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五章 小名探偵登場―――六月七日



 そうして日を跨いだ午前三時に帰宅後、短い睡眠を摂り、迎えた翌朝。

 寝惚け眼で画面越しの挨拶を終え、身支度を整えていつもの四階へ。だが到着したエレベーターの外には、意外な光景が待っていた。

「あれ、ミト」

「よう、ジョシュア……」

 黄色いシャツに半ケツでジーンズを履いた人型の“黄”は、昨夜とは打って変わって憔悴している。しかも両頬には、その原因と思しき青痣が。

「やれやれ、やっと起きて来たか。昨日は一体何処まで夜遊びに行ってたんだ?」

「ギャッ!!」

 背後から現れたアダムに尻尾を思い切り捻られ、悲鳴を放つ友人。

「こちとらこの鵺公のお陰で大騒ぎだったんだぞ。なあ桜?」

 同意を求める台詞に、もう赦してあげたら?ダイニングで朝食の支度をしていた家族は苦笑気味で応じる。

「ミトさんも別に、騙したくて騙していた訳じゃないでしょうし」

「俺達を謀ったのはまだいいさ、同じキャリアのよしみだしな。だが事もあろうに、女のお前の前で裸を晒しやがったのは赦さん!」

「ぎゃあああっっ!!千切れる!本気千切れるってば!!!」

「五月蝿い、この色情魔!!」

 はいはい。納得した僕は手を叩き、場の空気を和ませる。

「取り敢えず僕がいない間に、三人が随分仲良くなった事だけはよーく理解したよ。で、ミト。一応訊いといてあげるけど、どうして猥褻物陳列罪なんて蛮行をやらかしたのさ?」

「違うんだよぉ。俺はただ家へ帰る前に、ちょっと小腹を満たそうとしただけなんだ」

 哀れっぽく鼻を啜り、紅一点を見やる。

「夕食が終わった後、桜ちゃん言ってたじゃん。余ったたこ焼きを冷蔵庫に入れとくから、鵺も良かったら夜食にどうぞ、って」

 たこ焼きは専らもう一人の無精者、アダムの献立だ。生地と中身さえ適当に用意すれば、あとは各自勝手に調理出来ると言うのがその最大理由。

「でも肉球のままだと、どうしても冷蔵庫のドアが開かなくてさ……だからアダム、あれは本当に不慮の事故だったんだよぅ……」

「黙れ、このフルチン野郎」

 尾を手放し、人差し指を突き付けながら舌打つ“蒼”。

「ケッ!ここが政府共からの隠れ家でさえなかったら、露出狂が一匹社会的に抹殺出来たのによ。運が良かったな、鵺公」

「ジョシュア、黙ってないでお前も弁護してくれよぅ。俺達友達じゃないか」

「じゃあ要請に応えて―――正真正銘の馬鹿だろ、君?呆れて庇う気にもなれないね」

 鼻で嗤い、卓上のトースト&スクランブルエッグの皿を持って、自分のソファに着く。好きな場所で食事を始めても誰も気にしないのがここ、『ホーム』の美点の一つだ。

「うぐぅ……最初から気付いてたけど、お前って酷い奴だな!」

 それでもブレックファーストを持って来て隣に座る辺り、然程怒ってはいないらしい。ガツガツ、ムシャムシャムシャ!わざと咀嚼音を聞かせてくるのは勘弁して欲しい所だが。

 僕等に倣ってか、珍しく教師組も各々のソファへ。こんな時のために、ホールには移動可能なチェストテーブルも用意されている。食器の置き場所に不自由は無い。

「ところでジョシュア。昨夜は何処へ行っていたの?」

「別に話す程の事じゃないよ。ちょっとした野暮用」

「え?Drにプロファイリングの依頼に行ったんじゃ―――フギャッ!?」

 足の甲をグリグリしてやりつつ、ティッシュより軽いのかこいつの口は、心中で嘆息。

「Dr?おいおい、ムショなら家族の俺達にも一言言えよ」

「そうよ。話してくれていたら私、差し入れにスコーン焼いたのに」

「御免御免。相変わらず元気でやってたよ。ランファの事は流石にショックだったみたいだけどね」

 女主人の近況はなるべく詳しく、そしてプロファイリングの結果は簡潔に三人へ伝える。それを聞き、唸る男性陣。

「成程な。しかし結局あのDrを以ってしても、次に繋がる手掛かりは見つけられなかったと。一体どうするつもりだ?」

「うーん。政府館に新情報が入っているとも思えないし、正直お手上げ気味かな。あと調べていないのは、三件目から六件目の殺人だけど……」

 先の四件の結果を考えると、無駄足になる可能性は高い。それならまだ、例の奇妙な凶器の線を洗った方がマシだ。ただその場合、今度は特定する術が問題になるのだが。

 するとそこで、当てが無いなら、ハーブティーを啜っていた桜が顔を上げる。

「今日位はゆっくり休んだらどうかしら?昨日もほぼ徹夜だったんでしょう」

「同感。次の殺人までインターバルはまだあるんだろ?無理が祟って、肝心な時に“イノセント・バイオレット”が発動しない方がよっぽど怖え」

「俺も賛成。疲れが取れたらきっと、閃きの奴も向こうから降りて来るって」

 チッ。説得されるなんて僕のキャラには合わない。でもアダムの言う通り、犯人と対峙して異能が使えないのは痛過ぎる。加えて『例の技術』一本で勝負するにはもう、僕は些か年寄り過ぎた。

「……分かったよ。これ食べたら、今日は大人しく寝てる」

 渋々承諾の意を示し、僕は皿に残っていたケチャップ塗れの卵をフォークで掻き込んだ。




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