ファーストデート ■電車
■電車デート(公園デートへ行く道中)
■高校生同級生彼氏×同級生彼女
ついにやってきてしまった、今日。
いや、もちろん誘ったのは自分だったよ?でもさ。本当にOKもらえると思わなかったっていうかさ。
まさか学校一の人気を誇る彼女にデートOKしてもらえるとかさ…!
毎日見ている制服姿でさえ可憐な彼女。
ありきたりなブレザーのはずなのに、しかも彼女は律儀に校則を守って膝丈スカートなのに、それでも尚他の下着が見えそうな短いスカートの女子なんかの数倍かわいい。
細い腕に細い脚、色白だからかあたたかい場所にいると赤くなってしまう頬、ふわふわした長い髪に優しい笑顔と言葉。
男女問わず絵に描いたように人気者の彼女が、なぜ僕なんかと仲良くなってくれたのか。
気付けば彼女が隣に来て笑顔で話しかけてくれていた気がする。
幸運にも同じ美術部ということもあったが、彼女からでないととても自分からは話しかけられなかったと思う。
少しずつ少しずつ。
気付けば桜の季節が過ぎじりじりと太陽の照りつける季節となった頃には、表向きすっかり打ち解けたように彼女と話せるようになっていた。
表向き。表向きだけでも取り繕えるようになった自分を褒めたいと思う。
実際は今でも彼女がそばにくれば挙動不審になるし、話している間も彼女に聞こえるんじゃないかというほど心臓が大きな音を立てている。
きっと、夏休みの宿題で「美術部員は写生5枚なー」とか先生が言いださなければこうはならなかった。
相変わらずなんで俺のところに来てくれるかわからない彼女が、隣で「せっかく写生するならちょっと遠出したいなぁ」と言ったから。
でもひとりでいくのも寂しいから…と続けたから、「じゃあ一緒に行かない?」と言ってしまったんだ。
完全に勢いに任せてデートに誘ってしまった自分に気付き慌てたが、一拍おいて彼女は「うん!行きたい!」と言ってくれた。
天使か。さすが学校一の人気。
一応場所は少し離れた大きな公園に決めた。
昼間はかなり日差しが強くなる為、日陰のある休憩所が多いここにしようと決めた。
あとは画材に飲み物にタオルに念のためレジャーシートに…と色々詰め込んだら、リュックがかなり重たくなってしまった。
様子見に来た姉に「あんたそれ詰め込みすぎでしょ!」と言われたが、画材を手で持っていくか中に入れるかの違いだけだったのでしょうがないと諦めてもらった。
ここまで準備して気付く。
…あれ?一緒に写生に行くだけで、もしかしてデートって思ってるの僕だけ?
*****
翌朝は快晴だった。
気分がよかったので自分でおにぎりも作った。
あの公園は中に売店もあったはずだから、足りない分は買って食べればいいし、食べなくても最悪おやつで食べればいいだろう。
そう思いつつ増えたおにぎりで、少し空いていたリュックも完全にいっぱいになった。
駅についたらそこに天使がいた。
違った。彼女だった。
しかも彼女も僕に負けず劣らずのサイズのリュックを背負い、更に手にはバスケットを持っていた。
来た電車に乗り込みながら大荷物の理由を聞いてみると、ほぼ僕と同じ思考回路でそこに至ったということがわかって二人で笑った。
バスケットの中身はなんとお弁当らしく、「早起きして作ったんだけど、美味しいかどうか…」と心細そうに言う彼女がたまらない。すでにごちそうさまです。
今日の写生の話、部活の話、クラスメイトの話、家の話。乗った駅は人が多かった為二人で立って話していたが、話は尽きるとこなく続く。
いや、あえて話し続けることで本題から逃げていたと言っても過言ではない。
なんでそんな短いスカート履いてるの…!
いや、厳密には下にズボン履いてるとかキュロットだとかかもしれないんだけど。
学校では膝丈スカート+ハイソックス装備の彼女が、まさかミニ丈スカートに生足でサンダルとか。誰が予想できただろうか。
「今日ほんとに暑いよねぇ~」と言いながら壁にもたれかかる彼女。暑いのはわかるけどその丈って!目のやり場に困りすぎるっていうか!
とにかく目線がそこに吸い寄せられるのを防ぐべく、僕はひたすら話し続けた。
「今日はたくさんおしゃべりできて嬉しい」なんて、嬉しいのは僕の方なんですがごちそうさまです!とか勢いで言いかけてなんとか黙るということを繰り返す。
そのうち、彼女がぶるっと身体を震わせたのに気付いた。
「どうかした?具合悪い?」
その言葉にびっくりしたような彼女。気付かれるとは思っていなかったらしい。
「あの、具合が悪いんじゃなくてその…ちょっと、寒くなってきて…」
え?暑いんでなく?と思ったが、よくよく見ると彼女の立っている位置にエアコンの風が直撃しているようだった。
壁にもたれかかってその正面に僕がいたせいで動けなかったらしい。完全に邪魔になってるよ僕。
「ごめん気付かなくて…!そろそろ空いてる席もあるし、座ろうか?」
彼女はちょっと悩んだような顔をしてから、「じゃああっちに…」と指差した。
二人掛けが並ぶ車両の一番前の席を確保し、ちょっとゆとりのある足元にそれぞれの荷物を下ろしてやっと一息つくことができた。
先程邪魔になっていた反省をふまえ、「どっちに座る?」と聞くと「じゃあ通路側で…」と言う彼女。
窓際よりも気軽に立ちやすいからいいかな思い、僕が窓際に座る。
座ったのはいいのだが。
座ったことでよりいっそう強調される彼女の太ももはどうしたらいいんだろう…!
しかも座ったことで肘掛けに腕を置いていいものかどうかも迷う。悩んだ末に真ん中の肘掛けは使わないことにした。
彼女も同じ結論に至ったようで、真ん中の肘掛けには手を触れなかった。
更に、先程のようにおしゃべりがはずまない。
もしかして、向かい合っていたからあんなに話が弾んだんだろうか。隣りに座っているというこの状況が緊張を高めているということも否定しないが。
さっきまであれだけ話してくれていた彼女も、どことなくもじもじしながら手を膝に乗せている。
膝に乗せている手を見るということは。
自動的に彼女のむき出しの脚を見る事にもなるわけで。
「あぁもう!だめだ!」
ひとり小さく言ったつもりだったが、彼女が小さくびくっとしたので聞こえていたらしい。
ごめん。今からもっと引かれちゃうかも。
僕は日焼け防止として羽織っていた薄手の長袖シャツを脱ぐ。
来るまでに汗かいたかもしれないけど、下のTシャツが頑張ってくれたと信じたい。
「ごめん。これ、よかったら膝に掛けてくれないかな…」
どうしても目がいっちゃって。気持ち悪くてほんとごめん。
そこまで続けると、きょとんとしていた彼女の顔が真っ赤に染まる。
ああやっぱりありえない気持ち悪さだよね。ここでお別れになるのかな。短かった僕の初デート。
「…あの、ごめん。ありがとう」
ふわっと彼女のいい香りがしたと思ったら、僕の手から上着が消えていた。
「遠慮なく、使わせてもらいます。ありがとう」
彼女の二度目のお礼が聞こえたことで意識が戻った。
「いや!あの!気持ち悪かったら無理しなくても!」
「気持ち悪くなんかない!」
彼女の大きい声にちょっとびっくりする。こんな場所で大きい声なんて出さないタイプなのに。
実際、言った次の瞬間には自分で自分にびっくりしている彼女。本当に、何してもかわいいなぁ。
無言で僕の上着を膝に掛けた彼女は、小さな声で僕に身体を近づけて言った。
「実は、あなたにちょっとでも意識してほしくてこんな格好で来たの」
「あなたは宿題の為って思ってたかもしれないけれど、私はデートできるって思って」
「だから頑張ってお弁当も作ってみたの…作ってから来る間にもしかして迷惑だったかなって思って」
そう言いながら涙ぐむ彼女。
「そんな!迷惑なんてないよ!」
とっさに涙を拭おうとした彼女の手をとった。
しかし、勢い余り過ぎて完全に余計なことまで口走ってしまった。
「だってそもそも制服の膝丈スカートでさえかわいいと思ってたのに!」
「今日なんか会った瞬間天使か!とか思っちゃったし!」
*****
その後、電車の中でそこそこのボリュームで騒いでしまったことに気付いて二人して周囲の人に謝ってしまった。
幸い一番先頭だったこともあり、みなさんそこまで気に留めてはいないようだった。騒々しさについては、だけど。内容は完全に聞かれていたらしい。にやにやしてたもんな、隣のカップル。
結局目的の駅につくまで彼女は僕の上着を掛けてくれていたし、つかんだ手はそのまま真ん中でつながれていた。
疲れたのか僕にもたれかかってうとうとしていた彼女に、「短いスカートは嬉しいけど他の人に見られたくないな」と勇気を出して言ってみた。
「気持ち悪い!」とは言われなかったが、かわりに真っ赤なほっぺが見えたので、たぶん、彼女は寝られなかったんじゃなかろうか。
さあ。彼女にいつ大好きを伝えようか。