳しい事はよく分からないが、とりあえず不老ということしか知らない。

 魔導師さん、最近はホムンクルスといういわば人造人間のようなものを造る研究をしているらしい。そのホムンクルスが完成したら、いつかその子と二人でこの古びた雑貨屋に訪れて欲しい。そんな期待をしながらあたしは魔導師さんが来るのを待った。

 毎週水曜日の午後、魔導師さんはやってくる。その日は必ずあたしが店番である。

 お母さんはその日に店番をやりたがらない。と、言うより魔導師さんと遭いたくないのである。今やこの町のほとんどがそんな考えを持っている。数年前に起きた事件の原因が魔導師さんにあるからである。魔導師さんはこの町では忌み嫌われているのだ。あたしのように魔導師さんと仲良くしているのはこの町で指折り数えれるほどである。

 チリンチリン――

 出入り口のドアに付いてある鈴が鳴った。

「いらっしゃい――あ。魔導師さん」

「やぁ、こんにちは」

 噂をすればなんとやらである。魔導師さんはこんな真夏にいつもの頭から足元まで隠れてしまう灰色のフード付きのローブを着ていた。流石にフードはしていないが、やはり好きなのだろうか。魔導師さんはフードをしていないせいか、赤髪と髪に負けないくらい紅い色をした瞳がよく見える。いやぁ、かっこいいなぁ。

「今日の分は用意してあるよ――って、そちらの方は誰です?」

 魔導師さんと一緒に、魔導師さんと同じ灰色のローブを着た金髪の女性が入ってきた。

「見慣れない人だけれど…………はっ。まさか研究のためにどこからか拉致してきたとかっ!!」

「いやいや、そんなことしないよ。この子は以前言っていたホムンクルス。ついこの間完成したんだ。名前はシオンって言うんだ」

 金髪の女性は静かに会釈した。ローブの隙間から、彼女はローブの下に神官の法衣を着ていたのがちらりと見えた。

「え!? 本当に!? ホムンクルス、完成したんだ!? 嘘じゃないよね!?」

「いや、だからここに本人がいるって……」

 私はカウンターの椅子から立ち上がり、ホムンクルスのシオンちゃんに近寄る。じろじろとなめまわすように観察するが、彼女は口をつむっていた。

「へぇ〜、結構見分けが付かないんですね。本当の人間みたい」

 と、ここでふと気付く。

「……もしかして、この子、喋れないの?」

「あぁ、うん。まぁ、近いものではある」

 そして、魔導師さんは原子分解とシオンちゃんの原子分解条件を判りやすく説明してくれた。

「彼女にはメモ帳とペンを渡してあるから、彼女の発言は基本的に筆談だから。よろしくね」

 魔導師さんがそういうと、シオンちゃんはメモ帳を取り出して、『よろしく』と書いてあたしに見せてくれた。

「よろしく、シオンちゃん。あたしはエリザベス・コーラル。みんなからはエリーって呼ばれてるよ」

『私はシオン。これからもよろしく』

「あ、そうだ。シオンちゃんお古でよければあたしの服あげようか? どうせ魔導師さんの家になんてシオンちゃんに似合いそうな服、無いでしょー」

「ちょっとまて、エリー。いくらなんでもそんな事は無いぞ」

「いやいや、そんな事ないって。シオンちゃん、どうする? いる?」

『うん。ほしいな』

「ほら、魔導師さん。シオンちゃんだって他の可愛い服が欲しいんだよ。そんな神官でもないのに法衣を着てることなんてないんだよん」

「う……うん。まぁ、そうだな」

「はい決定。じゃ、来週来る時までに準備しておくね」

この一連のやり取りが可笑しかったのか、シオンちゃんは嬉しそうに笑っていた。

その笑顔は天使のような笑みだった。


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