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アビリティ ゆいなsaid

 目の前に一枚の白い紙が現れた。不思議なことにその紙は浮いている。紙にはいくつかのアビリティについて記してあった。

 一つ目のアビリティは周りの隠れている敵が見えるアビリティで、使える武器は短剣。

 二つ目のアビリティは素早く動けるアビリティで、使える武器は片手用の剣。

 三つ目のアビリティは筋力が高くなるアビリティで、使える武器は両手用の剣。

 四つ目のアビリティは視力が高くなるアビリティで、使える武器はピック。

 五つ目のアビリティは跳躍力が高くなるアビリティで、使える武器はナイフ。

 六つ目のアビリティは聴力が高くなるアビリティで、使える武器はボーガン。

 私は少し迷ったが、四つ目のアビリティにすることにした。周りを見ると、生徒の多くは私と同じようにキョロキョロしていた。どうやら、ほとんどの生徒はアビリティを決め終わったらしい。すると、それを見かねたかのように主の声がした。

《そろそろ決まったようだね。それでは、選択したアビリティがいくつ目なのか声に出してほしい》

 小さなつぶやきから始まって、生徒達は声に出し始めた。私も声に出してみることにした。

「四つ目」

 急に目の前が真っ暗になった。何も見えなくて戸惑っていると、今度は目を開けられないくらいに眩しい光に包まれた。光がもとの明るさに戻ると、私はゆっくりと目を開けた。

 周りにいた教師が消えていた。気付くと手には先端が鋭くとがった二十センチくらいの細長い武器を握っていた。冷たくて、鋭い。私は過去の自分を思い出しそうになり、あわてて首を振った。

《それと、ゲームの舞台はこの街だ。クリア条件は、魔と呼ばれしモノを倒し、主のもとへ来ること。武器と回復薬は校舎の中に無制限で用意してある。回復薬は一種類だ。それでは、ゲームを楽しんでくれ。健闘を祈る》

 私はすぐに萌仲のところに行った。

「萌仲はどんなアビリティにした?」

「あたしは一つ目。ゆいなは?」

「私は四つ目。でも、使い方がわかんなくてさ」

「あたしもわからないのよね……」

 私は試しに目をギュッとつむって全神経を目に集中させた。一瞬、周りにいる生徒達の話し声が聞こえなくなったような気がした。それからゆっくりと目を開ける……。見えた。普通ではありえないくらい遠くまで。体育館の窓から見える景色がいつもよりもはっきりとしている。

「できたっ!見えたよ萌仲!」

「え?なにかしたの?」

「集中したら見えたっ!すっごい遠くまで!」

「あたしもやってみるわ」

 萌仲はさっきの私と同じように目を閉じた。それからゆっくりと目を開けると、萌仲は驚いた表情になった。

「見えるわ。壁が透き通って、校門も透き通って見える。……っ!?」

 萌仲は息を呑んで恐怖の表情を浮かべた。

「どうしたの?萌仲」

「獣がいるわ……。学校の外に、犬みたいなやつが……」

 ここからじゃ見えない。私のアビリティでは障害物しょうがいぶつ透視とうしできない。

 これが主の言っていた、向き不向きというやつか。

「いこう、萌仲。とりあえず外に出ないと、私には見えない」

「わかったわ……」

 萌仲が先に体育館の出入り口に向かって走り出した。私も走って後を追う。

「ほら、あそこよ。見える?」

「うん」

 アビリティを使わなくても見える。校門の向こうに、犬に似たようなフォルムのモノがいた。でも、ぼやけてよく見えない。私は意識して、アビリティを発動した。

「……っ!?」

「どうしたの?ゆいな」

 その獣の目に、私は恐怖を感じた。冷たい目。私は以前見た映画に出てきた殺人鬼の目を思い出した。生命いのちを平気で終わらせることのできる目。ただ無感動に、無感情に、ひねり潰すことができるモノの目。

「ヤバい。あいつら本気で、ためらうことなく、私たちを殺しにくるかもしれない……」

 数匹の獣。しかも、最初に戦わなければいけない敵。それでも、迷わずにはいられない。

 ………怖い。

「いくわよ、ゆいな」

「え、萌仲。でも……」

 躊躇ちゅうちょしている私に向かって、萌仲は今までに見せたことのないような真剣な表情を向けた。

「ここから動いて、戦わないといけないの。そうしなかったら何も始まらないし……」

 そこで萌仲は言葉を区切り、恐怖で震えている私を落ち着かせるように私の肩に両手を置いた。

「何も、終わらないわ」

「そうだよね、萌仲の言うとおりだ……。このままここに居たって変わらない。ゲームクリアも、ゲームオーバーもない。ただ時間が過ぎていくだけだ」

 萌仲はすごいと思う。みんながどうしようかと考えたり、現状を理解できずに戸惑ったりして立ち止まっているのに、萌仲は一番最初に動こうとしている。

 いつもみんなの後ろにいて、ただついて行くだけの私とは全然違う。私は今もそうだ。今回もまた、萌仲の後ろについている。でも、一番後ろじゃない……。二番目だ。

「行くわよ、ゆいな」

 萌仲がもう一度言った。今度は戸惑うことなく言葉が出た。

「もちろん」

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