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「!!?そうか、チューニングハンマーだ!!」「へっ?」


 阿呆面を晒す阿呆に、僕はたった今組み上がったばかりの推理を披露。

「お兄ちゃんの記憶に因れば四日の夕方、弁護士は誰かを待っていた。そう、自分が呼んだ調律師を、だ」コンコン、閉じた蓋を叩き、「この家との最後の思い出に、君等へこいつの音色を聴かせるために」

「え……?でも、言われてみれば………」

 眉間に皺を寄せる住民。

「ここに引っ越した時母さん、これ見て吃驚、いや。怯えていたんだ、あの人……訊いても教えてくれなかったけど」

「ふーん」

「でもこの間、ハイネ君と偶々声楽部の話題になったんだ。『ピアノ習っとけばセッション出来たのになー』って思い付きで言ってたら……お前なら簡単だって、そうか……俺達があんな話してたから」

 如何にも息子想いな彼女らしい行動だ。或いは好い加減、忌むべき過去から脱却したかったのか。何れにしてもその決意は、最悪の形で打ち砕かれたのだが。

「待て。じゃあまさか、黄龍の奴は……!」

「ああ。その日、幸運にもここへ派遣された調律師だよ」

 詳しくは知らないが、調律師はフリーの自営業者が多いらしい。大抵は登録した楽器会社から委託で業務を受け、電話一本で宇宙の果てまで駆け付ける。当然売り込み活動無しでは回ってくる仕事も少ないが、暗殺の片手間仕事としてなら適当だ。

「チューニングハンマーってのは、ピアノの中にあるピンと言う部品を回す道具さ。各鍵盤に繋がる弦の張り、つまり音を整え」

「不動産屋!!」

 ポケットから携帯を引っ張り出し、共有設定された電話帳を開く。昼間と言う事もあり、二コール目で相手は出た。

「ああ、度々済みません!ラブレ北区、七丁目十二番地のミト・ジェイです。母が数日前そちらに依頼したピアノの件で―――あ、はい!えっと」

 チラッ、微かに申し訳無さげに僕を一瞥。

「実はその、親戚の子供がピアノの中を悪戯してしまって。宜しければこの間の調律師さんの電話番号、教えて頂けませんか?母も頼めるならあの人が良いと言っていますので………あ、そうなんですか……ええ、なるべく早目にお願いします。はい、はい……」

 ピッ。

「僕はそんな餓鬼っぽい真似しないぞ。で、首尾は?」

「ビンゴだ。お前の言う通り、父さんは四日の午後に調律依頼を出していた。しかも担当者は不動産屋に『特に作業の必要が無かったので、料金請求は要らない』と伝えてきたそうだ」

 何故なら唯一弾ける人間はたった今、自分が誘拐したのだから―――フン。とんだエセ業者だね。

「ただ野郎、登録以外の番号は非着信設定にしてるらしくてさ。だから今、不動産屋経由で打診待ち―――来た!」ピッ!「はい、もしもし!?」

 答えを聞くまでも無い。友人は何度も大きく頷き、グッ!無意識に親指を立てた。

「分かりました、午後六時ですね。はい―――はい、なら母とお待ちしています」

 会心の笑みで通話を終え、携帯を閉じる。

「今更だけど同じ住所に呼び出すのは拙くないかい?絶対勘付かれたぞ」

「は、誰がここで待つって言った?」

 ニヤッ、企みを含む笑顔。

「野郎は宇宙を飛び回り、且つ成人女性を運べる車まで持っている。つまり」

「奴が乗ってくるのは、車両の積み込める中型宇宙船。待ち伏せは船着場で、か」

 成程。フルチンスパイ野郎にしては珍しく冴えているじゃないか。

「確か個人向けの停泊所は、定期船乗り場から一キロ位離れた所だったね。―――分かったよ、事前準備は僕がやる」

 平日の夕方だ。一時間もあれば余裕で人払い出来るだろう。

 腰の青龍の鞘に触れながら、僕は音をさせずにソファを立つ。

「但し、相手は文字通りの怪物だ。昨日の女共とは格からして違うぞ」

「関係あるか!とっ捕まえて、拷問してでも絶対居場所を吐かせてやる!!」

「チッ、単細胞が……まあいいよ」

 暗殺を極めた奴には多分、おじさんの槍術ですら通じない。渡り合えるのはあの女、先代黄龍から業を学んだ僕だけだ。

(返り討ちの危険がある以上、ノコノコ全員では無しだね。となると僕とミト、後は誰を連れていくかな……)

「電話鳴ってるぞ」

「えっ?あ、本当だ」

 思考を一旦中断し、発信者を確かめる。おや、昼休み前なのに珍しい。さては留守番の猫達の餌でも置き忘れたか?疑問に思いつつ出る。


「―――はい、もしもし?」『拙い事になったぞ、ジョシュア』


 電話口のアダムは開口一番、苛立ちと困惑混じりで舌打った。




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