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第2話【屈辱の日々】
その日、森ひろしは営業先の地方の旅館に向かっていた。
そしていつものように紺色の背広に着替え、森進一の【おふくろさん】と五木ひろしの【よこはま、たそがれ】を心を込めて熱唱した。
しかし、旅館の客のほとんどが森ひろしのものまねなど聞いておらず、食事をしながら世間話に花を咲かせていた。
━━1ヵ月後、森ひろしが所属する芸能事務所パープリンパラダイス主催のお笑いライヴがおこなわれた。
会場には300人ほどの客がつめかけ、パープリンパラダイスが誇る芸人たちのコント、漫才、漫談に爆笑が巻き起こっていた。
そしてむかえた森ひろしの出番。彼はこの日ももちろん森進一の【おふくろさん】と五木ひろしの【よこはま、たそがれ】を熱唱した。
が━━客席からは罵倒と野次が飛び交った。
「なんだよ、あの芸人」
「いまどき森進一と五木ひろしのものまねかよ」
「つまらねー。金返せってんだ」
やがて観客は森ひろしに対して帰れコールを開始した。森ひろしは悔しさと屈辱を胸にステージを降りていった。