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「刀が五本揃ったら物凄くヤバいってのはよーく分かったよ―――けどさ、それと母さんに何の関係があるんだ?」


 義息が爪で背中を掻きながら、イライラとした口調で問う。

「あの人がその、青龍、だっけ?だったのは所詮昔の話だろ?すっかり足を洗ったのに、何で今更」

「……あ奴が十六、七歳、つまり約三十四年前。その時代は“龍家”の連綿と続く歴史の中でも、黄金期と湛えられた頃だった。最凶最悪の五龍の向かう所、如何な命の灯火も残らず消え失せる。私達“シルバーフォックス”はおろか、宇宙中のあらゆる組織、あの政府館ですらその存在に戦慄し恐怖したのだ」

 重い溜息。

「―――アラガ一門の大虐殺。経済界に明るいお主なら噂位聞いた事があるだろう、ベイトソン」

「僅か三ヶ月にして末系まで残らず暗殺されたと言う、逆の意味で有名な政治家一族ですね……!まさか、あのビ・ジェイ君が……!?」

「左様。奴等の抹殺作戦の全策を練ったのは、当時まだ成人もしていなかったあ奴だ」

「嘘だ!?あんな優しい人が人殺しに手を貸すなんて有り得ない!!」

「あー、はいはいミト。取り敢えずそこ否定したら話進まないでしょ?」

 獣の頭をグシグシ。

「って言うか、殺さなきゃ逆に始末される、しかも逃げられない状況ならフツー誰だって協力するよ。まして生まれ育った環境が暗殺を全肯定していれば、ねえ?」

「ミトさん。残念ですけど、僕もジョシュアと同意見です。ビ・ジェイさんは沈着冷静な上、記憶力も凄く良くて頭の切れる人だ。参謀にはうってつけの人材です」

 君には劣るけどね、お兄ちゃん。

「それに彼が知恵を貸したのは、家族を危険から守るためだった筈。特に赤龍さん、あなたは出生以来一緒にいる異母姉だ。そんな大事な女性が敵地で傷付かないよう、毎回脳細胞をフル活用していた筈です」

「まるで見てきたように言うの、童。―――ああ、その通りじゃ。月はただでさえ先代から、暗殺術を一切継承しておらんハンデを背負っておった。それ故毎夜毎夜遅くまで古今東西の戦術を勉強し、毎回綱渡りのような策で済まない、よくそうわらわ達へ謝っていたものじゃ」

 フン。刺繍糸一本でも綱渡り出来る“龍家”の一員にしては、えらく無用な心配だ。それが半一般人と直系の差、と言う事か。

「あれは忘れもせぬ三十三年前、歴で言うと六百四十二年の事だ。いきなり面会を申し込んできたと思ったらメアリーの奴め、私に彼女の保護を頼んできおった。絶頂期の“龍家”の者など匿っては戦争になりかねんと散々突っ張ねたのだがな、あの女は一向に引かなかった」

 昔からここぞと言う時には頑固だからなあ、メアリーは。

「確かに事情は酌むに値する物だったが、安価な仕事で火種が飛ぶのは勘弁。そう説得するとメアリーの奴、出世払いで五億出すと言い出しおった」

「ご、五億ですと!?そんな大金、とても一介の内科医に支払える金額では」

「だが、その厭に自信たっぷりな心意気を、私は買ってやった。いざ約束を破るようなら、在庫の山を押し付けておけば気は晴れたしな」

「共同執筆も大変ですね……」

 いっそ一思いに資源ゴミへ出せばいいのに。

「契約に従い、再び彼女が担ぎ込まれた際、私は入院病棟を焼いた。事前に部下に保護させ、用意した偽の死体を置かせてから、な」

「病院の、火事……つまり、あの話のオチは………成程。そう言う事か」

 『ホーム』一の怖がりの納得の頷き。

「その後、密かに治療と教育を受けさせ、現在に至ると言う訳だ」

「治療?先の話では、彼女は参謀格だった筈。なのに前線へも出ていたのですか?」

「………」

「いや、戦闘の傷ではない。守秘義務故詳しくは話せぬが……自律神経失調症、とでも言っておこう」

 それなら言われない方がまだマシだね。見事に何一つ症状を言ってないに等しい。

「とにかく保護された時点で、彼女は心身共に衰弱していた。現在の姿からは到底想像出来ないだろうがな」

 厭に含む言い方だな。だが、これで一つ納得した。ミトにあれ程強く同情を寄せていたのは、何の事は無い。自分自身が似た境遇だったからだ。

 一つ宜しいですか、当代?恐る恐る手を挙げのは“金”だ。

「ひょっとして、そのメアリーの借金は現在も……」

「安心しろ。あれならとっくに耳揃えて返してもらった。何でも『近年稀に見る程御都合主義な金蔓』を捕まえたらしくてな」

 パサッ。

「見事な現物一括払いだった。羨ましいの、私も一人欲しいぞ」

「あ、あぁ……そう、ですか……」 

 口の端を引き攣らせつつ、近年以下略はどうにかそれだけ呟いた。




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