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短編

白龍は雪に溶けた

作者:

ぼくはおぼえてる。

父様が、どんなにか強く、どんなにか優しかったか。


ぼくはしっている。

父様が、どんなにか母様を愛し、どんなにか僕を愛しているか。


ぼくはないている。

たくさんたくさん、父様と一緒に遊びたかった。


ぼくはこうかいしている。

もっともっと、父様に教えて頂きたいことがあった。


ぼくは、ぼくは、おもいだす。

あの日、父様が溶けてしまった冬の、寒い寒い夜空の色を。


ねぇ、きみはみたことがありますか?












大きくて、穢れの無い真っ白な誇り高い龍が、段々と小さく、ゆっくりと、空に溶けて逝く光景を。





















あの日、父様は仰った。


「幸せだった。俺は世界中のどの龍よりも、幸せだった」


僕の父様は、力有る白龍の雄として何千年もの永き時をたった一人で生きてこられた。人間達の書物にも古代竜として特徴や歴史の中で関わった事項が取り上げられているらしい。

そのように名が売れはしても、ついぞ(つがい)を見つけられずにいた父様は、寿命を終えるわずか三百年前に運命のつがいである母様を見つけこうべを垂れたと言う。長い長い生を、このまま、たった一人で終えるのだとばかり思っていたと仰られたときは物悲しそうで、けれど、僕を見て微笑む瞳が幸せそうで。


「僕は、父様の子で幸せです。母様の子で嬉しいです。だから、」


だから、だから、まだ傍にいて下さい。どうか僕を置いて逝かないで下さい。

他種族の者には三百歳で子供のような事を言うなと叱られそうだか、竜にとって三百年とはまだまだ赤子も良いところ。そんな時期に、僕は父様を失うのだ。わかってはいても納得など出来はしない。

心の臓が引き絞られるような、ぎゅうと、掴まれたように、苦しくて息が出来なくて、続きを言いたいのに、口から出るのは細い息だけで。瞳が潤んでいるのを知られたくはなくて、僕は空を見上げ呟いた。


「ゆ、き」


ふわり ふわり ちらり ちらり 小さな白が沢山沢山、ゆっくりと、僕等の元へと降りてくる。


「見て」


僕等を見守っていた母様が、笑っている。


いつの間にか、父は人のなりからゆっくりと龍へ。


いつの間にか、母の瞳は、うっすらと涙を纏い。


いつの間にか、僕の固く結ばれていた唇は


「行かないで」


「嫌です」


「もっと傍にいて下さい」


「父様、父様父さまとうさま」


「置いて逝かないでっ」


雪に覆われていた地面は、僕の涙で溶け始め、父様は……


「我の愛し子、そう我儘を申すものではない。これは決まりなのだ。我や愛し子が生まれ出でる大昔から決まっておったこと。我は逝かねばならない。……この身体は消え去ろうが、心は消えぬもの」


「愛し子、我の愛し子よ。父は誓おう。この身朽ちようとお前たちへの愛が変わりはしないことを」


そう告げた後、父様は、白龍へと姿を変え、空へ浮かび泳ぐように、溶けてしまわれた。












そうして僕は、世界で一番僕を、母を愛してくれる父を亡くした。

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