三章 協力者―――六月五日
「今日も気を付けていってらっしゃい、お兄ちゃん―――むぅ」
朝食を終え、いつも通り画面の向こうへ手を振る儀式を終えた僕は、テレビのスイッチを切って唸る。
(幾ら“翡翠蒐集家”で頭一杯だったとは言え、この僕が二日連続で「おかえりなさい」を忘れるだなんて……)
自責で百回死ねる程耐え難き失態だ。
(今日は何が何でも早く帰って来なきゃ。幸い今日予定の調査は、この街の中で事足りるし)
昨晩資料を見返していて、ある一文に気付いたのだ。―――尚、生前の被害者は、何かに対し非常に怯えていたようである、と。
ケーニ村の二件で受けた印象は衝動殺人。だが九件目、ジケイド・ベーの時は事前調査していたのかもしれない。その気配を仮に人数倍敏感な被害者が察知していたとすれば、
(とは言え警察も、当然この程度の事は調べているよね)
ならば、取るべき手段は一つ。だが、
「ああ、もう!嘘でしょ、あの税金泥棒共……!?」
三時間後。目力をフル活用し、召喚した担当刑事に捜査内容を残らずゲロらせた結果。何と恐ろしい事に、ラブレ署は通り魔の犯行と言う理由だけで、被害者の身辺を殆ど洗っていなかったのだ。交友関係の異変も、思春期特有のムラッ気と一括りに片付けて。
(あんな奴等に頼ろうとした僕が愚かだったよ。こうなったら自力で調べるしかないね)
幸いにも、奴のお仲間がいそうな場所の目星は付いている。早速向かおう。
商店街の中央エリア。昼前のゲームセンターは予想通り、サボタージュ学生共の溜まり場と化している。ただ、おじさん達の努力の賜物だろう。九割方は公立校の制服だ。
高校生トリオと入れ違いに、店内へ滑り込む僕。UFOキャッチャーは何時の間にかパンダではなく、何故かカピパラに入れ替えられていた。変な顔!
(さーてと)
被害者と同級生っぽいのは、レースゲームコーナーで絶賛談笑中のカルテッドかな。あの中にメールの主、胸糞悪いK・Gがいるといいけど。
期待を抱きつつ邪眼を解放。顔見知りの先輩を装い、僕は声を掛けた。