4
―――“翡翠蒐集家”連続殺人事件。
軽く概要を纏めると、最初の事件は宇宙歴六百七十二年、六月一日。場所は“紫の星”のイレサで、第一第二の被害者は街の小学六年生。以来、“蒐集家”は不定期に数ヶ月の間隔を空けつつも、四つの異なる星で着実に殺人履歴を重ねていた。
カラーの解剖写真と医師の所見を見比べつつ、帰宅途中に購入したハンバーガーに齧り付く。しかし、味に気を取られている暇は無い。
(妙だな。普通は回を重ねる毎に技術が向上するものだけど、こいつは最初からほぼ安定している。いや、寧ろ……)
一件目と九件目の遺体写真を並べ、納得する。
(やっぱりだ……奴は、明らかに『殺し慣れて』いる)
方法自体は初めてでも、どの程度刺せば傷が脳に達するか、“蒐集家”は感覚的に熟知している。その証拠に、何れの死体にも過剰暴行の痕跡は無い。致命傷をきっちり与えた後、犯人は何もせず立ち去っている。金品すら取らずに、だ。
(単なる異常者かと思いきや、まさかのプロか。こいつは厄介だな……)
本職なら遺留品が残っていないのも頷ける。となると依頼殺人か?いや。被害者のプロフィールには出身地や種族(獣族二人、妖族一人、残り六人は人間)、家族構成や部活動に至るまで書かれているが、容姿以外の関連性は本当に何一つ無い。
(拙いぞ……流石にここで収穫ゼロじゃ、こっちも動きようが無い。辛うじて手掛かりになりそうなのは凶器だけど、それだって目星が付かない事には……)
こうしている間にも殺人鬼はゴーイング・マイウェイ・ルールに従い、新しい獲物を物色している筈。考えたくもないけれど……ハイネお兄ちゃんにもしもの事があったら、僕はショックで狂いかねない。
最悪の想像に走りかけた時、背後のエレベーターがチン、と鳴った。
「やれやれ。早出だったのに定時まで帰れねえとか、長時間労働過ぎるだろ。あー、疲れた!」「部活の顧問は免除されているんだから、そう愚痴らないの」
金属製のドアが開き、帰宅した教師達がそう言い合いながら降りて来た。
「ただいま、ジョシュア」
「よう、どうやら首尾良く行ったみたいだな。ところで、そのハンバーガーは?」
「ああ……忘れてた」
集中の余り、食事中だと言う事をすっかり失念していた。半分残ったファーストフードを口に入れると、バンズとパティはすっかりパサパサになっていた。
「まさか、帰って来てからずっと没頭していたの?……気持ちは分かるけれど、少し休憩した方がいいわ。続きは夕食の後にでも」
「気を遣ってもらって悪いけど、もう少し頑張ってみるよ。出来たら呼んで」
片手で紙包みを丸め、テーブルの下のゴミ箱へ入れながら頼む。予想済みらしく、分かったわ、でも無理はしないでね、桜は肩を竦めキッチンへと消えた。残ったアダムが資料と僕を覗き込む。
「初めて見たな、お前が熱心に何か取り組んでいる所。明日は雪でも降るんじゃないか?」
「かもね」
全天を人工障壁に阻まれた“赤の星”では、一滴の雨すら降らないけれど。
僕の気の無い返答に、家族は諦めたように深い溜息を吐いた。
「邪魔したな、悪かった。おーい、桜!先に部屋でシャワー浴びて来るぞ!」
「分かったわ。出てきたら配膳手伝ってね」
「ああ!」
そんな通常運行のやりとりを頭上に僕、孤独な捜査官ジョシュアは、改めて事件資料を一ページ捲った。