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 翌日、六月九日。今朝は昨夜の疲れか、九時までぐっすりだった。

 ようやくゴソゴソと起き出すと、四階で淹れて来たのだろう。リビングにいたミトは、コーヒー片手にニュース番組を観賞中だった。

「お、おはよ。とっくに二人共登校して、朝飯食ってないのお前だけだぞ」

 テーブル上のラップされたサンドイッチを示し、コーヒー淹れてこようか?気前良く尋ねる。

「いや、面倒臭いからミルクでいい」

 儀式と身支度を手早く済ませ、牛乳を注いだコップを手にいつもの席へ。フル回転し始めた思考が咀嚼を億劫がったので、流し込むように胃に収めた。


 カタン。「―――ねえ、ミト」「ああ」


 脳味噌に難のある友人でも、流石に僕の言いたい事が分かっていたらしい。小さく首肯。

「お前の想像通り、ハイネ君はワンポイントかストライプが好きみたいだぜ」「あぁ゛!?」バシッ!「ギャッ!いきなり何するんだよ!?」

 くそっ、こいつに一ミクロンでも期待した僕が馬鹿だった!

「誰が何時お兄ちゃんのパンツの情報が欲しいなんて言った!ええっ!?」

「昨日から散々裏切り者扱いされてるから、折角逆スパイしてやったのに!って言うか、今教えたのはシャツの柄だぞ」

 え。長い沈黙後、こほん、軽く咳払い。

「ま、まあ、折角だから好意は受け取っておいてあげるよ。君と違って、僕は健全で穢れと無縁の美少年だからね……」

「意外と分かり易い奴だな、お前」

 半ケツジーンズの隙間から出た尻尾をフリフリ。

「論理的に考えてみろよ。年頃の男の子の下着なんて、俺が知る訳無いじゃんか」

 こんな脳足りんに諭されるなんて、人生最大の屈辱だ。この落とし前は何れ着けねば。

「分かってるって、昨日のハイネ君についてだろ?俺達に黙ったまま、友達を武器持ちで待機させとくなんて水臭いよ」

 溜息。

「でもそのお陰で俺達、こうして今日も平和な朝を迎えられ……いや、やっぱりちょっと問題だよな」

 流石にこちらへの信用度が不十分とは思わない。犠牲を出さないため、彼なりに知恵を絞った結果だと言う事も理解出来る。でも、じゃあ、


―――お兄ちゃんにとって、僕等は一体何なんだよ? 


 このまま助けられっ放しでは、ただのお荷物ではないか。

「幾ら父さんの件で責任感じてるからって、あの態度は無えよ。そもそも巻き込んだ俺以上に冷静だなんて、絶対変だ!」

 ブンブン!尾を激しく回転させる。

「ジョシュア、あの子を捜査から外そうぜ!今ならまだギリギリ間に合うだろ!?」

 コップを置き、手遅れだね、腕を組みつつ返答。

「今お兄ちゃんを自由にして御覧よ。やっとの思いで五龍都に到達した僕等を、さぞや眩しい笑顔で出迎えてくれるだろうね」

「うっ!?け、けど、あのハイネ君なら充分有り得る……」

 手綱を緩める事も、締める事も出来ない悪馬を引いている気分だ。本人は気付いてもいないだろうが、その存在自体が“龍家”などより余程厄介で。


「―――ミト」「おう」「協力しろ。出し抜くぞ、お兄ちゃんを」


 スタンドプレーでは掴めない、決定的な情報。彼からの信頼と共に、何としてもそれを得なければ。しかも授業で拘束されている平日、出来れば今日中に。

「まずは懸念材料を払拭したい。付いて来い、時間は無いぞ」

 僕等は一斉に立ち上がり、出発の支度を開始した。





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