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非現実的は突然に

 体育館には既に多くの生徒が集まっていた。その中に萌仲とゆいなは紛れ込んだ。各クラスで出席番号順に並んで立ったまま話を聞くのだが、これが相当キツイ。じっとしているのが耐えられない。生徒の多くはそう思っているようだった。

 八時三十分に朝会が開始した。司会の教師の号令で生徒全員が礼をする。

〈次は校長先生のお話です〉

〈えー………〉

 ピィィィ――――――――――

 マイクから漏れる突然の雑音に、思わず両腕で耳をふさいだ。周りを見るとゆいなと同じように耳をふさいでいる生徒がたくさんいた。萌仲を見ると、耳をふさいではいないが顔を思い切りしかめていた。

直後、スピーカーから機械を通したような声が聞こえた。

《やぁ、生徒のみなさん》

 まるで道で偶然出会ったかのような軽い挨拶だ。

《私の名は……、そうだな……。ヌシとでも呼べば良い。君たちの世界の時間は私の力によって停止している。周りを見て確認してほしい》

 周りを見ると、教師は瞬きひとつしないで校長先生を凝視していた。校長先生はマイクを持ち、口を少し開けた状態で固まっている。体育館の窓から青い大空を見上げる。空を飛ぶ鳥たちが停止していた。

 時間が……止まっている……っ⁉

《では、これからゲームを始めよう。この学校の全校生徒がプレイヤーだ。RPGロール・プレイング・ゲームが実際に体験できるような感覚でゲームをプレイして欲しい。ただし、RPGと異なるところは一度死んだら蘇生不可能だということだ》

 RPG………。ゆいなは以前、ネットゲームに夢中になった時期があった。それも全国規模のオンラインゲーム。多くのプレイヤーとチャットによる会話をした。パーティーを組んで協力しながらボスモンスターを倒した。何度かHPがゼロになることもあった。それでも………。

 死んだら必ず蘇生できた――――――――――――――。

《ゲームで死んでも現実世界の君たちの身体は死なない。ただし、死んだ者にはデスペナルティとして、余命宣告をする》

 余命宣告………。ヨメイ……。今、ゆいなたちは中学生だ。輝かしいとまではいかないかもしれないが、未来はある。いつか成し遂げたいと強く願い、夢にみる希望がある。確かに、いつ死ぬかわからないが、そんなものを毎日気にしていたらきりがない。だから毎日を楽しく過ごすのだ。それだけのために今を生きている。

 なのに……。それなのに………っ!

 ゆいなは唇をかみしめた。怒りと恐怖が入り混じった感情が溢れ出す。絶望がゆいなの身体を、脳を、心を襲った。それらを必死でこらえようと、さらに強くかみしめる。軽く血の味がした。錆びてしまった鉄に似た味だ。その感覚が、自分が今、生きていることを確認させてくれた。

 余命宣告されてしまったら、自分たちはどうするだろう。確定してしまった『死』に対して、残りの生命を精一杯生きることだけを考え、静かに『死』を受け入れるだろうか。それとも絶望のために狂い、迫り狂う『死』から逃れようと足掻くだろうか。または『死』に怯えて一歩も外に出ずに、暗い部屋の中で一人うずくまり、毎日逃れられない恐怖に耐え続けるだろうか。

 残りの人生を精一杯生きようと考えられる者が何人いるだろうか。『死』は予想できない。明日にでも、自分の人生が幕を閉じるかもしれないのだ。今生きて、この世界に存在しているならば当然、この世界から存在が消える時も来る。『生』があるならその裏には『死』も存在する。いつだって、『生』があるところには『死』が存在し、同じように『死』があるところには『生』が存在するのだ。

 わかっていた……。わかっていたはずなのに………。

 いざそのような状況に立ってみると、どうして『死』がこんなにも大きくて恐ろしいものに感じてしまうのだろうか。

《キミたちには、いくつか種類のある能力アビリティから一人ずつ好きなものを選んでもらう。アビリティは様々なものがあるが、それぞれに向き不向きがあるため、よく考えて選ぶと良い》

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