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僕は泣いたりしない

作者: 藍澤李色

即興小説から。お題は「頭の中の汗」で、制限時間15分でした。

 僕の頭の中は今、大変なことになっている。

 大変なことになっているが、一見平静を装っているのだ。話しかけられたら笑顔で応じるし、冗談だって言う。相手の話に面白い合いの手をいれるし、今度の日曜に遊びに行かないかと誘われれば喜んで応じる。

 だけど、頭の中はめちゃくちゃなのだ。今すぐ大声で叫びながら号泣したいくらいだった。

 今日、僕は振られたのだ。

 別に告白したわけじゃない。僕には憧れていた、想いを告げるべきかどうか悩んでいる先輩がいた。思春期にはよくある甘酸っぱい恋心と言われたらそれまでだけど、僕は自分で思っていた以上にこの恋に本気だったらしい。

 だけど先輩にはもう恋人がいたのだ。付き合って三年の同級生で、中学からの付き合い。大学に進学後は同棲するつもりだという。引退を済ませてからも時折部活の様子を見にくる先輩が、仲の良い後輩との恋愛話で盛り上がった時に、話しているのを聞いたのだ。

 僕はこの恋のことを誰にも言ってなかった。だから、恋の終わりを知った悲しみを、誰にも打ち明けることができなかった。

 今更、終わってしまった恋を嘆いて友達にすがるのなんて、恥ずかしくて、悔しくて。

 僕は放課後、人のあまりこない校舎の一番端っこの階段で一息ついていた。部活に行く勇気が出ない。

「あ、こんなところにいた」

 声が聞こえて、僕は上を見上げた。階段の踊り場から、中学以来の付き合いになる幼なじみが顔をのぞかせていた。嫌な奴に見られた。

「部活には先にいってろよ」

「うん、行くよ。あんた連れて」

 とことこと階段を下りた彼女は、僕の隣に座ってハンカチを差し出した。

「泣きなさいよ」

「は!? 何で?」

「何年の付き合いだと思ってるの? 泣きなさいって」

 ハンカチを押し付けられた。目が熱い。違う、泣きたいんじゃない。泣いてるわけじゃない。

「強がっちゃって」

「違う、これは、泣いてるんじゃ、なくて……汗だ」

「へー、目から汗ね」

「そ、そうだ……」

 彼女が子供にするみたいに、僕の頭を撫でる。悔しいけど、心強い。

「頭の中が汗まみれになるくらい走ってきた恋だったのね」

初恋なんてそんなもんですよ、と他人事のように言う。

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