14
「ところで先程から気になっていたのじゃが、小僧。ここは何をする部屋なのじゃ?」
ズルッ!今更訊くのかそこ!?
「この大きな箱は何じゃ?こっちの金属の棒は鈍器か?随分ザラザラしておるの」先端に触れ、「強度はともかく、殴ったが最後洗い難そうじゃ」
「それはマイクと言って、歌を歌う道具ですよ。で、あれはテレビ。映像を映す機械です」
説明しつつピッ!リモコンで電源ON。以前来店時と同じメニュー画面が現れると、女の目が丸くなった。
「そうだ。折角来たんだし、まだ時間もあるから歌いましょうか」
テレビ脇から入力端末を取り、レディーファーストです、どうぞ、保健医に手渡す。
「え、私!?でも……」
「あ、もしかしてカラオケ初体験ですか?なら最初に使い方を教えておきますね」
自分だって一回しか来ていないのに、的確に説明。素直な生徒はふんふんと頷き、意外と簡単なのね、一旦初期画面まで戻す。
「そうだわ、赤龍。あなたが前に歌ってくれた歌の名前を教えて。もしかしたら入ってるかもしれないわ」
「小人唄の事か?」
「小人唄ね。ちょっと待ってて、検索してみるから」
「しかしあれは古い歌じゃし、探しても」
「あった!」
なぬ!?頓狂な叫びを上げ、食い入るように画面を覗き込む暗殺者。
「大分昔の人だけど、結構有名な歌手だったみたいね。十曲も入っているわ」
「こ、これが全て歌えるのか……凄まじい文明の利器じゃのう」
「なら三曲位続けて入れておきしょうか?」
「お、おう!是非頼むぞ、桜」
ピッピッピッ。
「はい。さ、マイクの電源を入れて」
「これか」カチリ。「よ、ようし。さあ、何時でも掛かって来るのじゃ!」
意気込み過ぎだって。って言うかキャラ変わり過ぎじゃない、このババア。
「私も持ち歌入れて、と。ジョシュアとレヴィアタ君は?」
「あ、僕等はいいよ。こっちで蛇達にご飯あげてるから」
ひらひら手を振って合図し、苦笑しきりのお兄ちゃんと肩を寄せ合う。
「にしても意外だな。初めてなのに先生、随分乗り気だね。家でよく練習してるの?」
「テレビとCDラジカセ相手にね。うち、基本的に音楽番組しか観ないから。アダムもああ見えて流行曲は詳しいんだよ」
「へー。ベーレンス先生の事だから、てっきり動物のドキュメンタリーでも掛けているのかと」
「ああ、駄目駄目」パタパタ。「あんなの基本ヤラセだから大っ嫌いなんだよ、あいつ。おまけに筋金入りの人間嫌いだし、桜は対人恐怖症だから」
「成程。番組選びも一苦労だ。僕も観ない方だと思ってたけど、上には上がいる物だね」
お兄ちゃんの納得を掻き消すように、テンションMAXの子守唄がボックス内に響き渡った。




