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「とりゃっ!」ガンッ!「おらどけっ!!」バキッ、ドガッ!!


 戦略的相談は割愛。隊列は戦闘経験者のロウを先陣に、キュー、殿をアランが固める形となった。そのまま距離が近い方の階段へ突撃し、小鬼を半ば突き落とすように排除して駆け降り始める。大騒ぎを聞きつけ、塀の傍で待機中の人形達も集まって来る。その数、約十体。 

「チッ!向こうの奴等は任せたぞ、先公共!!」

 快諾を聞くか聞かないかの内に、少年は一・五階の踊り場の柵を乗り越え、地面目掛け自由落下。頭上からの予期せぬ奇襲に、密集する敵陣が一瞬停止。その絶好のチャンスを、狼少年が見逃す筈も無かった。

 まずは体重と重力を乗せたドロップキックで、真下にいた一体を。続いて沈み込む足場の上で肘と拳を揮い、二体三本の脛を叩き折る。紙片化には最早見向きもせず、生来のファイターは四方からの攻撃を逃れるため、正面にいた敵の肩を掴んだ。

「でいやっ!」

 驚異的な跳躍力で再度宙を舞い、今度は両腕で二体の頭を掴む。そのまま勢いを保ちながら落下した結果、自然に強い捻りが生まれ、


 グキッ!!ゴキッ!!頚椎が砕け、瓜二つの首の前後が反転した。


「きゃっ!?」

「意外とエグい事するな、ダイアン」

 転倒の巻き添えを喰らった三体にバットでトドメを刺しながら、俊敏さに劣る体育教師が言った。在り来たりの感想にフン、不良少年は鼻を鳴らす。

「もう人形だってネタバレしているからな。人間相手じゃ出来ねえ奴をちょっと試してみた」

 大昔に父親との組み手で大失敗した技だ。あの時は逆・逆十字固めを決められた挙句、観戦中の母親にこっぴどく叱られた。こんな隙だらけの大技、武芸百段に通じるかっての!

「やぁっ!」

 ビビビッ!プシューッ!スタンガン&唐辛子スプレーの二刀流で、一瞬にして二体を無力化する音楽教師。一方の幼馴染は、剣道張りの突きで三体同時に相手をしながら、こっちは任せろダイアン!最前線へと声を張り上げた。

「お前はキューを連れて、先に向こうの安全を確保しておいてくれ!!」

「了解!行くぞ、先公!ボヤボヤしてると置いてくからな!!」

 親友の話が本当なら、敵は残り十数体。もう一暴れには申し分無い数だ。

 女教師を連れ、マンションをぐるりと半周して細い裏路地へ。街灯が疎らにしか無いため、晦冥に敵が潜んでいてもパッと見では分からない状態だ。

「やっぱり大通りじゃないから暗いね。どうする?ライトなら私持っているけど」

 そう言って、スタンガンとは逆のポケットをごそごそ。しかし生徒は親切な彼女を制止し、強引に細い手を取った。

「この程度の暗がり、いちいち照らしてられるか。一気に突っ切るぞ」

「でも」

「気配があったら教える。ここでボケッと突っ立ってる方がよっぽど危険だ。とっとと行くぞ!」

 だから女って奴は面倒臭えんだよ、そう内心ボヤきつつ走り出す。しかし勿論引き摺って行く訳にも行かず、全速力の二十パーセントでの先導だ。

(いっそ担いだ方が早いんじゃねえか、これ?)

 早くも息切れしている連れを忌々しく思いつつ、更に十パーセントスピードダウン。最早歩きと変わらない速度だ。

「ご、ごめんね、ロウ君……こんな事ならもっと、普段から鍛えておけば良かったね……」

 ゼーゼー。

「体力無えな、見た目通り」

 これが親友なら優しく介抱する所だが、生憎恋敵に掛けてやる情けは無い。だが余りにも荒い息が治まらないので、流石に背を擦ってやった。

「おい、ホントに平気か?喘息持ちかってレベルでえづいてるぞ」

「こ、こんなに全力で走ったの、大学の時講義に遅れそうになって以来だから……!」

「分かった分かった。あいつ等殲滅したら、自販機でジュース奢ってやる。だからもうちょっとだけ頑張ってくれ」

 十歳も上の奴を物で吊るなんて、と自分でも思ったが、ツルペタ女には効果覿面だった。途端に諸手を上げ、ロウ君、早く早く!スキップで先行し始める。

「あ、こら!?俺より前に行くな!!」

 子供か手前は!?そう内心ツッコミを入れつつ、少年は白いワンピースの背をアッサリと追い抜いた。




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