4
「有りなのかしら、これ……?でも悔しいけど、結構美味しい……」もぐもぐ。
帰宅後、夜。シェアホールのリビングにて。
軽めの夕食を終え、僕等三人は桜の買ったデザートをのんびり味わっている最中だ。ケーニ・ロゼ洋菓子店の看板商品、薔薇の糖蜜漬け入りチーズケーキを。
二杯目の紅茶を啜りながら、“緑”は尚も首を捻ってスフレタイプの一欠けをパクッ。そんな家族を見、アダムも最後の一口を放り込んだ。
「そんなに悩まなくても、旨いならいいじゃねえか。別に無理矢理もぎ取った訳でもないんだろ?」
因みに言っておくが彼等二人は僕と同じ、れっきとした雑食人だ。知り合いでない限り抵抗は無いらしい。
「それは、そうだけど……」はむはむ。「それにしても、本当に絶妙な甘さ。あの人のお勧め通り、プリンも買ってくれば良かったわ」
「気に入ったのなら、またその内行って来いよ。偶には『ホーム』以外で骨休めも悪くない」
「そうね。事件が解決したら、あの薔薇達にもお礼を言いたいし」
そんな会話を聞きつつ、僕は半分残るケーキにフォークを入れてパクリ。じんわり広がる蜂蜜とブラックコーヒーのマリアージュを楽しむ。そして空席に置かれた、四分の一ホールが乗った皿へ目をやる。
「ところでおじさんの分、冷蔵庫に入れとかなくて平気なの?」
桜に因れば、確か今日は朝から出張で、戻り次第自宅でゆっくりすると聞いたが。
「さっき電話したら、これから食べに来るそうよ」チン。「ほら、噂をすれば」
エレベーターから現れた後見人は、カジュアルな服に半分残ったワイン瓶を持参していた。彼は早速、卓上のクオーターピースを珍しげに覗き込む。
「ほう、薔薇の花弁入りとは不思議なケーキだね!」手で扇ぎ、「まだ仄かに香りもある。では乾かない内に頂こうか」
「紅茶とコーヒー、どっちにする?」
「おや。今日はアダムが淹れてくれるのかい?」
「ああ。桜はこの通り自問自答状態だし、もう食い終わったからな」
「ありがとう、ならコーヒーを頼むよ。―――そうだ」
義息同然の青年へ、コルクで軽く蓋をし直した瓶を差し出す。
「一度開封してしまうと、ワインはすぐに味が落ちてしまうからね。昨日の迷惑料代わりだ。貰っておくれ」
「気が利くな、オッサン。んじゃ、遠慮無く頂くぜ」
言ってボトルを受け取り、颯爽とキッチンへ消える“蒼”。相変わらず何をしても無駄に様になる人間嫌いだ。