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「つい先日襲撃された場で、よく平静に仕事出来ますね」

 同日正午。特別教室棟別館二階、理事長室。そこに彼是三時間近く籠もり、デスクワークに勤しむ私へ皮肉めいた声が掛けられた。

「師に教えられたからね」

 サラサラッ、パサッ。サインを終えた書類がまた一枚、処理済箱に放り込まれた。内容は教職員一同の夏季休業の休暇申請だ。

 他の学校とは違い、基本的にラブレ中央学園では生徒同様、有休無しで最大四十日間の休暇申請が可能だ。教育者の神経が擦り切れては元も子も無いと、学園創立時に私が打ち立てた規則だ。勿論、顧問は部活に合わせ出勤するし、担当クラスのある教師達は来年度に向け準備がある。学食こそ閉まっているものの、保健医や用務員達も交替勤務制。正直な話、一ヶ月以上申請するのはうちのアダム位だ。

「上手く割りたいなら薪だけを見ろ、と」

 虚脱し、完全に生への気力を失っていた自分を思っての忠告。如何にも無骨だが、あの修行の日々は文字通り私の教育の根本だ。

「ハッ、下らない」

「君の立つ境地ではそうだろうね。―――さて、これでラストだ」

 処理終了。そして三日前、自らが割った窓の前で腕組みのまま佇む来客、黒龍へ向き直った。尼僧の手に蛇矛は無い。つまり、少なくとも今日の用件は暗殺ではないらしい。

「待たせたね。それで、今日は何の用かな?」

 人工太陽の下の表情も穏やかな印象で、改めて見ても兄弟達によく似た顔立ちだ。とりわけ勝気な妹さんに。

「風龍の傷は癒えたようですね。あの童の癒気ですか?」

「いや、僵尸君に魔術で治してもらった」

「白龍の言っていた魔術師ですか。哀れな」

 冷笑。

「あなた方に関わったばかりに、彼もまた寿命を大幅に縮める事になってしまった」

「彼は昨夜、私達の元を出て行った。それでも殺すのかい?」

「少なくとも異母弟はその気です。あれの執念深さは先代白龍譲り。全く仕様の無い男だ」

 会話をしつつ、私なりに脳内で経緯を纏める。

(どうやら赤龍君の言う通り、“龍家”は複雑な系図の一族のようだ)

 濃密な近親相姦に、血塗れの生業。正直こうして彼の一員と対峙しなければ、出来の悪いフィクションだと思ったに違いない。

(もっともそれは私達、稀少キャリアにも言える事だが……)

 私は椅子から立ち上がり、口をへの字に曲げたままの客人へ入口のドアを示した。


「立ち話も何だ、黒龍。決着を付けないなら、今日の所は昼食でもどうだね?」





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