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赤い薔薇殺人事件  作者: 優菜 朱鷺
1/1

花咲く夜

1


目の前には赤い薔薇の花束。

私の誕生日に友人がくれたものだ。とても立派だったがために、もっと立派な花瓶があればと後悔したくらいだ。しかし、このままにしておくのも申し訳ない。私は家にあった花瓶に水を入れ、包から薔薇を取り出した。その時、薔薇の棘に指が刺さったが、どうということは無い。後で絆創膏を貼ればいいだろう、そう考えた時だった。

意識が朦朧とし、花瓶とともに倒れてすまった。立ち上がることさえままならないまま、意識だけが遠ざかっていった。

私が最後に見たものは、まるで死を誘うかのような赤い薔薇だった。


2


今日の福岡県警の朝は忙しなかった。昨夜に起こった事件が原因だろう。俺は煙草を吸いながらテレビを見ていた。

『昨夜、福岡県筑紫野市のマンションの一室で毒により亡くなっている女性を発見』

世の中物騒になったもんだな、などと考え事をしていると、頭上からちょっと、と女性の声がかかった。

「あ、宮山先輩お疲れ様です」

「何がお疲れ、よ。もうすぐで緊急会議があるんだから早く来なさいよね、東山クン」

うぃーす、と気のない返事をしながら再びテレビに目をやる。どうやら今日の俺の運勢は最悪らしい。ラッキーアイテムは靴らしい。いったいこの身に何が起こると言うのか、甚だ疑問である。


3


『赤い薔薇殺人事件特別会議室』。今回の事件が初の緊急会議となった。周りの先輩達はてきぱきと動いてる中、私は緊張して1人オロオロしていた。そんな時、後ろからやあ、と声がかかった。

「緊張してるの?河村さん」

「あ、宮山さん。お疲れ様です。今回が初めてなので、とても緊張してます。」

「誰だって初めては緊張するものね。でも、リラックスして、事件に集中してね」と、微笑みを浮かべながら話してくれた。これで少し気が楽になった。

「にしても、あいつ遅いわね」

「あいつ、って誰ですか?」

「あぁ、あなたのパートナーよ。流石に新人さんに1人で調査は難しいでしょうからね」と、悪魔の微笑みのような顔をしながら語った。

そんな時、うぃーすと気のない声で室内に入ってきた一人の男性。その男性を見るやいなや、遅い!と宮山は言った。そして、あまりにも唐突に

「紹介するね。この人は東山くん。あなたのパートナーであり、先輩よ。そして、こっちが河村さん。あなたのパートナーであり、後輩だからしっかり教えてあげてね。じゃあ、私は用事あるからあとは任せたわよ」と言い残し、会議室から出ていってしまった。一方の東山は宮山の愚痴を呟きながら、「とりあえず座ろうか」と言った。私は呆気に取られ、頷くことしか出来なかった。


4


「私は警視の山部だ。早速だが、事件の概要を説明する。

まず、被害者の夜宮由里子は毒死。人差し指から毒が入ったというのが鑑識の結果だ。その毒とは、クラーレというものだ。この毒は薔薇の棘に塗られていたらしい。

死亡推定時刻は午前0時から午前1時の間。

そして、容疑者にはパーティ中に薔薇を渡した山谷裕子、同じくパーティにいた長谷川規代、結城聡美の3人が浮上した。しかし、この3人の誰もがクラーレを所持していなかった。また、山谷裕子が薔薇を購入した花屋での聞きこみ調査等で、捜査線上から外れた。これが事件の概要だ。誰か質問あるか?ないならば以上で会議を終了する。全員解散!」

こうして赤い薔薇殺人事件の幕が上がった。


5


警察はようやく彼女の遺体を見つけて、捜査に取り掛かったらしい。こちらもそろそろ動かねばならない。そんな時、ドアが開き、男が入ってきた。

「あなたがやったんですか?」

答えない。答える義理もないからだ。

「・・・どうしても答えないのですか。また明日仕事場で」

「待って。1日だけこれを預かっておいて」と言い、取り出したのは小瓶だった。男は黙ったまま受け取り、そのまま部屋を出ていった。ようやく第一段階が終わった。

男が出ていって暫くして、私は再び準備に取り掛かった。


6


「それで先輩、私達はどうしましょう」と、横から尋ねてきたのは、成り行きでパートナーとなった後輩の河村だった。

「とりあえず現場行って情報集めるか」

「それもそうですね」

それ以降会話が続かず、現場まで終始無言だった。


現場は筑紫野市にある8階建てマンションの一室。なかなかに広い部屋だった。中へ入ると、鑑識が慌ただしく動いていた。

「お疲れ、状況はどうだ?」

「あ、東山さん。お疲れっす。これはやはり殺人ですね。しかし、どうやら被害者は潔癖症だったらしく、毎日のようにテーブルや床を拭いたりしていたようで被害者の指紋と、当日パーティに参加していた容疑者3人の指紋以外は見つかってないですね」

「なるほど。手袋痕もないのか?」

「ええ、ないですね。まったく困ったものですよ」

「そうか、ありがとう。引き続き頑張ってくれ。おい、河村。容疑者4人の事情聴取行くぞ」

「え?3人じゃ・・・」

「いや、4人だ。あの花屋の店員にも話を聞きに行く。」

「わ、分かりました」


7


ふと見上げると、庭の桜の蕾が開こうとしていた。そんなのどかな昼下がりに、客人が来た。

「突然すみません。福岡県警の東山です。山谷裕子さんですね」

「ええ。そうですけど、事件の調査ですか?」

「その通りです。とりあえず、お話を聞きたくてですね」

「・・・どうぞお入りください」


「どうぞ」と言い、警官2人の前にお茶の入ったカップを置いた。2人はどうも、と言いお茶を飲み、本題へと入っていった。そう、友人であった由里子の事件のことである。

「では早速。昨夜、何時頃にパーティを行ったのですか?」

「・・・18時です。昨夜はみんな仕事が終わるのがたまたま早かったものですから。」

「なるほど。では、昨夜、パーティが終了したのは何時頃でしたか?」

「0時を回った頃です。明日も早いということでそのままお開きに。私は予定がなかったので、コンビニによってお菓子やお酒を買いましたけど。」

「それは何時頃でしたか?」

「0時30から1時の間だったの思うのですが」

「なるほど。分かりました。では最後に、夜宮由里子さんはパーティの途中で1度でも席を立ちましたか?」

「え、ええ。立ったと思います。1度だけですけど。トイレに行くために。この質問の意味ってなんですか?」

「すみませんが、口外できないのです。ご協力ありがとうございました」

と言い残し、そそくさと席を立ち、家を出て行った。目を下にやると、ブラックティーが未だに残っていた。


8


残りの2人にも事情聴取を行った結果、コンビニの件以外は一致した。また、コンビニの防犯カメラにも山谷裕子の姿が映っていた。

「後は、花屋だな。っと、ここか」

そこには昔から営業していたのであろう、寂れた看板が特徴的な花屋だった。

俺は車を降りると、店に入った。店内は薄暗いが、経営してないとも思えない雰囲気だった。

「すみません、福岡県警の者です」

こう言って、ようやく店の奥から店員らしき人物がやって来た。

「えっと、また事情聴取ですか?事件の」

そこには、面倒臭い、と顔に書いたようなしかめっ面をした若者がいた。

「ええ、度々すみません。早速何ですが、この女性に見覚えはありますか?」と、山谷裕子の写真を見せて尋ねた。

「ええ、ありますよもちろん。この店で薔薇を買って言ってくれた方ですから」

「その時、変わったことなどありましたか?」

「変わったことですか・・・特にないですね」と、思い出しながらだったからであろう、少し間が空いて答えがかえってきた。

なかなか情報は集まらないか、と思いつつ立ち去ろうとした時、あっ、と店員が声を上げた。

「変わったことかどうか分かりませんが、ここ最近真面目に働いていたうちの店員が事件の報道が流れた日から一切連絡が取れなかったんですよ。なので、先日その人の家に行くと、このようなものが渡されまして」と言い、小瓶を見せてきた。

「これはお預かりしても?」

「ええ、構いませんよ」

「では最後に、その方のお名前と住所を教えていただけませんか?」

「ええ。名前は上原優香。住所は―」


9


上原優香の自宅に到着したが、時すでに遅し。もぬけの殻だった。

「・・・対策室に緊急連絡しろ。上原優香を今回の事件の重要参考人としてな」

「は、はい!」

必要な生活必需品、現金等はすでになくなっていた。家具はそのまま残っていたが、うっすらと埃が積もっていた。まったく家に帰ってきてない証拠である。

「先輩!一度戻ってこいとのことです!」

河村の顔には焦りと共に不安が入り混じっていた。

「そうか。一度戻るぞ」

「はい!」

外に出ると先程まで晴れていた天気が一変し、大雨が降っていた。


10


「早速だが、上原優香についての報告だ。まず、新たな証拠品についてだ。あの小瓶の中身はクラーレの解毒薬となるカラバル豆の液体であった。つまり、彼女はクラーレを所持していなかった。次に、彼女の行方だが、先日長崎県佐世保市で死亡しているのが発見された。死因は絞殺。何者かが彼女の背後に周り首を絞めたとの事だ。さらに、体内からクラーレも発見されている。これは死亡後に体内に入ったとのこと。つまり、連続殺人事件であるという事だ」

どよめきが徐々に会議室内に広がっていった。「終わっていない」。不安、焦り、これらが会議室にいる人々全員に覆いかぶさった。


それから2週間雨は止まなかった。

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