2
(落ち着け、俺……今度の相手はモノホンの犯罪者。『あの女』よりはまだマシじゃないか)
忘れかけていた嫉妬が蘇り、ジリジリ胸が焼ける。
あれは二年前、季節は丁度今頃。ショッピング帰りに通り掛かったレストランで、偶然発見してしまったのだ。終ぞお目に掛かった事の無いような柔らかな笑顔で相手と食事する、母の姿を。
生憎窓越しだったので、色白の横顔と腰まである長い金髪しか見えなかった。しかし一年半後、今度は別のレストランで見かけた時、ロングヘアは見事な桃色になっていた。
―――母さん、昼間一緒にいたあの女誰だよ!?今日はオフだから、依頼人とは会わない予定の筈だろ!?
―――……見ていたのか。彼女は、シスターは私の古い知人だ。
後日こっそり携帯を検め、プライベート設定の中にその名を見つけた。顧客ではないため、同期された電話帳では未登録。即ち、俺の携帯から掛ける事は出来ない。
―――けど、あんな高い店に二人っきりで!?
―――……(溜息)安心しなさい、お前が想像するような関係ではない。間違ってもお前の義母にはならんさ。
だから?俺がハッキリさせたいのはただ一点。あの女と俺、どっちが恋人で浮気相手かって事。そんな極簡単な理屈、賢いあんたなら分かっているくせに。
―――ほらほら、写メ!これでもまだ勘違いって言うのかよ!?
―――心配し過ぎですよ、ミトさん。
(ハイネ君の言う通りだ。止めよう、堂々巡りにしかならない。そもそも、肝心の母さんが帰って来なきゃ……くそっ!黄龍め!!)
腹の底で煮え滾る怒りを覚えつつも、一応弁護士の端くれ。人命第一と、粘り強く交渉を提案し続けてきた。しかし結果は、
(いい加減にしてくれよ!母さんはとっくに足を洗ったんだ。お前等とはもう何の関係も無い、真っ当な一般人なんだぞ!?)
不謹慎だが、あの場に友人が残っていてくれて助かった。俺一人では狼狽と憤怒に支配され、現場を滅茶苦茶にしていただろう。
(駄目だ。血糖値の下がり過ぎで、思考がループしてる……パスタは止めて、ここはガッツリカツ丼弁当にしよう)
うぅ。こんな不摂生お夜食も、あの人ならやんわりと止めてくれるのに。代わりにシナモンの効いた、甘めのホットミルクを作ってくれて……ヤバい、思い出したらまた涙が……。
ブーッ!ブーッ!「ぐすっ……チッ。こんなド深夜に、非常識だぞ……」
マナーモードの携帯を開け、発信者を確認。公衆電話から、って事はジョシュア達やハイネ君じゃないな。間違い電話にしても遅い時間帯だし、一体何処のどいつだよ?
釈然としないまま俺は通話ボタンを押し、左耳へと押し当てた。
「はい、もしもし―――」




