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ファーストデート ■車

■ドライブデート


■高校生年下彼氏×大学生年上彼女


「すまんな。ずっと乗せてやれなくて」


「いえいえ。お気遣いいただいていたことはわかっていますから」


「本当にすまない。さすがに免許取ったばかりの状態でお前を乗せることに抵抗があったから…」


「大丈夫ですって!全部わかってますから。今日のデート、楽しみですねっ」


「デート…」



 そうか、これはデートだったのか。

 小さく呟く先輩がかわいい。いつもは綻びのない美人さんが、少し表情を崩して笑っている。

 なんて幸せな状況…!

 この時がいつまでも続くといいのに。






 とりあえず、もう少しの間は続くだろう。

 もう少し、僕が我慢できれば。







*****








 かわいい、というより美人。美しい人という形容詞の似合う彼女。

 生徒会に入っていた彼女が壇上でしゃべる姿に一目ぼれした。

 新入生歓迎会というステージで、歓迎される側だった僕は一発で恋に落ちたのだ。




 せめて近くでお姿を拝見したい!と思ったが、中学の素行が悪かった僕は「信用できん」の先生の一言で生徒会に入れなかった。

 見た目だけなら真面目に見えるが、その見た目を利用して小ずるいことを行っているという評価が下されていた僕。

 あながち間違っていない。わかってるなぁ先生とか思っていたが、そんな余裕ぶっていたから罰が当たったんだろうか。




 とりあえず真面目な見た目を生かし、信用を得る為ひたすらに勉強した。

 迷わずサボっていたような授業も我慢して座り続け、素行も良くなったことをアピールした。




 そしてついに後期生徒会役員選挙で、見事役員の座をゲットした。

 

 


 先輩は3年生だったが、引き継ぎその他頼りにされているようでちょくちょく生徒会室に顔を出してくれていた。

 真面目な後輩を演じつつ、先輩にアプローチも欠かさない。

 仕事も手を抜かずにやっていたら、まわりからは「お前そのやる気出してたらもっと上行けただろう」という評価をいただいた。

 


 いやいや、別の高校行ってたら、先輩に出会えなかっただろう?












 告白してOKをいただいたのは、先輩の大学が決まってからだった。


 思ったよりも気軽にOKをもらえたので不思議に思っていたが、「まわりのみんながあいつは私目当てに頑張っているんだと…」と。

 ある意味アピールしまくったことは間違いじゃなかった!それが同情だとしてもラッキー!みんなありがとう!




 ただ、想定外だったのは、会う時間が作れなかったこと。




「大学へ入ったらきっと時間がなくなるから」と、空いた時間は自動車学校に通っていた先輩。


 もちろん3年生の登校日数はどんどん減っていき、次第に学校でも会えなくなってしまった。





「入学して落ち着いたら会おう」という先輩の言葉を信じて待っていた僕。

 完全に忠犬という周囲の評価は甘んじて受けよう。それで先輩に会えるなら。





 そう思っていた矢先に、先輩から「ちょっと遠くなるが」という前置きと共に誘われたんだ。







 ドライブデートに。







「お前はまだ高校生だから日帰りになるが…」と言われ、車で2時間ほどの場所を伝えられた。


 テーマパークや水族館といういかにもな場所ではなかったが、そこが先輩っぽくていいなぁと思う。


「勉強の参考にしたくて…」という言葉も照れ隠しだとわかる。かわいいなぁ。





 そう。


 場所も先輩も、なんら問題ないんだ。






 問題は、僕の車酔い。







 自分がびっくりするくらい車酔いするのは小学生頃に気付いていた。

 10分程度の移動でさえ体調が悪ければ酔ってしまう。


 酔った時はひたすら黙って外を見るか、目をつぶるか、できれば横になるか。


 酔い止めを飲めば多少はマシかと思ったが、気休め程度でほとんどあてにならない。







 それが2時間。


 家族旅行では後部座席でごろんが定番となっていたが、彼女とデートでそんなことするわけにはいかないだろう。


 





 どうする。僕。







 悩んだ末に、と言えればいいのだが、実際はほとんど悩むことなく「はいよろこんでー!!」と答えていた。

 居酒屋店員以上の勢いだ。






 

 だってあの先輩と初デート。しかも先輩リードで。

 これを逃したら一生後悔するでしょう!!









*****









 後悔しない。そう思っていた頃が僕にもありました。


 今は完全に後悔している。






 車に乗って迎えに来てくれた先輩は、相変わらずとても綺麗だった。

「待たせたな」と言って飲み物を差し出す先輩。あれこれ僕がなんか買ってくるべきだった?とちょっと思ったが、かっこいい先輩に見とれてしまう。



 いつもの黒縁眼鏡に肩上のサラサラボブヘア。

 ぴったりしたパンツで運転するお姿、とても素敵です。



 最初はそんなことで気を紛らわしながら、先輩とのおしゃべりを堪能していたんだ。

 なんせ学校ではかなりの人気者だった先輩。

 普段はなかなか二人きりで話すこともできず、いつも悔しい思いをしていた。




 そんな先輩を、今は僕が独り占めしているなんて!




 先輩、本当に足長いよなぁ。

 普通は運転してる男の人かっこいい!ってなるんだろうけど、先輩の横顔もびっくりするほどかっこいいし。

 片手で運転してるのもかっこいいなぁ。かといって決して乱暴な運転じゃなくて、すごく丁寧な運転で。


 いいなぁ。僕の彼女、やっぱりいいなぁ。









 しかし、自分の身体はそんなことではごまかせなかった。









 車が走り出して15分経った頃から、黄色信号が灯りはじめた。

 本来ならそろそろ黙って体調管理に万全を期すタイミングだ。


 しかし、話しかけてくれる先輩がかわいすぎてどうにもタイミングがつかめない。



 


 あと少し、あと少し。


 そう思っている間に30分が経過し、1時間が経過した。


 もしかして、今日はいけるんじゃなかろうか。


 そう思ってもうすぐ1時間半になろうかというあたりで、変化は訪れた。








 あ、だめだ。しゃべったらアウトだ。







 

 でも急に黙るのもおかしいよな。そう思い、とりあえず許可をとってから少しだけ窓を開ける。


 ごまかす為に「ちょっと眠くなってきちゃって」と言うと、「寝てくれてもいいんだぞ」なんて言ってくれちゃう優しい先輩。

 すみません本当に寝たいところなんですけどさすがにそれは…





 ついでにさっき「もし途中で休憩したかったら遠慮なく言ってほしい」と言われ、「いえいえ、先輩のタイミングで大丈夫ですので」と言ってしまった。

 あれだけさらっと言った直後に「すみません停めてください」とか言える奴がいたらお目にかかりたい。


 いや、僕が素直に言えばいいだけなんだけど。


 なんというか。ただでさえ後輩なのに。ここで格好悪いところ見せたくないよね!









 そう思った次の瞬間。









「うっ…」




 …っぶねぇ!セーフだけどもうほんと限界!



 あぁでもどうしよう。先輩に言うために声を掛けるのさえしんどい。


 こうなる前に早く言えばよかったと思っても後の祭り。




 でもこのままここでやらかすのはもっとやばい。




 よし、一回だけ、一回だけチャレンジしてみよう。






「あの…」



 声を出した瞬間、ぐいっと車が左に曲がった。


 え!?なんで!?と思ったら、どうやら道の駅だったらしい。


 車を停めつつ「早く行ってこい」という先輩。




 なんで?とか、もしかして気付いてた?とか、聞きたいことはたくさんあった。


 でも今自分にできる事は。





 とりあえず無言で車を降り、青い人物マークを目指して早歩きを始めた。











*****










「あの…お待たせしました…」


 朝もらったメーカーの缶コーヒーを両手に携え車に戻る。

 どんな顔して戻ればいいのってかんじだったけど、しがない高校生には車に戻るという選択肢しかないと気付き早々に腹をくくった。


「えっと…その、すみませんでした…」


「ああ。本当にお前はダメだな」


 その一言で一気に体温が下がったように感じた。

 もしかして、今日でお付き合いも終わり?僕ここで置いていかれるオチ?

 いろいろなことが頭を駆け巡ったが、先輩の手がのびてきたため思わずぎゅっと目を閉じる。



「お前もダメだが、私はもっとダメだ」


 頭に重さが加わった気がして、そっと目を開けるとかなり近いところに先輩のご尊顔が。







「お前がいつもと違うのはデートで浮かれているからかと思ってあまり気にしていなかった」


「具合が悪いんだろうと途中で気付いたのに、言い出さないなら大丈夫だろうと楽観していたんだ」


「ごめん、もっと早くに休憩をとるべきだった」


 そう言って苦笑いする先輩。

 もはや格好良すぎてどっちが彼氏かわからないんですけれども。







 そのあとちょっと口ごもってから、「実はお前と二人きりで話せる時間が楽しくて…なかなか車を停められなかったんだ」と言われた。


 まさか同じことを思っていたなんて。 







「あの、先輩。今日とっても楽しいです。楽しくて、僕も調子乗ってたんです。大丈夫だろうって思って」


「そう…なのか?」


「はい。運転中はかっこいい先輩に見とれてましたし、先輩独り占めにしてたくさん話せるのも幸せで」






 でも、まだちょっと具合が悪いみたいです。




 そう言ってそっと手をつながせてもらう。役得。

 先輩は意外と成すがままになってくれている。






「…他になにか私にできることはないか?」


「え?」


「その…かわいい私の彼氏に、もっと何かしてやりたいんだが」



 目を逸らしながら言う先輩。ちょっと待って何このかわいい生物!


 この際彼氏に使う形容詞じゃないのが混じっていた気がするのは置いておく。そもそも僕だって先輩にかっこいいとか言ってたし。




「じゃあ先輩。お願いがあるんですけど」


「なんだ?私にできる事があるなら何でもしてやるぞ?」


「えっと、後で体調良くなったら一緒に道の駅見に行きましょう?それまで、出来たら…」


「出来たら…?」







「先輩のひざまくらで、休憩させてほしいなぁって」












 うん。薄々感づいてたんだよね。先輩が僕の上目使いに弱いっていうの。


 こういう時は童顔でよかったって心から思う。


 きりっとした美人さんの先輩には釣り合ってないかもしれないけど、先輩がかわいいって甘やかしてくれるなら最大限に利用するさ。


 ほんと、黙ってれば真面目に…って言うより幼く見えるからみんな油断してくれるから助かるよね。









 先輩のひざまくら?もちろん堪能させていただきました。


 真っ赤になった先輩もかわいかったけど、「キスしてくれたらすぐ治っちゃうかもー」と言ったらさすがに怒られた。




 でも後から「すぐ治ったらちょっとしか甘やかせないだろう?」と艶っぽい顔が迫ってきたので、やっぱり僕の彼女さんはかっこよすぎるだろうと思うのだ。







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