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 と言う訳で、イジけモード再突入の誰かさんはさておき、僕等は少年探偵の的確に纏められた話を拝聴し始めた。

「今から約二週間前の事だそうです。ミトさんが帰宅すると、リビングで知らない女性がビ・ジェイさんと口論していたそうです。見た目年齢は三十代前半。深紅のチャイナドレスを着て、右手首には例の龍のタトゥーが彫られていたらしいです」

「え?赤の、チャイナドレス……?」

 小さな疑問符を聞き逃さず、お知り合いですか、木咲先生?すかさず生徒が質問。

「あの、ひょっとしてとは思うけど……その女性、衣服の中に毒蛇を何匹も入れていたりする?」

「!?あいつを知っているのか、桜ちゃん!?何時何処で、ムギャッ!!?」

 早期復帰した奴の尻尾を踏ん付け、黙って聞け、動物使いのドスの利いた声。

「ジョシュアが記憶を戻してくれた前日よ。彼女、ハッキリ言ったの。私を、木咲 桜を殺しに来たって……」

「!!?おい、何で今まで黙ってた!?その状況、俺が襲われた時と全く同じじゃねえか!!」

 鋭く舌打ちする“蒼”。唐突な二つの告白に、アダムの言う通りだよ桜、それまで黙っていた保護者も言葉を挟まざるを得ない。

「まさか同じタイミングで、君達二人へ暗殺者が差し向けられていたとは……偶然にしては出来過ぎている」

「でも小父様。彼女、私を殺す事を躊躇っていたんです。毒蛇に噛まれた時も血清を渡してくれた上、寝ずに看病まで……」

 辛い一夜を思い出したのか、それに、優しき彼女は胸の前に手を添える。

「別れ際にあの人、私へ約束してくれたんです。上司には確かに殺したと報告しておく、もう命を狙われる事は無いから安心して、と」

「成程。つー事はあの時、お前は俺以上に疲弊してた訳か……悪い、気付いてやれなくて」

「いいのよ。アダムに比べたら私の時なんて、全然平和だったから」ふふっ。「話を逸らして御免なさい、レヴィアタ君。続けて」

「はい。彼女はビ・ジェイさんをユエ、と呼んだそうです。一方相手方は」

「赤姐、だね」

 納得。だから追想の際、疑問からあんな発言が出たんだね。

「ふーん。兄長とか青龍とか、変な名前ばっかだな」

「いや。兄長は一番上の兄さんと言う意味だし、姐は姉。つまり赤姐で赤姉さんって事さ」

 仕方ない。非常に気は進まないが、僕からも推理に必要な知識を与える事にしよう。流石に無知な状態のまま『奴等』と接触すれば、確率に然程違いは無いにしろ、全滅は免れない。いいのかい?視線で窺うお兄ちゃんにだけ分かるように、僕は首肯。

「つまり弁護士、目潰し魔、蛇女は三兄弟、いや。俺の所に来た爆弾魔も含めたら四兄弟か。しかも、その内三人は本職の暗殺者……おいこれ、贔屓目に見てもかなりヤバい状況なんじゃないのか?」

 相変わらず頭の悪い男め、今頃気付いたのか。まぁ、直に『奴等』を知っているのは僕だけだし、危機感が遅いのも当然か。

「それで、レヴィアタ君。二人は何を口論していたのかな?」

「あくまで僕が説明役なんですね……最初はビ・ジェイさんへ、家へ帰るよう説得していたようです。彼を止められるのはお前だけだ、と」

「止める……件の“蒐集家”位しか、現時点では思い付かないね。確かにロハで衝動殺人なんて、プロからしたら狂気の沙汰としか思えない」

 まして『奴等』は暗殺と同義の存在。単独暴走プレーなど御法度だ。

「申し出を拒否された彼女は、ならせめて刀だけでも返して欲しい、と頼んだそうです」

「昨日見つけた青龍の小刀、だね」

 流血の歴史に塗れし、五色の呪具の一角。


「―――どんな事情があろうと、関係あるかよ」


 床で身を丸めながら、被害者の身内が冷たい怒りの息を吐く。

「あの人は、母さんは立派な弁護士なんだ。なのに何であんな女のせいで一晩中、死ぬ程苦しまなきゃいけないんだよ……!!?」

 気取られないよう激昂する黒目を、その奥の記憶を垣間見る。



―――見えたのは昨夜の寝室。ベッドに身を預け、滝のような汗でシーツを濡らす白髪の女。脱力し切ったその右手を握り締め、眠気も忘れ付き添う義息。


『……もう眠りなさい、ミト。私は、大丈夫だ……』

『(無言で首を振り)咽喉乾いただろ?水、持ってくるよ。小康状態になったら、着替え持って来るよ。まるで雨に当たったみたいにずぶ濡れだ……』

『……どうか、赤姐を憎まないでくれ……あの人は家業に忠実なだけなんだ………ミト、頼む……』



 チッ、家業とはね。しかし半死半生でこう言われちゃ、友人はさぞや怒りの遣り場に困った事だろう。

「しかし故意ではなかったんでしょう?掴み掛かったミトさんを庇って、それで」

「んなの分かってるよ!!あの人だって熱に浮かされながら言ってたさ。毒には昔から耐性があるんだ、お前が噛まれなくて本当に良かった、って……けど、必死で吸い出したのに、一匹であの威力だ。あの時、もしももっと噛まれていたら……」

 ギリッ。

蟲毒こどく、って言っていたわ。血清も、自分が持っている分しか無いって」

 何百年にも亘り、あらゆる毒蟲を殺戮し合わせ得たワースト・ポイズン。如何にも『奴等』の好みそうな凶器だ。って、ちょっと待った!?

「まさかハイネお兄ちゃんの『気長な捜査』って」

「うん。彼女はまだ、僕等が小刀を発見した事を知らない筈。家人の留守を見計らって、捜索に訪れる可能性はあると思うんだ」

 冷めたコーヒーを啜り、それに、深く頷く。

「今の木咲先生のお話で確信が持てました。赤姐さんには交渉の余地がある」

「大胆不敵な奴め。だがおい、まさかお前一人で張り込むつもりか?」

 担任の問いに、ええ、淡々と返答する生徒。

「“翡翠蒐集家”に比べれば危険性は低い筈です。見ての通り僕は子供ですし、ターゲットでもない人間を無闇に殺しはしないでしょう」

「そうね、彼女なら……あの、レヴィアタ君。もしあの人が現れたら、私に連絡して。あの時のお礼、まだちゃんと言えていないの。お願い」

「元よりその心算ですよ。女性同士の方が話し易いでしょうし」

 どうやら止めるだけ無駄なようだ。僕を筆頭に男性陣は小さく肩を竦め合い、ある意味“蒐集家”以上に独走気味な探偵を見やった。




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