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 城外へ出た途端、寝不足の眼を突き刺す初夏の日差し。四方を険しい霊峰に囲まれている所為で、陽光の熱が収束でもしているのか?一瞬だけそう思ったが、百メートルも行かない内に慣れた。

 これも龍神の加護なのか、基本的に五龍都は年中安定気候だ。雪害や台風、竜巻とも無縁。且つ真夏でも、日中の気温が二十五度を越える事は殆ど無かった。

 天頂に浮かぶ太陽を仰ぎ見ていると、特徴的な高音が耳を劈く。


「ケー!ケェッー!!」「ああ、羅刹鳥ルゥシャニィか……」


 内部の脱走者、そして外部の侵略から四龍門を守護する妖鳥だ。数は見渡しただけで二羽。しかし虚空に響き渡る妖音から、倍以上の個体が近辺にいると知れた。

 怪物の体長は、凡そ二メートルから三メートル弱。暗い灰色の羽毛に、鉤のように曲がった嘴。白く輝く鋭い爪を持ち、爛々と赤き両眼を持つ顔面は、正視不可能な程醜悪極まりない。

 羅刹鳥達は同胞より一秒でも早く違法者を見つけ、三枚下ろしで喰らおうと目を光らせている。奴等が接近を許すは“龍家”、それも代々定められた世話役のみ。故にその任ではない私は未だに唯恐ろしい怪物、と言う程度の認識しかない。

 突き抜ける青空に木霊する怪声をバックに、一路メインストリートへ。閉鎖空間で独自の文化を築く商店街の頭上には、宙空を埋めつくさんばかりの看板群。服屋、青果店、食堂に床屋。私が子供の頃と何一つ変わらない光景だ。

 その下で商売を営む民達も、相変わらず外界と比べると何処か活気に欠けていた。当然だ。幾ら稼ごうと、所詮この都は箱庭。加えて仮令無一文になったとしても、龍神の加護で食うに困らないとなれば……勤労はおろか、生の意欲も失せると言う物だ。

(しかし予想はしていたが、随分老朽化が進んでいるな……)

 罅の入ったコンクリート製の建造物を目視し、損傷具合を確認。都のインフラ整備は代々青龍の役目。すぐさま崩落が起きる程切迫した事態ではないが、破片などが滑落しては矢張り危険だ。

(儀式が一段落次第、民達を呼んで修繕計画を立てないとな。いや、先に件の問題を……)

 暗鬱を吐き出す私へ、飯店前で世間話に興じていた老人達が視線を向ける。会釈すると、彼等は深々と頭を下げた。外界でも法律家として尊敬されていたが、彼等には強烈な畏怖の念が存在した。生殺与奪を支配する、統治者への本能的恐怖が。

 居た堪れなくなり、私は足早に退去。服屋、装飾品屋を抜け、果物屋の角を曲がって長屋通りへ。そこで幼い少女と、彼女に裾を引かれる都民ならざる雰囲気の青年に遭遇した。




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