二章 聞き込み―――六月四日
―――……がっ……あ………げっ……!
粘着質な暗闇を、揺らめく蝋燭の炎が辛うじて切り開く空間。そのか細い光に照らされ、壁に掛けられた五振りの小刀が妖しく輝く。柄から鞘に至るまで赤、青、金、白、黒、各々一色で塗られた―――禁忌の呪具。
―――な、何故だ、紫……?お前程、私を継ぐに相応しい者は……。
―――はぁ?何言ってるのさ、薄汚い人殺しのくせに。
鮮血に柄まで塗れた折り畳みナイフを手に、僕は床で転がった女へ吐き捨てる。
必殺の一撃はわざと心臓を掠め、両肺を潰すに留めてやった。目的は勿論、最後の一息まで存分に苦しめてやるためだ―――でなければ到底、彼女を喪った僕の気が済まない。
―――父母等の恨みか……見損なったぞ、紫……。教えを素直に吸収したフリなぞして、ずっと復讐の機会を窺っていたのだな……?
―――あのさ、勝手に決め付けないでくれる?化物風情が。
手中で凶器をくるくる弄びながら、侮蔑を籠めた眼差しで広がり続ける血溜まりを見つめる。
―――僕はあんたの教育の賜物で、最終試験を無事パスした。けど、やっぱ不自由なんて御免だから出て行くだけさ。こんな酷い場所、僕みたいな可愛い美少年が住む所じゃないものね。
―――馬鹿な小僧め………年を取らぬお前がここを離れ、一体どう生きて行けると言うのだ……?
―――さぁね。少なくとも血腥い穴倉で一生を終えるより百万倍マシさ。
パチン!昨日までの師匠、かつて生家に押し入った暗殺者に与えられた凶器を仕舞う。
―――……それにひょっとしたら、こんな僕でも受け入れてくれる奇特な家族が見つかるかもしれないし、ね。
喀血。人の皮を被った悪鬼は地面の岩肌に爪を立て、血走った目で僕を睨んだ。
―――……この、裏切り者め………我と、我等が守護神の名に措いて、地獄の果てまで呪われるがいい!!!!