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ファーストデート ■水族館

■水族館デート


■高校生先輩彼氏×後輩彼女

「じゃあ、待ち合わせは駅に13時で!イルカショーが15時にあるので、できたらそれ見たいですね」


「了解した。じゃあまた明日」


先輩からの返信を見ただけでにやにやしてしまう。


なんと言っても、明日は初デート。


これはテンション上げざるを得ないでしょう!









先輩と私が付き合い始めたのは、実は冬休みが明けた頃。

春になったら先輩と一緒にいられるのもあと一年かぁ…と思って勇気を出して告白してみた。

正直、いつも一緒にいるように見える仲の良い美人さんのことが好きなのかなぁと思っていたけれど、お付き合いしたい旨を伝えたところまさかの「了解した」とのお返事。



それから先輩と私は、彼氏と彼女になった。



普段から口数は少ない割に優しく気遣いが素敵な先輩。


「あと一年しかないので、できたらお弁当一緒に食べたりとか…」とダメ元でお願いしてみたら、あまり間を置かず「了解した」と言ってくれた。

いつもは私が先輩を迎えに行くけれど、毎度毎度誰かしらから冷やかされている。


「すみません、お迎えに行くのやめましょうか?」と恐る恐る聞いてみると、「あいつらのことは気にしなくていいし、俺はお前が迎えに来てくれる方が嬉しい」と言ってくれた。




私のわがままなのに、先輩が嬉しいって言ってくれるのが嬉しい。




でも、どこまでが普通で、どこまでがわがままなんだろう?




お付き合いしてから2ヶ月くらい経つけれど、未だに私はわがままばっかり言っている気がする。



「いつもわがままばかり言ってすみません…」


「そんなことないよ」





そう言ってくれる先輩だけど。







先輩から好きって言われたこと、ないんだよなぁ。






それは自分のなかで小さなしこりとなって、ふと思い出す度に胸の奥でその存在を主張してくる。

優しい先輩。わがままばっかりの私。

もしかして、私のわがままに付き合ってくれてるだけなのかなぁ。








いつもの学校じゃなくて、どこか他の場所だったら、先輩の本当の気持ちを聞けるんじゃないだろうか。

もし私のわがままに付き合ってくれてるだけなら、それは申し訳なさ過ぎる。


そう思って「今度の日曜日、一緒にお出かけしませんか?」と声を掛けた。

先輩はちょっとびっくりしたような顔だったけれど、いつものように「了解した」と言ってくれた。







「もしかしなくても…初デートだよね…」


前日夜には明日のコーデを考えたり、先輩が楽しんでくれる為にはどうしたらいいのか考えたりと、なかなか眠れなかった。

本当は朝から遊びたかったが、高校生の私たちの懐具合から言うと、水族館の入館料を支払うとあとはランチかディナーかどちらか豪華にするのが関の山。

いつも学校では一緒にランチしてくれているからせっかくならディナーを一緒に!とお願いしてしまった。先輩はいつも通り「了解した」としか返信くれなかったけど…迷惑じゃなかったかなぁ…








翌日は起きてからゆっくり支度をした。

昨晩は考えすぎてまとまらなくなり、初めてのデートって何着ればいいの!?とパニックになりながらネットで検索して、結局裾がバルーンになったアイボリーのノースリーブワンピにショートパンツ、それに薄いピンクのカーディガンにショートブーツを合わせた。


…ちょっとでもかわいいって、思ってもらえるかなぁ。








結局待ち合わせにも遅れることなく、予定通り移動することができて無事に目的だったイルカショーを見ることができた。








見ることができた、まではよかったんだけど…








「お前…それ、大丈夫…じゃないよな」


「は…はい…さすがにちょっと…」


私たちの席は、イルカプールの真ん前のいわゆるレインコート必須席ではなかった。

なんなら少し端によっている方の、それもプールからはだいぶ離れた位置の席だった。






それなのに。

どうしてこうなった。







「すまん、俺がもう少し早く気づいていれば」


「いえいえ!先輩のせいではないので!」


「でもそれじゃあさすがに風邪引くだろう…」


「それは…否定しかねますが…」




そう。


元気いっぱい泳いで跳ねていたイルカさん。

ついでに元気いっぱいのお姉さんの指示に従い、勢いよく泳いできたと思ったらやられた。



ピンポイントで私だけ濡れるなんて…なんてついてない…



でも、濡れたのが私だけでよかった。

わがまま言って一緒に来てもらったのに、それでこんな目に会わせたんじゃ目も当てられない。





「え…っと、大丈夫ですよ。濡れ方は派手ですけど、実際は髪と片腕が濡れてるだけですから!」



まぁがんばってセットしてきた髪と、気合い入れてコーデしてきた服、なんですけどね。とても言えないですよね。



あー、せっかく頑張ったのにな。かわいいって言われたくて。

でも結局会ってからもかわいいって言ってもらえなくて、でも会えたらそれだけで嬉しくなって。




嬉しくなった、はずだったんだけど。





自分でも意識しないうちに、ぽろりと地面に水滴が吸い込まれた。

今なら髪から滴る水だと思ってもらえる、かな。








どんどんネガティブな思考に陥っている最中、ふと気づいたら目の前になにか黒いものが差し出されていた。






黒の、パーカー。



先輩の、パーカー。








意味がわからなくてきょとんとしていたら、更にタオルまで差し出された。



「とりあえずトイレに行こう。タオル使っていいから、ちゃんと髪と体拭いてきて。上着脱いだらパーカー着てきて」


「ぅえっ!?いやあの、申し訳ないんで…!」



春だとはいえ、外は少し風があって日陰は肌寒く感じる。

いくら薄手のパーカーとはいえ、これがないと先輩が寒くなってしまうのではないか。





「俺は下にまだTシャツ着てるから大丈夫だけど、お前その下袖無しだろう?」


「はっ…えっ…なんでそれを…」


カーディガンを脱いだ覚えはなく、ついでに言えばワンピースについて言及した覚えもされた覚えもなかった。



すると、先輩の顔がぽんっと音を立てて赤く染まったように見えた。




口元に手をやりながら、空いた手で持ったタオルを私の濡れたカーディガンに当てながら、小さな声が聞こえてきた。





「…待ち合わせ場所に来たときに、すっげぇかわいいって思った。電車の中でもここに来てもずっと目が離せなかった」



俺の方がでかいから、お前見下ろすとうなじとか肩とか見えちゃって…と、どんどん小声になる先輩。








先輩の真っ赤な顔が感染したように、私の頬まで真っ赤になってきたことがわかる。



それは恥ずかしいだけじゃなくて。



「えっと…あの、とりあえずトイレ行ってきますね…!」



はじめてかわいいって言ってもらったことが嬉しくて。










トイレの個室でカーディガンを脱ぎ、濡れた腕と髪を拭いていく。

ある意味ノースリーブで正解だったなぁ。ワンピごと変えるってさすがにきついし。



髪はなるべく丁寧に、水分をとるようにタオルを当てる。

スプレーでがっちり固めず、ふわふわに巻いてピンを多用して留めただけだったので、とりあえずピンを外して髪を下ろしてみる。




「うーん…下ろしたままはきついか…」


ふわふわしすぎた髪が鳥の巣のようになっている。


「仕方ない…いつもと一緒になっちゃうけど、ポニーテールにするか…」


肩より長い私の髪だが、高い位置で結い上げれば肩くらいの長さになる。

貸してもらったパーカーはカーディガンと違ってフードがついているので、首元のボリュームは少なくてもいいでしょうと自分にゴーサインを出す。







鏡の前で髪型をチェックして、唯一のメイクだった色つきリップを引き直して、最後にパーカーを手に取る。



「あー…でも、着るしかないもんね…」



そう言いつつも、口元がにやけるのを抑えられない。

先輩のパーカー。

なんだろうこの破壊力。





羽織ってみると、予想していた通り袖も丈も長かった。

袖はちょっと指先が出るくらいならよかったが、完全に隠れてしまっている。丈に至っては、ショートパンツがちょうど隠れるくらいのロング丈。



予想外だったのは、あまりに強い先輩の香り。



いつも隣でふわっと香る先輩の香りが、こんなに近くで。



「これ…心臓に悪いレベルでドキドキしてるんだけど…」




でもこんな、子供が大人の洋服着てますってかんじになっちゃって。



先輩…さすがに残念に思うよね…









濡れたタオルとカーディガンを手に、恐る恐るトイレから出る。


トイレ前のベンチのひとつに、先輩の姿を見つけた。


なにか袋を手にしてスマホを真剣に見ている先輩。そうっと近付いて先輩の前に立つと、がばっと顔を上げた先輩と目があった。



先輩は一瞬目を見開いて、そのあと私の全身を目で確認したようだった。




じっと私を見つめているのに、何も言ってくれない先輩。

いたたまれなくなった私は、恐る恐る声を掛ける。



「あ…の、すみません。せっかく貸してもらったのに…」


思った以上にぶかぶかで。


そう続けようとした私の台詞は、声になることなく消されてしまった。


ぐいっと手を引き急に歩き出した先輩によって。









早歩きの先輩になんとか必死でついていき、気付けば周囲を暗く囲まれたクラゲの水槽まで来た。


そろそろ次のイルカショーの時間だからか、人影もまばらだ。


やっと立ち止まってくれたと、ここぞとばかりに呼吸を整える。


片手は先輩につながれたまま、もう片手は濡れた衣類を持っている為に変な体勢になってしまうが、気にせずゆっくり深呼吸する。




すると再びぐいっと手を引っ張られ、疲れて踏ん張れなかった足のおかげでぐらりと身体が傾く。

あ、転ぶ…と思った瞬間、ふわっと温かいものに包まれる感触がした。

もしかして…









「悪い…急にこんなことして…」



頭の上から先輩の声が降ってくる。ドキドキっていうより、どっくんどっくん音を立てている鼓動。先輩から聞こえる音。




「…ずっと、かわいいなって思ってた。話し掛けてくれるようになって、まさか告白なんてしてくれるなんて思ってもみなくて」





ずっとずっと、好きだったんだ。







その言葉が聞こえた瞬間、驚いた私は慌てて上を向いた。






「え…じゃあ、先輩が私と付き合ってくれたのって、私のわがままに付き合ってくれたんじゃないんですか…?」


「どうしてそう思った?」



ちょっと不機嫌そうな顔になった先輩。

そんな顔もかっこいいなぁなんて思いつつ私は言葉を続ける。




「だって私が何言っても 了解した しか返ってこないし、かわいいも好きもずっと言われたことなかったし…」


そこまで言ったところで大きなため息が聞こえた。

そして、私を抱き締めている片方の手が外れ、私の頬にきた。




「ちょっ…先輩!さっきから恥ずかしい…!」


「…その、いつもの髪型すっげー好き。今日の気合い入れてきてくれた服も髪もかわいいかった。いつも昼に迎えに来てくれるとき、笑顔で呼んでくれるのが嬉しい。廊下とか授業中に俺を見つけてふわって笑うのもかわいい。ただでさえいつも必死に我慢してたのに」



俺の服着てるお前見たら、もう我慢できなかった。







頬に添えられた手のひらが私の顎にきたと思ったら、先輩の顔が近づいてきて。

私のファーストキスは、想像していた以上にロマンチックなものとなった。










「そうだ、お前濡れた服とタオルこの中に入れな?」


「そういえば先輩、その袋どうしたんですか?」



ちょっと明るい場所のベンチまで来たところで、先輩から厚手のビニール袋を差し出された。

いわゆる、お土産用の袋。ばっちり水族館のロゴも入ってるし。








「お前待ってる間に、売店で買い物してきたんだ。ついでに大きめの袋もらってきた」


「さすが先輩…気遣いのできる男ですね…」


私はありがたく袋を受け取り、いそいそと濡れた衣類を入れる。

タオルは洗濯してから返さないと。帰ってお母さんに言わないとなぁ。



考えつつ袋に入れ終わって顔を上げると、手のひらサイズの小さい袋が手渡された。


「あれ?先輩、これは何入れる用ですか?」


まだ何か入れるものあったっけ。


「ちげぇよ…とりあえず中見てみて」


呆れたように言う先輩。そりゃそうか…お土産用の袋があったら普通は中身があるよね…




テープをそっと剥がし、中をのぞいてみる。


そこには、艶々した白い生地にイルカのチャームがついているシュシュがあった。




「あの…これって…」


「…今日の服に合うかなって思った。よく考えたら今日の髪型じゃあ付けれないだろって後から気付いたんだけど」





だからお前がそのいつもの髪型で出てきたとき、びっくりしたんだ。




はにかんだように笑う先輩に、私の胸はまたびっくりしたようにドキドキ音を立てる。





「…アリガトウゴザイマス」


「なんで片言なんだよ、かわいいなお前」


「先輩…っ、なんで急にそんなにかわいいとか好きとか言うようになったんですか」


「そりゃあお前、もう我慢しなくてもいいからな」




そう言うと先輩は、不意に身体を曲げて掠めるように私にキスをした。





突然のことに慌てる私を見て、にやにやしている先輩。





「ひょっとして先輩…いじわるなんですか…?」


「ひょっとしなくても、俺はいじわるだよ。ずっとお前が不安だって知ってたのに、ちゃんと言葉にしなかったんだからな」




でも、ちょっとの間だけでも、俺をまっすぐに追ってきてくれるお前を見てたかったんだ。



いちいち迷惑か、わがままかって気にするお前がかわいくて。








「正直お前のお願いはわがままっていうより願ったり叶ったりだからなー」と言う先輩の顔を恥ずかしくて見ることができず、だまって下を向いたままシュシュを髪につける。





「うん。やっぱり似合う似合う」



満足そうに笑う先輩を見ていると、今日ここに来るまでのもやもやはどうでもよくなったしまった。




あ、でも私、大切なこと忘れてる。






「あの、先輩」


先輩のTシャツの裾を引っ張り、耳に口を近付ける。

傾いだ先輩の身体にちょっと抱きつきながら、勇気を出して言う。






「私も先輩のこと、大好きですからね」












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