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ショックを引き摺ったまま、殺害現場の北公園へ。現場百遍のセオリーを信じている訳ではないが、今はとにかく冷静になれる場所が必要だった。
まだ事件発覚から三日(発生から四日)しか経っていないのに、封鎖地帯は早くも無人だった。「KEEP OUT」の黄と黒のテープを潜り、アンモニア臭漂う闇へ身を預ける。
(まあ元々、か細い手掛かりだったんだ。途切れたのは別に問題じゃない。でも……まさか、あんな奴から『あの名前』を聞く事になるとはね)
勿論、よく考えれば充分有り得た話だ。が、それでも―――すっごいムカつく。
(こんな事ならあの餓鬼、もう一発蹴っ飛ばしておけば良かったよ。さて)
当然ながら、現場の遺留品は全て回収されている。遺体が倒れていた辺りに立ち、がらんどうの空間を三百六十度見回す。
(ナイフの件から考えて、フィールドを選んだのは被害者自身。つまり犯人は最初脅されていたか、少なくともそのフリをしていた)
粋がった中坊一人でカツアゲ出来そうな男。具体的イメージとしては、如何にも気と喧嘩が弱そうで、体格は普通かそれ以下。しかもそこそこ金を持っていそうな格好―――そんな奴ごまんといるよ!
(資料を見る限りケーニ村同様、他の街でも犯人の土地勘は皆無の筈だ。常習的にあちこちへ移動し、且つ怪しまれない人物……営業マンとか?)
今の所、その可能性が一番高そうだ。まさか警察も膨大な数の会社、その社員一人一人のスケジュールまでは問い合わせていないだろう。
(だけど唯の勤め人が暗殺スキルなんて持っているかい、普通)
あるとすれば“銀狐”のような裏組織の構成員だが、あそこも流石に殺人は請け負って―――視線?後ろか!?
バッ!「誰だ!!?」
素早く入口へと振り向き、逆光に照らされた覗き魔と対峙。舞い戻った犯人かと思いきや、何とそいつは四つん這いだった。
体長一メートル以上の胴は豹柄で、頭部は狐。そこに猫科を思わせる鋭い爪と、銀光沢の尖った尾を持った奇形獣は、つぶらな黒目でこちらを見つめていた。
「鵺?どうしてまたここに……?」
ひょっとして被害者と親しかったとか?確かにこれが漫画なら、不良が動物にしか心を開かないパターン多いけどさ。でも、殺されてもう丸四日だよ。流石に情が深過ぎやしないかい。
「悪いね。生憎、僕今食べ物を持っていないんだ。餌なら道端の女子にでもたか」
「……ピーターパン?」「へ?―――うわっ!!?こ、こら!いきなり乗り掛かるな、このケダモノ!!」
マウントポジションを取った珍獣の腹を蹴飛ばし、急いで背面を手で払う。うええ!選りにも選ってトイレの床とか有り得ないよ!!早く家に帰って着替えなきゃ!!
「うぅ……流石にキックはあんまりだろ、ピーターパン。それは、はしゃぎ過ぎた俺も悪いんだろうけど」
弁解しつつ前脚でさすりさすり。
「全面的に悪いに決まってるだろ!?って、ひょっとして君―――ミト、か?」
「ああ。バッチリ俺だぞ、うにゃーん❤」
幻滅にトドメを刺すように鵺、もといミト・ジェイは猫招きのポーズを取って嘘鳴きしてみせた。