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 ドン引きする気持ちは分かるさ。僕だって他人がこんなストーカー紛いの事してたら、胃に穴を開けてやる勢いで言葉攻めに走るだろう。

 でも考えてご覧よ。お兄ちゃん程素敵な中学生が他にいる?ルックスが良くて料理上手、優しい上に深い闇まで持ってる。これで庇護欲をそそられないなんて、君は人生半分損してるよ。

 けど、幾らリスペクトしていても、僕は所詮『ホーム』の一味。あと三ヶ月もすれば獄中のメアリーを、そのほとぼりが冷めたらキューを連れて行かなきゃならない。あんなペチャパイ能天気娘でも、失踪すれば片想いのお兄ちゃんは大いに嘆き悲しむだろう。最悪、単身で捜索を始めるかもしれない。ほら、僕の辛い胸の内が少しは分かっただろ?

 そんな訳で、僕はこれまでひっそりと見守ってきたんだ。ラブレにキチガイショタコン野郎が襲来し、お兄ちゃんに命の危機が迫るまではね!

 宇宙船に乗り、“黄の星”首都シャバムへ。降りて歩く事数十分、無事豆腐か角砂糖にしか見えない建物に到着した。そう、ここが噂に聞く政府館。『ホーム』一同の仇敵にして税金泥棒共の魔窟さ。

 早速『邪眼』の力を使い、新婚ほやほやの受付嬢に目的の部屋を尋ねる。聞き出したら長居は無用。気配を探りつつ足早に階段を上がって三階へ。


「―――にしても、午前中の呼び出しに君が応じるなんて珍しいな、ジョウン」


 おっと、在室中か。まあいい。副聖王執務室のドアを薄く開き、室内を覗き込む。

 デスクに座り、判を押す書類から顔を上げないままの部屋の主人、エルシェンカ。そんな上司を見、応接ソファに寝そべる寝癖の酷い黒髪の部下はふぁ~!盛大に欠伸した。

「ああ。今朝は親切な誰かさんが五時から、しかも十分おきにモーニングコールしてくれたからな」

 パサッ。所々穴の空いた牡丹の扇子を広げる。

「―――で、今回はどんな事件?」

「ニュースを観なかったのかい?また例の“蒐集家”が現れたんだよ」ペタン。「やれやれ、今度の空白期間は約四ヶ月か。普通連続殺人って奴は、段々と間隔が短くなる物なんだけど」

「ああ、前に言ってたショタ目潰し魔か。けどあれ、犯行自体は力技だろ。魔術が絡んでないなら、俺が捜査に当たっても仕方ないんじゃ」

「次で十人の大台だ、そうも言ってられないさ。教育委員会からも山のように嘆願書が届いているし、今回の地元の警察もお手上げと来てる」

「本気で?容疑者は?」

「目ぼしい不審者を片っ端から捕まえたが、全員見事にシロだった。被害者達も外見以外の共通項が見つからない上、目撃者も皆無。ハッキリ言って、もう囮捜査でもしない限り逮捕は限り無く難しい状況だ」

「ゲッ!……いや、でもエル。んな危ない役、どんな正義感の強い子だって引き受けてくれないぞ?」

 当たり前だよ!ああ全く、虫唾が走るね!!

「あくまで最終手段として、だよ。そうしないためにジョウン、君に直近の事件の洗い直しを命じる」

「ああ、成程。まだ手掛かりがワンチャンあるかも、って事か」

 ぽん、手を打つ。 

「けどこれさ、流しの犯行っぽいよな。しかも一番最初の事件は三年も前だし、普通の捜査方法だと望み薄」 

「嫌ならお前が魔術で囮に化けても一向に構わないんだぞ。寧ろそっちの方が手っ取り早い」

「……喜んで行かせて頂きます、エルシェンカ御大様」

「宜しい」

 どうやら茶番は一段落らしい。やれやれ、待ってるこっちの身にもなってよね。僕はわざと音を立ててドアを全開にし、大人達の前に姿を晒した。

「ん、子供?」

「迷子か、僕?」

「えへへ。お勤め御苦労様、お兄さん達」

 紳士的に労いの言葉を掛けつつ、力を解放。紫色の視線を浴び、即座に二人は深い眠りに陥った。

 デスクに倒れ込むように昏倒した副聖王を確認し、あはは、ちょろいね、僕は聞こえていないのを良い事に小馬鹿にした。

「さーてと、これが事件の資料か。ふーん……流石に結構あるなあ」

 都合九件分ともなると、書類も百ページ近い。厚さ一センチ超えのそれを大事に抱え、足場(仇の背中)から跳び降りる。


 ガー、ガー、ガー……。「ふんふふ~ん♪」


 隣室のコピー機を借り、鼻歌混じりに資料を複写開始。時折覗き込んで来る大人へガンを飛ばし追い返す事十分。ようやく作業完了だ。

 早速用意してきた封筒に複写の束を収め、肩掛け鞄へ突っ込んで再度執務室へ。まだぐーすか寝ている間抜け共を尻目に、原本をトントン揃えデスクの元の位置へ戻した。

「貸してくれてありがとね、お兄さん。コピー代は断固払わないけど、代わりに犯人は僕が必ず見つけてあげるよ」

「すー……」

「あと不老だからって、あんまりカフェインを過信しない方がいいよ。お兄さんにバリバリ働かれると困る連中だって、少数派だけど宇宙にはいるんだからさ」

 敵に休息どころかアドバイスまでしてあげるなんて、僕は何て善人なんだろうね。


「じゃ、僕は忙しいからこれで。バイバイ」バタン。


 ドアを閉めてから手を叩き、暗示を解く。途端、中から上がる二種の寝惚け声。

「あれ……僕、何時の間に……?」

「ふぁ~!何だ、エルが居眠りなんて珍しいな。コーヒーが足りないんじゃないのか?」

「おかしいな、さっき飲んだばかりなんだけど……まぁいいか。行く前に一杯どうだい?貰い物のフィナンシェがあるんだ」

「わーい、やったー!」

(全く、お目出度い連中だね……)

 イラつく位ほのぼのした会話を背に、僕は急ぎ足で帰路へ踏み出した。




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