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「ところでメアリーお姉ちゃん。図書館に泊まり込みまでして、どんな難しい勉強をしているの?」

「アニー。それ難解云々じゃなくて、単に姉さんが度を越えた不精者なだけよ」 

 そんなやりとりを交わしつつ、揃ってチョコ掛けの輪っかをぱくり。甘味に満足して薄いインスタントコーヒーを啜り、お勉強つーか、仮設住宅の主が口を開く。

「私が今やってるのは卒論さ。提出は半年先なんだが、如何せん調べなきゃならん資料が膨大でな」

「ああ、巷で地獄とか言う例のアレ」

「ま、私の場合テーマは大分前に決めていたから、峠は七割方越えたようなもんだよ。ゼミの他の連中ときたら未だにそこで躓いてて、まだ一行も書けてないんだぜ」

「ふーん。どんなテーマ?」

 興味津々な問い掛けに、そうだなぁ、メアリーは珍しく言い辛そうに白い首筋をポリポリ。

「うちの親類には医療関係者もいないし、お前達もまず知らないだろうな。―――私が今書こうとしているのは、『新生児大量死現象』についての仮説だよ」

「新生児、大量……何か、言葉の響きだけで怖いね」

 怯える妹を横目に、ふーん、強気な眼差しで掌を返す次女。

「如何にも姉さんらしい、センセーショナルなテーマだって事だけは分かったわ。でもそれ、よくある医療事故とかじゃないの?若しくは院内感染とか」

「いいや、全然別物だ」

 差し出された二個目を受け取り、医学生はムシャムシャ。

「死因は何れも謎の心肺停止。そして多い時には、一日三十人以上の赤ん坊が命を落としている」

「えっ!?」

「何ですって?」

 二人が驚愕した時、おーいメアリー、外からテーブルクロスが開かれた。浮浪者同然の格好をした青年の不運は、侵入のため踏み込んだ場所がアニーのすぐ正面、しかもルーシーの射程範囲内だった事だろう。


「お、可愛い子ちゃんが二人も!初めま」「アニーに近寄らないで!!」ガンッ!


 見事な肘打ちを鼻に喰らい、どーん!男は映画さながらにもんどり打って気絶した。




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