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 レンガで出来た壁。ランタンで灯された薄暗い照明。机の上にあるビーカーやフラスコなどの実験器具のせいで、この研究室は異様な雰囲気をかもし出している。

 部屋には使い込まれた灰色のローブを着た赤髪の青年と、そこらへんにあった布で間に合わせたような服を着たショートカットの金髪の女性と、猫の僕がいる。

「まさか、これが欠けていたとは……」

 そう呟く赤髪の青年はウィルストン・ハイリア。僕はウィルと呼んでいる。魔導師であり、僕の飼い主でもある。彼は金髪の女性に魔法を使って色々と調べている。それに対して、金髪の女性のほうは微動だにしない。

「仕方ないか。生活に支障はないからひとまずは安心か……」

 ウィルは一息ついてから先ほどとは違う呪文を詠唱した。

 すると、彼女が初めてピクリと反応した。

「肯定だったら首を縦に振って、否定だったら首を横に振るんだ。わかったかい?決して喋ってはいけないよ」

 ウィルがそういうと彼女は首を縦に振った。

「よし、目を開けていいよ」

 彼女はゆっくりと目を開けた。吸い込まれるようなエメラルドグリーンの瞳が姿を現す。

「気分はどうだい?」

 彼女は思わず声を出しそうになったのか口が動いた瞬間、驚いた顔を浮かべるのと同時に口に手を当てて首を上下に動かした。

「それはよかった」

 彼女は周りをキョロキョロと見渡し、近くにあった机の上から紙とペンを取って文字を書いた。

『ここはどこ?』

 彼女は不思議そうな顔をしながら書いた紙を見せる。

「えーっとね。ここは僕の研究室。君は僕が造り出した人造人間・ホムンクルスなんだ。限りなく人間に近い存在として造り出したから君には自覚がないだろう」

 赤髪の彼はホムンクルスの説明を始める。

今までのホムンクルスは空気に触れたり動いたりほんの些細な事で原子分解という泡と共に原子単位に分解されてしまっていたのだ。しかし、彼の研究により魔法と錬金術の合成によりそれを最小限に抑える事に成功したという事。さらに造る際に人間の細胞を混ぜる事によってより人間らしく物事を考えたり行動したりする事が出来るようになった事。その他にも色んな研究成果により、彼女はこうして生まれた時点で基礎的な知識や言語理解も可能になった事。その間、彼女は静かに聞き続けていた。

「で、ここが一番重要なんだけれども」

 先ほどとは違うトーンでウィルは切り出す。

「君に残っている原子分解の条件なんだけれども、さっき調べて一つだけ見つけたんだが」

 先ほど調べていたのはそれの為だったようだ。

「君は言葉を発すると原子分解してしまうんだ。だから喋ってはいけないよ。喋ってしまうと君の存在は消滅してしまう」

 ウィルの声にはなにやら重みを感じる。僕にはそれが理解できる。僕はその理由を知っているから。

「僕はここ数年、完全なホムンクルスを造り上げるために研究しているんだ。だから君を失う事は、僕にとって今非常に惜しいことなんだ。だから、どうか約束してくれ。お願いだ」

 ずっと話を聞いていた彼女はこくりとうなずいた。

「ありがとう。あぁ、そうだ。紹介がまだだったね、僕の名前はウィルストン・ハイリア。ウィルと呼んでくれ……って、すまない。喋ってはいけないんだった」

 それを聞いて、彼女は笑った。その笑顔を、僕は何年か前に見た覚えがある。凄く惹かれる可愛い笑顔だと僕は思った。

「それと、こっちがレオン。結構長い事飼っている僕の猫」

 彼は机の上で見ていた僕を紹介した。僕はなんだか照れくさくて彼女から目をそらしてしまった。

「とりあえず、君の名前も付けないとな……。何がいいかな……」

 僕から注目が外れたようなので僕はまた二人のほうを見た。

 すると、彼女はさきほどから持ち続けていた紙とペンを使って三つの文字を書いた。

 その紙をウィルはじっくり見つめてから、

「『シオン』か……。いい名前だね。よし、君の名前はシオンだ。よろしくね、シオン」

 彼は手を差し伸べ、彼女はその手を握った。


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