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14話


「私は、そう。ふわふわしていて可愛くて、楽しくなる様な恋愛が好きかな。深く辛いのも、悪いとは言わないけどね」


 パスタを囲みながら、カナエが頬に両手を当てて喋っている。口元に麺を放り込みながらでも素晴らしい程に心へ響き、明るい気分にさせられる。

 幸せで顔を赤くし、夢中で話し続ける姿はとても可愛らしい。一方で凄まじくあざとい気配が漂っていて、嘘臭く思えてしまう。話す内容は、『物語における恋愛の在り方』だ。


「こう、きゅんって、キュンってするよね? ね、ジョンさん」

「俺に言われてもな」恋愛を持たない自分には、難しい話だ。


 聞いてみると、彼女の恋愛観は尋常ではないくらいに明るく、現実感を伴わない物だった。ただ、それが彼女らしいと素直に思える。何より、それを自分で実行している所が良い。

 それは、お前達の恋愛関係なのではないか。時折プランクの方を見てみたが、彼は口出しせずに食事を続けている。


「例えばそう、自分達の世界に入り込んで、恥じらいとか照れとかを重視して、可愛くて幸せな関係を続けていく。とっても素敵」

「それは、例えば同性でも認識を変えないつもりか?」 

「同性でも」何が心に触れたのか、彼女が慈しむ様な微笑みを浮かべる。「むしろ、同性の方が綺麗に見えませんか?」

「どういう事だ?」

「男女だと種の保存とか、そういう方面に意識が行く可能性が高いからね。本能の絡まない、感情から来る愛の美しさには見劣りすると思って」

「お前、男だったのか」

 カナエが頬を膨らませる。むっとした、要するに不満げな顔だ。「私は別です。失礼な」

「だが、お前の恋人は男だ」

 プランクの方を見て言ってやると、何も分かっていない者を笑う様な声を出してきた。

「私を動かすのは本能じゃなくて、感情と意志だからね」

 自信たっぷりに言われると、確かにそんな気がしてくる。カナエという女を普通の人間と同列に考えるのが、そもそもの間違いに感じられた。

「本当に、通じ合える愛って素敵だよ」

「……かもな」

「君も、早く誰かと相思相愛になってみれば良い」

「残念ながら相手が居ないんだ。第一そういうのは苦手だし、人間と話すより、物語と会話していた方が楽しいというのも、まあ、有るんだけどな」物語を愛する自分には、そちらの方が似合う。

「そっか」理解の有る様子で、カナエが頷いた。「それならそれで良いんじゃないかな。世の中楽しさが一番だ。楽しくないなら恋愛なんてすべきじゃない」

「無理矢理に恋愛要素を突っ込む作品に言ってやりたいな、それ」

「完全に同感」


 言いつつも、食事に手を付けていく。そこで会話が一度止まった。更に乗せられたミートボールパスタは、三人分でもかなり多い部類だ。小さく口へ運んでいては何時終わるのかも分からない。

 とりあえず自分の食べる分を流し込む。味は良いが、別に興味は無かった。プランクという男も、きっとそうだろう。ならば、この料理を楽しんでいるのはカナエだけだと言える。

 食事は面白くない。なら、楽しい会話を続けるべきだ。そう思って話題作りにポケットを探り、偶然で手の中に入った物を取り出す。


「ところで、この名刺は?」


 紙の名刺を見た彼女が、食事の手を止める。「あれ、何時の間に」


「結構前にな」後から書かれた文字を読んでみる。「カミラ・クラメールか」

「嬉しい事に、サインを貰っちゃったんですよね」

「羨ましいな、本当に彼女の出演作は全て目を通したんだが」

「『グラン・ルームス』とか?」マイナーなタイトルを挙げてきたので、こちらも知名度の低い作品名を頭に浮かべる。「ああ、『ジャム物語・人は何故ジャムをパンに塗り、弾を詰まらせるのか』とかな」

「よく知ってるね」

「まあな、自分が顔を覚える価値の有る人間だ。圧倒的な雰囲気が作品を呑み込んでしまうし、インタビューなんかで聞いた素の性格が現実離れしていてな」

「そうそう、アクションもスタント無しで、噂じゃ最新作は本物の銃撃を駆け抜けるとか」一度感嘆しながらも、彼女は首を振った。「ああ、でもジョンさんなら同じ事が出来るか」

「お前もな」恐らく、自分よりカナエの方が強い。そういう予感が有る。


 敵対すれば一瞬で倒されそうだ。捕まえても殆ど抵抗されなかったのは、彼女自身の享楽的な好奇心が現れていたからだろう。

 謎の殺人夫婦を吹き飛ばしたカミラの方が、威圧感では遙かに上を行ったのだから、人間という種族は不思議だ。何となく、世界が物語に近づいている気がする。


「それで」世界に思いを馳せていると、カナエが手を伸ばしてきた。「返してくれませんか。彼女のファンだから」

「そうだな、返す」素直に手渡して返す。破く様な真似をする筈が無いし、奪っておくのも悪い気がした。


 彼女が名刺を受け取ったのを確認すると、多少の文句を言ってやりたくなる。


「でもな、俺だって少しくらい話したかったんだぞ」何せ、物語に近い女優だ。

 カナエの反応は困った様な物だった。「いや、ジョンさんね。君、薄々は気づかれていたと思いますよ?」


 何に気づかれたのか、とは聞くまでもない。十中八九、自分が連続爆破犯だという事だろう。あんな少しの邂逅で分かる物かと思ったが、大いにあり得る可能性だとも感じられた。

 配慮と、逃がしてくれた事実に感謝すべきかもしれないが、それでも話してみたかった相手だ。複雑な気分にさせられる。気持ちを呑み込む為に、料理に備え付けられた水を喉へ流し込んだ。


「ところで」黙り込んでいたプランクが、此処に来てようやく口を開いた。「貴方は、この世界を壊したいのでしょうか?」

 唐突な質問だが、答えに迷う物ではない。「そうだ。その通り」

「この人はね、世界を物語にしたいんだって。世界はこんなにも素晴らしいし、世界自体が楽しい物語なのにね」すかさずカナエが説明を加えてきた。

 彼女の論調の中で、それは一番に認め難い物だ。

「物語じゃないだろうが」

「いやいや、物語みたいに楽しくなければ世界はとっくに滅んでる」即座にプランクが口を挟む。「それは、貴女が滅ぼすという意味で?」


 カナエは意味の有りそうな笑みを浮かべた。ぞっとする表情だ。本当に世界の一つでも滅ぼしてしまいかねない。緩い頭をしていると分かっているからこそ、強い恐怖を与えられずに済んでいるのだ。


「そもそも、世界が物語であるか否かという点は、我々の知る所ではないと思いますが?」

「まあ、そうですね」恋人の指摘をカナエはあっさりと認める。「私達がそれを認識する為には、それを知る事が可能な立場に居るか、それとも神の視点を持っているか、あるいは……」止められた言葉の続きを口にしてみる。「第四の壁を突破しているか、か?」

「そう、そうだよそれ。ああ、プランクさんは知らないかな。劇場では三つの壁と、客席となる四つ目の壁が有って」

 途中で、プランクが手を振って見せた。「知っていますから、構いません」

「あ、知ってたの」


 残念そうに肩を落とすと、こちらへ指をさし、輪を描きながら嬉しそうに話してくる。


「まあともかく、そういう物を知る事が出来る人間って、限られると思うんですよ。自分が主人公だとは、主人公自身は思わない物だから」


 至極真っ当な言葉に聞こえた。そう、分かりやすく正しい話である。

 聞いただけなら、カナエの目的は自分を改心させる事に有ると思うかもしれない。だが、よく考えてみれば違う。彼女の性格から考えれば、説得ではない事くらい理解できた。

 どんな返事を期待されているのかが分かる。必要とされているのは、曲がらぬ自分だ。


「それでも」若干の悔しさを覚えながらも、求められていた通りに本音を口にする。「それでも実感したいんだ。この世界が、物語なんだって」


 意志自体は強く持っていたが、彼女に操られている錯覚は良い気分ではない。ただ、嬉しそうに頷かれると、言って良かったと思う。


「貴方は、狂っていますね」はっきりとした、妥当な指摘だ。

「プランクさんは人の事を言えないでしょう?」

「でも、貴女はそんな私が好きだと思っている」微塵の疑いも無く、プランクが断言する。「なら、別に狂っていても構いません」

「確かに、そうだね」照れつつも平気な風を装いながら、彼女はミートボールを口に放り込み、水を飲んだ。


 鬱陶しいくらいに幸せそうな恋愛関係である。きっと宇宙が爆発しても変わらないし、死が二人を分かつ筈が無い。微塵も揺るがぬ二人だけの世界を見せつけられていると、酷い甘ったるさに蜂蜜を飲まされた気分になった。


「はい、口開けて?」甘い表情のカナエは、ミートボールを突き刺したフォークを持っている。

「あーん、という物ですか」

「やってみたくて」


 少しの変化だけで恥じらいの有る乙女に見えるのだから、表情という物は便利だと思う。


「ほ、ほら。ほら、あ、あーん」顔が真っ赤だ。差し出す指は震え、今にも気絶しかねないくらい様に見える。


 死ぬ程恥じらう姿を眺めると、プランクは口を開く。そこへミートボールがゆっくりと近づけられ、やがて口の中に入った。


「客観的に言えば、良い味ですね」口を閉じ、彼は口の中で何度か噛む仕草をする。そこで、何かを思いついた様子でカナエを見つめて、顔を近づける。

「なら、私もお返しをしましょう」

「ふえ?」首を傾げる暇も無く、プランクは彼女の顎を少し持ち上げ、凄まじい勢いで口付けを行った。


 瞬時に、唾液や口の中の肉を交換する音が聞こえ出す。何とも凄まじい光景だ。彼女らはジョン・ドゥとかいう身元不明の馬鹿が居る事など忘れているか、覚えていても気に留めないらしい。

 とてつもなく甘美で艶やかな光景だと言える。子供の頃に見た映画のラブシーンと同じ程度に気恥ずかしく、目を覆いたい気持ちだ。

 カナエも抵抗せず、とろけきった顔で応じている。

 時間の流れが無駄に遅く感じられた。居心地の悪さも生半可な物とは思えず、黙って水を飲む以外には何も出来ない。

 何か変化は起きない物か。疲労で痛む頭を駆使して考えていると、扉が吹き飛ぶ勢いで開かれる音が聞こえてきた。誰かが来た様だ、敵の襲撃を期待して、身体の動きを準備しておく。


「大変です」期待外れな話だが、そこから現れたのは先程、料理を運んで来た男だった。従業員の服を脱いでスーツ姿となり、顔を青くしている。


 何かの非常事態だ。しかし、プランクは呼吸しているのかも怪しい長いキスをしたまま、目線だけを部下の方へと向けていた。

 話しの続きを促されていると判断したのか、男は息を乱しながら声を続ける。


「あの部屋の様子を見に行ったら、死体の山になって変な奴が暴れ出して、それで」


 よほど急いでいたのか、喋りつつも咳込んでいる。

 やはり、見覚えの有る男だ。まだキスを続ける二人への居心地の悪さも助けて、この男の正体を見破ろうと記憶を探る気になる。

 割と最近の記憶だ。集中して考え込めば、声や顔立ちが何とか頭に浮かんでくる。この男が何者であるか気づいた時、自分の中で素早い予想と確信が現れた。

 間違い無い。この男は、さっきまで自分を散々待たせた者と同一人物だ。


「思い出したぞ。お前、俺の部下じゃないか」

「え」男が、青かった顔を更に蒼白にする。「ああっ」

「そうだ。お前があんまり遅いから、様子を見に行ってカナエと出会えたんだ。すっかり忘れていた」ある意味では感謝すべきと考えながらも、形だけは睨んでおく。「成る程、こいつの部下でもあったのか」


 プランクの方を見る。まだキスを続けていて、彼女を見る目には絶対的な愛情が含まれていた。だが、僅かにこちらへ向けられた瞳はどんな氷河より冷たい。

 だが、構わなかった。この男が一体何なのかは問題ではない。考えるべきは、自分の行動が何らかの脚本によって誘導された物ではないかという疑念だ。


「なら、お前は」自分の声に期待と敵意が宿っているのが、よく分かる。「俺が何をしようとしている人間なのか、分かってるんだな?」

「いや、あの」

「お前は黙ってろ。お前がどっちの部下だろうが変わらないが、プランク。こいつがお前の部下だとすると、俺が今日、このホテルを吹っ飛ばすのを知ってたって事になる」


 あえて語気を強めてみる。恐ろしい程に甘い空間に、自分の持つ感情を爆発させる作業だ。

「お前は何もかも分かった上で、俺に此処を爆破させようとしたのか? 何の為に?」

 彼女に対しても聞いてみる。「カナエ、お前は知っていたのか?」カナエは首を小さく横へ振って返した。多分、嘘ではない。


「そうか、婚約者も知らないのか。で、どうなんだ。何の目的が有るんだ。教えてくれ。そして、保険金目当てなんて最低の目的はやめてくれよ? 何なんだ、え? 俺を捕まえる為か?」


 この、無関心かつ無感動な男は何を思って爆破事件の黒幕を此処に至るまで放置したのか。捕まえるにしても、もっと良い場所が有る筈だ。ホテルでは目に付きすぎるし、逃げられる確率も高い。爆破された時のリスクも巨大だ。

 わざわざ見過ごす理由が分からない。それが物語的な伏線や自らの過去が及ぼす影響から現れたストーリーであれば、とても嬉しい話だ。

 そして、プランクは少し考え込む素振りを見せて、一度だけ頷いた。


「まあ、爆破の黒幕を捕まえるのも目的の一つでは有りますが」

「有ります『が』? 何が、『が』なんだ?」

「残念ながら、それは協力者の方がやりたい事でして。私の目的はもっと馬鹿らしい内容なので、聞く価値は無いかと」


 そこが自分にとっては一番重要な部分なのだが、話す気は無いのか、プランクは詳細を答えず、自らの部下に顔の向きを移動させる。


「しかし、その話は後にしましょう。それより先に、暴れてる人が居るというのは?」

「ストリートギャングの集団くらい、君達なら何とかなるよね?」やっとキスを終えたカナエが、口元を指でなぞりつつ、普段通りの明るい声を部屋に放った。


 少し部屋の空気が清涼になるが、スーツの男の顔は更に青くなる。彼女が放つ異常な雰囲気を受け取りきれずに居る様だ。

 とはいえ、どうでも良い人間の恐怖になど意味は無い。重要なのはプランクの話だが、この話題が解決しない限りは喋ってくれないだろう。男が詳細を喋り出すのを、横で聞いておく事にする。


「俺達じゃ手に負える相手じゃないんです、とんでもない奴で、銃もナイフも利かないし、何より一人も殺されてないんですよ。重傷を負った奴すら居なくって」

「君はどうして無事に此処へ来たんだい?」カナエが尋ねると、男は全身を大きく震えさせた。「俺は、その、そいつに気絶させられてたから、すぐに分かったんです」

「外見は?」痙攣と間違うくらい震えた返事が聞こえてくる。「背がモデルみたいに高くて、黒い髪の女。とんでもなく危険な感じが……」


 誰の事なのかは、即座に分かった。


「カミラさんだね」

「ああ、間違い無くカミラ・クラメールだな」

「残して来ちゃったのが不味かったのかな」

「だろうな、だから俺を置いていけば良かっただろうに」

「いやいや、あそこに置いてきたら今頃ね、プランクさんの部下と殺し合いになってますって」それくらい派手な殺し合いなら参加したかった物だ。その気持ちを素直に顔へ出してみると、カナエに笑われてしまった。

「それにしても」愉快な気分を味わいつつも、部下だった男に声をかけてみる。「設置が遅いと思ったら、カミラにぶっ倒されていたんだな。それはそれは」何とも羨ましい話である。普通なら、映画の登場人物以外は彼女の力を体感出来ないのだから。


 そんな自分の気持ちを知ったのか、男が息を呑み、逃げ腰になる。半ば冗談の怒りだったのだが、男には思いの外届いてしまったらしい。


「それはともかく」どうでも良さそうに、プランクが口を出してきた。「カナエ。止めてきてください」


 指示を出されると、カナエが立ち上がって肩を鳴らし、高めの声で大きく息をしながら、思い切り伸びをした。口に小さく着いたミートソースを拭うと、もう表情が凛々しい物へ変わっている。


「あの変な殺人鬼と、あのお二人と、それにそのカミラという人は予定外なので、速やかに解決しなければなりません」

「りょーかい、分かりましたよ」

「相手は随分と派手に暴れている様ですが、どうにかなりますか」

「うん、カミラさんなら話せばちゃんと分かってくれる人だしね、どうせ悲しい誤解が元だろうから、大丈夫だ」自信満々に頷いて、断言している。根拠は無くとも信じられる気がする。

 いや、信じたくなる言葉という奴なのだろう。そう感じていると、自然に口が開いた。「俺も行こう。やっぱり会ってみたい」

「ぶっ飛ばされるかもよ?」

「だからどうした」


 それよりも、面白そうな物に首を突っ込めない事の方が遙かに困る。その気持ちを持ったまま、プランクにも声をかけた。


「止めないよな? 全部分かってた上で、今まで俺を止めなかったんだから」

「ご自由に」プランクはこちらの敵意を軽く流し、釘を刺してくる。「ただし、あなたの爆弾は動きませんからご心配無く」

「分かったよ、全く」どうせ、計画は最初から知られていたのだ。


 ホテル内部に設置した爆弾は機能しないと思って良いだろう。が、構わない。お陰でカナエという不可解なまでに不気味な人格と出会い、こんな事に巻き込まれるという幸せを得られたのだから。


「行くなら早く行くよ。ほら、君も早く行きましょう」

 肩を掴まれたスーツの男が、少しばかり動揺しながら頷いている。

「おっと、俺を置いていこうなんて真似はするなよ?」

「勿論!」カナエの様子が奇妙な優しさを帯びる。「危なくなったら、守ってあげるからね」

「俺はお前の息子か何かだったのか」

「そうかも。試しに母乳とか飲んでみる?」

「出るのか、母乳」

「いや、出ないから粉ミルクだね。実は母乳って飲んだ事が有るんだけど、そんなに美味しい物じゃないよ?」

「どうやって飲んだんだよ」

「知りたい?」

「止めておく」


 叩き落とす用に却下すると、彼女は愉快そうに笑い声をあげて、背中を何度か叩いてきた。


「ま、君は死なせるにはもったいないって事」

「そりゃどうも」


 軽口を叩きつつ、スーツの男を引き連れて廊下へ出ていく。部屋から一歩外へ出ただけで、プランクの放っていた絶対的な寒気は消えてなくなり、空調のなま暖かさだけが残る。

 空気が一気に軽くなり、深呼吸をしてみる。まだ、何一つ終わっていない。ホテルが爆発しなくなっても、目的を見失う自分ではない。

 それに、全ての爆弾が使えなくなったとは言えないのだ。身体に巻き付けた高性能爆薬だけは、誰の手も全く及んでいないのだから。

 

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