1/6
第1話【孤独なものまね芸人】
若者の街、渋谷。そこでひとり、ストリートライヴをおこなうお笑い芸人がいた。
芸人の名は森ひろし、42歳。
【森ひろし】とは素朴な名前だが、これは本名ではなく芸名である。
森は森進一の森、ひろしは五木ひろしのひろし━━実は森ひろしは森進一と五木ひろしのものまねを得意とするものまね芸人なのである。
その日も森ひろしは紺色の背広姿で森進一の【おふくろさん】と五木ひろしの【よこはま、たそがれ】を熱唱していた。
しかし、そんな彼を足を止めて見る人はほとんどいず、たまに足を止めて見る若者たちの反応も冷ややかなものだった。
「い、いやぁ、似てるっちゃ似てるんだけど……」
「いまどき森進一と五木ひろしのものまねやられてもねぇ……」
最後に連れの少女がいった。
「はっきりいって、おもしろくないよ。さ、行こう」
そして若者たちは雑踏の中に姿を消していった。そんな若者たちを森ひろしはくちびるをかみしめて見つめるだけだった……。