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 解放された人工障壁の隙間を抜け、上空に出現した漆黒の中型宇宙船。機体を仰ぎ見つつ、僕等は乗り場の四方に散開した。

 停泊通信を入れてきたのは、低音ボイスの男。ミトが応対する横でジョウンにも聞かせてみたが、確証は得られなかった。かく言う僕も似ているとは思ったが、同一人物かと訊かれれば首を捻る状態。如何せん都に滞在していた頃、黄龍はまだ僕と変わらぬ子供だった。判断が付かないのも当然だ。

「降りて来たらミト、まずは君が相手しろ」

 僕とジョウンは顔が知られている上、アダムは後ろ手にクローディアを持っている。束の間とは言え、油断を誘うなら危険なファクターは取り除かねば。

「了解。で、何時ボコっていいんだ?」

「君なんかが敵う相手じゃないよ。お前は会話で注意を逸らす事に全力を注げ。奴は僕がどうにかする、二人は援護を」

「ああ」

 親友である獅子の骨剣を携え、“蒼”が静かな闘志を湛え頷く。一方、隣の昼行灯は聞いているのかいないのか、はーい、相変わらずふよふよとした態度。先程ケチャップだのデミグラスだの言っていたので、大方ディナーへ心を飛ばしていたのだろう。全く、一号に続いて不真面目な居候め。

 指示を飛ばしている間に、旋回した船体は安定して着陸。後方の排気口から煙混じりの水蒸気が吹き出し、ブロロロッ……エンジンが停止した。

(さっきの通信に因ると、乗組員は一人。昨日の今日だ、向こうも罠だと気付いている筈。にしても幾ら長とは言え、単身出撃なんて良い度胸だね)

 腰の小刀に手をやり、出入口を睨み付けながら心中呟く。と、ガチャン。ロックが外される音がした。

 ギイッ……トン。降り立った人物を視認した次の瞬間、少し離れた所から咆哮が上がった。


「別人だ!くそっ、あの野郎!!」「へ?」「待て、アダム!?」


 突如駆け出して来た職員に乗組員、左耳の欠けた黒髪の三つ編み男は驚愕に目を細める。だが〇・一秒後には唇を歪め、持参した鞄を地面へ。空けた右手を首の後ろへとやった。


「手前はお呼びじゃねえぞ、爆弾魔!!」ガキィッ!「チッ!」


 必殺の一撃を、背中から取り出した青龍刀で受け止める暗殺者。手荒い歓迎がお気に召したらしく、ほう、不敵な笑みで強襲者を観察する。

「えらく気概のある餓鬼だな。何処のどいつだ?」

 ニヤッ。

「生憎俺様、昔から記憶力に難があってな。殺した途端に獲物の情報を忘れちまうんだ。さあ、手前は誰の復讐だ?家族か?恋人か?はたまた」

「勇敢な猫達だ。ついでに下らねえスポーツマンシップと友情で縛られたチームと、暇潰しの観客共―――アダム・ベーレンス。手前が殺し損ねた『ホーム』の人間だ」

 剣を一旦引き、立てた親指を下へ向ける。

「思い出したか、偽ピッチャー野郎」

「ああ……へえ、まだ生きてたのか手前。こいつは兄長に報告し直さねえとな―――今日改めて始末した、ってよ」

 黄色い生地に時鳥の刺繍が施されたカンフー服を纏う敵へ、僕も距離を取りつつ詰め寄る。

「消去法的に考えて、君が白龍バイロンだな。君みたいな小者を寄越すなんて、黄龍は一体何を考えている?」

「おい、訂正しろ糞餓鬼。俺が小者だと?手前等虫ケラ如き、兄長が手を下すまでもねえ。だから俺が来たってだけの話だ」

「要するに体のいい掃除屋か。ハッ、鳥頭にはお似合いの役だな」

 おいおい、あんまり挑発し過ぎるなよ。西方の守護者白龍は、“龍家”の武力を司る者。先のテロ紛いの残虐行為でも、その異常な戦闘能力は明白だ。

「止せよアダム。なあ、あんたは黄龍の代理で来たんだよな?」

 ミトは僕の腰を指差し、刀はくれてやる、平身低頭。

「だからその代わり、俺達に母さんを返してくれ」

「母さん……あぁ、手前が噂の義息か。なら―――」

 一気に膨れ上がった殺気に硬直する友人の元へ、僕とアダムは駆け出す。


 バッ!「―――手足は捥いで構わないんだったな」「わっ!!?」「伏せろ、ミト!!」


 だが放物線を描いて投げられた爆弾は、何故か破裂しないまま地面に落ちる。グチャッ!四方八方から不可視の力に押さえ付けられ、爆発の衝撃が完全に封印されたせいだ。




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