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3,彼女の秘密


 星野未宙は、人間では無い。

 少なくとも、まともな人間では無い。


 彼女は、空の彼方から降って来た。


 近未来的な機械の揺り篭に包まれて、その少女はこの星に降り立ったのだ。


 彼女を拾った男女、後に彼女の両親となる、子のいない夫婦。

 2人は、宇宙から降って来た近未来チックなカプセル、そしてその中から現れた触角の生えていた少女を見て、即確信したことがある。


 やべぇ、宇宙人きたこれ、と。


 落下の衝撃のせいか、彼女は記憶喪失状態に陥っていた。

 肉体的にも疲労が酷く、とても衰弱していた。


 これはいけない、そう思った夫婦。

 ちょっとだけ「子供も欲しかったし丁度いいや」なんて事も考えつつ、彼女をテイクアウト…じゃなくて、拾って手当をしてあげた。

 そしてちゃっかり「未宙」と言う名前まで付けて、思いっきり我が子として育て始めた訳である。


 でもやっぱ、本当の家族がいるんなら、そっちに帰してあげるべきだろうか。

 未宙の両親は、この10年間、そんな事をずっと考えていたそうだ。


 でも、未宙的には全く記憶に残ってない未知の家族より、今の家族の方が好きだ。

 だから、彼女は決意する。


 自分の本当に家族を探し出して、話を聞いてみよう、と。

 今の家族と元の家族で手を取り合って、お互い、私に関係する問題を抱えない形で暮らせる方法を、探したい。


 だから、今日も未宙は天体望遠鏡を覗き込む。

 ふいに、あの綺麗な満月の方からお迎えが来るんじゃないか。

 そんな淡い期待も持ちながら、彼女は宇宙人を待ち、探し続ける。


 ……そういう生活を続ける内、彼女も一種の変態として、覚醒してしまう訳である。




「……そんな事情があるなんて知らなかったたぁ言え……申し訳無ぇ事をしちまったな」

「無神経な嘘を吐いてしまった……ごめんなさい」

「僕がもっと早く否定してれば…本当にごめんなさい!」

「い、いいの、全部、早合点し過ぎた私が悪いだけだから……」


 夕日のトワイライトのおかげで、幻想的な雰囲気が漂いだした演劇部部室。


 私とサーガくんと幽霊先輩の目の前で、星野先輩は床に手をついて崩れ落ちていた。

 己の愚かさを相当悔いてるのだろう。それが見てるだけで伝わってくるどんより感である。


 もうバレてしまったからか、触角を隠そうとする気配は無い。

 触角……触角かぁ……プニプニぷっくりな感触してそうだなぁ、あの触角……


「本当、私は宇宙人が絡むと……冷静さを欠いてしまうと言うか……こんな私が大嫌い」

「ほ、星野先輩がすごい勢いで凹んでる……!」

「…………」

「笛地さん? しゅんとした反省顔から急に一転してクールフェイスになったけど……妙なこと考えてないよね?」

「妙なこと?」


 何の話だ、失礼な。

 今、嘘についてはとりあえず本人からお許しがもらえた訳だ。

 なので私はもう次の目的に向かって走り出しているだけだ。


「……星野先輩、その触角、指で摘んでふにふにしても良いですか?」

「へ?」

「やっぱり妙なこと考えてたよ!」


 妙なことって……今更何を言ってるの、サーガくん。

 この2週間、君は私に何をされて来たか忘れたの?

 私への理解度が足りてない。


「あ、あの、えーと……」

「あ、笛地好実です」

「ちなみに俺は友冷幽太だ」

「ぼ、僕は、佐ヶ野サーガです!」

「ああ、笛地さん、ごめんね。この触角、結構その…敏感だから、あんまり人に触らせるのは……」

「何でそういう風に触りたくなる様に仕向けるんですか! そういう事を言うなら触らせてくださいよ!」

「えぇっ!? どうしよう、私にはこの子が何を言ってるのか理解できない!」

「星野先輩の方が正常なので気にしないでください。あと危険なので触角はもうしまってください」

「ああっそんな殺生な!」


 隙を突いてしゃぶろうと思ってたのに、サーガくんの進言のせいで触角が引っ込んでしまった。

 おのれサーガくん……明日は腰砕けになっても休憩させてあげないから、覚悟すると良い……!


「しっかし、宇宙人なんてモンが本当にいたんだな」

「ですね」

「ふ、2人とも頑なに軽いよね……」


 すげぇわー、と幽霊先輩は相変わらずの軽いリアクション。


 まぁ、サーガくんに幽霊先輩と来てるから、私も慣れてきた。

 未だにちょっと動揺の色を見せるサーガくんの方が異常な部類だろう。


 にしても星野先輩は宇宙人か……

 あの謎怪力は宇宙人特有のモノ、と言うことだろう。

 人間とは筋肉の質が根本的に違うから、体重は標準的なのにあのパワーを出せると。

 1つ、まぁ解けなくても何の問題も無かった疑問が解消された。


「……あの、お三方……私はどうなるんでしょうか…」


 うつ向きながら、星野先輩はおそるおそる、私達に問いかける。


「どうなるって……」


 どうにかして良いと言うなら、まず触角を好きにさせて欲しいが。


「あの、NASAだけは、NASAだけは勘弁してください……!」


 NASAに何かしら恐い偏見でも抱いているのか、本気でそれを恐れている感じだ。

 まぁ、宇宙研究に熱心な所だし、国が国だから手段を選ばないイメージはある。

 NASAに捕獲された宇宙人か……理科の授業で捕獲されたカエルやメダカみたいな未来が容易に想像できる。


「いや、別に突き出したりぁしねぇよ」


 幽霊先輩の仰る通りだ。

 私達にメリットが無い。


 何より、このまま一緒の高校に居続ければ、いずれはその触角をいただくチャンスも巡ってくるだろう。

 そんなチャンスを捨ててまでNASAに媚びを売るだけメリットは、無いのだ。


「まぁ、何だ。ここはお互いのためにも、今日の所は何事も無かったと言う事で、ひとつ」


 流石は年の功か、幽霊先輩が話の収拾を開始。


「あ、最後に聞きたいんだけど」


 ここで星野先輩からの質問。


「何で、佐ヶ野くんは宇宙人だーなんて嘘を?」


 何でって……


「そりゃあ、この純愛ボーイがあんたの事が好きだから、あんたの気を引くために何か策は無いかと……っ」


 そうそう、幽霊先輩の言う通り……って、あれ、何で幽霊先輩、急に黙っちゃったの?

 幽霊先輩、何か顔色悪くなってない? いや、元々幽霊のくせに血色が良すぎた方だけど。

 ん? サーガくんも何か泡吹いて倒れそうな顔してるけど……


 って、あ。


「……私の事が、好き?」


 ぽかん、と星野先輩も呆気に取られてしまっている。


 ……まぁ、呆気にも取られるだろう。

 この人は美人だし、告白された事はあるかも知れないが……こんな告口みたいな告白は初めてなはずだ。

 こんな事故みたいな告白を、過去にも経験した事があるとは思えない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!! ひどいよぉ! 友冷先輩っ!」

「す、すまん、つい口が……その……すまん」

「あうぁ……うぅ……次は気を付けてくださいよう……」


 次って何だ。

 ああ、サーガくん大分混乱してるな。


「えーと……」


 困った様に頬をかきながら、星野先輩は慎重に言葉を選んでいるご様子。

 まぁ困りもするだろう。

 だって、多分、星野先輩はサーガくんの事を好きでも嫌いでもない。

 多少記憶に残ってただけの存在だ。

 当然、考えなしに了承する事も、無下に拒絶する事も、気が引けるはずだ。


「うーん……あのさ、佐ヶ野くん」

「は、はひぃっ!」


 声が裏返ってしまっている。

 ああ、本当にサーガくんはこう、可愛いダメな子だなぁ。


「そういう気持ちはとっても嬉しいんだけど、私達はまだ、お互いの事、全然知らないから……」

「う、ぁ……はい……」

「先輩後輩……ううん、お友達からで、良いかな?」


 無難な返答だ。

 暴走時以外は気の利く良い人らしいし、相手を極力傷つけない形での告白の断り方くらいは理解しているか。


「よ、よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね」


 サーガくんとしても、こんな状態での告白でOKがもらえるなんてハナっから期待していなかったのだろう。

 完全な拒絶では無かっただけでも嬉しい様だ。とっても喜んでいる。


 あー喜びの余り尻尾ブンブン振っちゃってもう可愛いったらありゃあしない。

 私を誘ってるの? 全く。


「おお、何か上手い具合に無難な着地したみてぇだな……」


 ホッと胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべた幽霊先輩。


 ……まぁ、事故みたいな形にはなったが……なんだかんだ、これは大きな進展では無いだろうか。


 さっきまで微妙過ぎる接点しか無かった2人が、恋愛感情の有無をきちんと把握した状態で交友関係となった訳だ。

 大躍進と表現するに相応しいと思う。

 幽霊先輩、中々良い仕事をしたんじゃないか。1歩間違えば大事故だった気もするが、結果オーライって事だ。


 とりあえず、私の当面の目標は……


 どうやって星野先輩の触角を手中に収めるか、だ。


 ……あ、それと、サーガくんが星野先輩と友達以上になれる様に、協力する事。

 危ない危ない……サーガくんの角や尻尾をペロるための大事な口実を、忘れちゃあいけない。


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