A-3:Reminiscence of you and me
「将也ぁー、遅刻するぞぉ!」
「あぁ分かってるよ!」
よく晴れたある朝のこと。
特に何の感慨もなく高校生活最後の一年を向かえて二ヵ月。中間テストも実施から返却まで一通り終わり、世間ではいよいよ待ちに待った、と言った感じであった。
そのせいか俺もついつい夜更かしが多くなってしまい、こんな遅刻寸前の朝を過ごすのにも慣れていたのだった。
ちなみに勉強する気など毛頭ない。アルワケナーイ。何をしてるかって、そりゃお前、健全な男子高校生が夜更かしだぜ。
まぁ簡単に言ってしまえばテスト期間中に自慢の1TB・HDDに溜め込んだドラマを連日見ている、というだけなんだが。
ともかく、いつものように二階の自室で着替えて下におり朝食を済ませる。何故か我が家では某朝専用缶コーヒーが毎日出てくる。ついでに言えば、某朝専用リンゴ果肉入りヨーグルトも。「○○専用」って字面にとことん弱いタイプなんだな、ウチの親は。
そのくせ大学の教授なんてやってら。何を専攻に教えてるのか分からないが、とにかく誰に似たのか勉強熱心なことだ。普通言う立場が逆か。
「いってらっふぁーい」
「……行ってきます」
間延びした声も、それに呆れた感じで応答するのも二人分だ。前者は額に「眠い」とでっかく書いてある母親と、俺以上に遅刻常習犯らしい中学の妹。モグモグしながら喋んな。
後者は俺と父親。両親とも同じ大学の教授で研究家だが、基本的に出向いているのはもっぱら父の方である。
「おはよーう」
学校に着くとこれまた間延びした男の声で挨拶をしてくる。
「おう。毎日眠そうだな、達樹」
「それはお前もだろうよ、っと」
担任が教室に入ってきて、ホームルーム、始めるぞ、という声が聞こえたので、達樹と俺はそれぞれの席についた。
俺の席は窓際後ろから二番目。その前が達樹で、隣は麗菜。達樹というのは同じサッカー部で、去年も同じクラスだった友人だ。
県立浦和高校、3年A組。
そこではいつもと変わらない授業風景が描き出されていた。
放課後。
浦高の部活は大抵平日はどこも似たような時間に始まって似たような時間に終わる。今は夏季時程で動いてるから、少なくとも運動部はみんな六時半に終わるのだ。
俺はいつも帰るメンバーが決まっていて、みんな一緒の地域に住んでるわけではないのだが、さっきの麗菜、それから一年の時に同じクラスだった男子一人、女子二人とともに帰っていた。
「それでさ、大政のヤツ面白いんだよ――」
話題を提起するのは、大体優希。本当なのか嘘なのか知らんが、毎日性懲りもなくアホらしい話を持ちかけてくる。
俺もそうだが、どいつもこいつも、受験生って気分じゃねーな、全く。
「じゃあね。また明日」
三人とは電車の途中で、同じ地区に住む麗菜とだけ、降りた駅で別れを告げた。俺は駅前の交差点を左に曲がって自転車で帰るが、麗菜は寄りたい所があるのだそうだ。
「ああ……って明日からアレじゃないか」
適当に返事したは良いが、明日なんて学校に行かない。麗菜分かってるんかな。
当月の特権であり怠惰の骨頂。
ゴールデンウィークだ。