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貴方の”I”を、もう一度。  作者: 青鷺 長閑
8/12

B’:Another cooperation

 五月三日。

 あと二日で子供の日とかはどうでも良い。

 

 連休だ。GWだ。


 と言ったところで特にやることもないが、とりあえず昨日、もといテスト期間までの疲労を癒えさせてもらおうじゃないか。

 本来ならば一介の進学校生、ここで受験に気持ちを切り替えなければならないが、いかんせん昨日の調子である。一日二日羽をのばしても罰は当たるまい。


 そう思って、せっかくいつもの時間に起きたのを惜しんで早速二度寝に移行しようかとしていた矢先、電話が掛かってきた。

 麗菜からだった。

「買い物に付き合って」



「まったく、いい迷惑だぜ」

「ははは、悪かったわね」

 俺達が向かったのは何のことはない、デパートだった。なんでも、明日が父親の誕生日らしく、そのために今日プレゼントを買っておきたいのだそうだ。

「にしても献身的だな」

「そう? 普通だと思う」

 俺なんて身内どころか自分の誕生日すら覚えてるか怪しいのに。

「アンタってホント、バカねぇ」

「で、何買うか決まってんのか」

「んー、大体はね」

 要するに身内へのプレゼントだ。母の日や父の日と同じ扱いをすれば、月並みなものしか出てこないだろうな。父親へならネクタイ、ワイシャツ、趣向を変えて酒のツマミ、その辺がまぁ妥当な線か。

 麗菜が俺を連れてやって来たのは、電車で十数分、降りて徒歩数分の名のある大型ショッピングセンターだった。こういう買い物をするとき、都心が近いと言うのは結構なアドバンテージになると思う。

 全国展開しているとだけあって、とにかく広い。いや、都心のそれこそ本店か何かですかという位置にあるから特にそうなのかも知れないが、普通に眺めて回っていては到底一日で全てコンプリート出来るような広さではない。とにかくそれくらいの尋常でなさなのだ。

 ちなみに俺はここに来たのは今回が初めてというわけではない。年に数回、やはり家族と来たこともあるし、私用があり一度一人で来たこともある。

「それで、どこで何を買うんだ……あれ?」

 入り口を入ってまっすぐ、考え事はしていたものの麗菜と並んで歩いていたつもりが、当の本人がいないではないか。

「あ、これ可愛いなぁー」

「…………おい」

「え? あ、ごめんごめん!」

 周りを見渡すと麗菜は少し先、右手にある……何だ、ファンシーショップ? なる店の前にいた。これだからあまり女子と買い物には行きたくないんだ。ウチの妹が良い例だからな。一つの場所をテコでも動かないとかそういうのじゃなくて、さんざんウロウロ歩き回った挙げ句気付けばショッピングセンター失踪事件になってるんだ。他の女子と買い物になんて行ったことがないから一般化して良いのか分からなかったが今それが証明された。うん、女子ってのは怖いね。

「あれが親父さんに買ってあげるものだったのか」

「違うわよ、んなわけないでしょ」

「知ってて言ってんだよ」

「ザ○キ」

「ごめんなさい」

 俺はただ女子のそういう、見れば買いたくなるみたいな習性をそこはかとなく揶揄して、ただ目的を遂行することのみによって得られる時間の尊さを伝えようとしただけなのに、なにゆえ即死呪文など唱えられなければならんのだ! 一応謝ったけど!

「そうね、さっさと買っちゃいましょう。でね、お父さん、来月から海外出張なの。だから、」

「なるほど、なら食いモンとかよりかは海外でも長く使えるような実用的な物が――」


「キ○ラの翼にしようと思うわ」


「それはぜひ欲しい!」

「でも一枚4万9800円もするのよね」

「いやそれで売ってくれるならそれでも喜んで買うわ! ていうかお前、ザ○キ唱えられるならル○ラくらい余裕だろう! それで親父さん飛ばしてやれよ! ついでにお前も観光してこいよ!」

「将也、うるさい」

「お前が播いた種じゃないかー!」

 というかこの話やめよう、うん。何かよくない、何か分からないけどこの流れは何かよくない!


* * * * * *


「結構回ったな」

「まぁね。一応大体の目処はつけてたんだけど、いざ見てみると色々良さそうなのがあって」

 時間帯的にはちょうどお昼をちょっと過ぎたという頃だ。

 一通り館内を回った後、どうせなら昼食もここでという話になって、3階のフードコートで一休みしているところだった。

 麗菜が父親の誕生日プレゼントに買ったのは、ネクタイピン、合皮の財布、それから小さなブローチだった。こいつ、割と金持ちだったんだな。

「……あんた今何か失礼なこと考えてなかった?」

「いやいやとんでもございません」

 こいつ、割と読心術の心得があったんだな。

「で、これからどうすんだ。もうちょっと何か見たいのあるか?」

「そうねぇ、これ以上買っても何だし、今日はもう良いわ」


「じゃ」

 昼食を食べ終わってもう一度軽く散策をした後、来た時と逆の電車に乗り、地元の駅前広場で別れることとなった。

 そう言って帰りの方面に踵を返しかけたときだった。

「ま、将也っ」

「何だ?」


「今日は……ありがとう」


 言った麗菜の顔は下りかけた太陽の照らす光のためか、紅潮していた。


「ああ」


 ちくしょう。


 ちょっと可愛いじゃねえか。


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