13話
二人の男達が逃げていく。しかし、自分には何が起きているのかも分からない。
こういう時は妙に悔しい気持ちとなる。知らない場所で世界が物語に近づいたのであれば、それを認識出来ない自分は観客にすらなれなかったのだ。
例えるなら、面白そうな劇場を見つけたのに、既に公演が終了していたと知った時の気分だろうか。残念さと腹立たしさが混ざり合った、複雑な感情である。
複雑と言えば、カナエと非常に仲の良い男、プランクと呼ばれている人物もそうだ。
立ち振る舞いを見た限り、何か大きな組織の頂点に居るのだろう。眼鏡を掛けた顔立ちは端正だが、瞳には見覚えの有る色が潜む。恐らくは、鏡で見る自分の瞳と似た物だ。
実に複雑な気分である。これは自己嫌悪なのだろうか。いや、それよりカナエとの仲の方に意識が行く気がする。嫉妬ではないが、羨ましいのかもしれない。
この男には、まだ現世を愛する理由が残っているのだ。
「ところで、着替えって有りましたっけ?」ガラス片で半壊したドレスを脱ぎ捨て、虹色のシャツ姿のカナエが尋ねている。
「ええ、そちらのベッドの上に置いています」男が指さした先には鞄が置かれていた。
彼女はその鞄へと近づいていき、中身を確認する。幾らか物色したかと思うと、すぐに気に入る物を見つけて瞳を輝かせた。
「ちょっと着替えてくるね」服を自分の胸元に抱き寄せると、男へ向かって悪戯っぽく笑いかけていた。「覗くなよー?」
「大丈夫、貴女の着替えなら時々目の前で」
手痛い反撃を受けて、カナエがまた恥ずかしそうになる。「そういう恥ずかしい事を言わないの」
そのまま、バスルームへ入っていく。先程までの印象では、この場で着替えを初めても不思議ではない所だ。だが、あの恥じらい照れる姿を見ていると、そうでもない気がする物だった。
彼女の姿が見えなくなると、部屋の中は酷く静かになった。
嫌な沈黙だと思う。相手もこちらを同族的な精神の持ち主だと認めているのだろうか。そうであれば、話題など必要無いと思っている可能性が高い。
扉がノックされる音が聞こえてきた。しかし、男は無視して自分の顔をじっと見つめている。
耐えかねて、こちらから話し掛けてみる。
「プランク、で良かったか」
「ええ、そうですが」頷く顔には、微塵の関心も映らない。
「じゃあ、あのカナエって女はお前の?」
カナエが関係する質問をしてみると、男ことプランクは瞳に少し熱を籠もらせる。
「そう、婚約者ですね」
言外に「羨ましいでしょう?」と言われている気がした。事実だ。世界を嫌悪する自分も、共に劇場へ座る人が欲しいと思った事が無いとは言えない。希少なまでに物語的な女性との出会いは、何となくロマンを感じざるを得なかった。
だが、そういう魅力を感じる相手が既に婚約している辺りは、この世が現実だという証なのだろう。
「もしかして、彼女の魅力が分かりますか?」こちらの気持ちを読み取る様に、プランクが尋ね掛けてきた。
「何だって?」
思わず聞き返すと、気を悪くした素振りも見せずに同じ事を告げてくる。
「カナエが如何に魅力的で奇妙な女性か、分かっているのですか」
どういう意図の質問なのだろうか。よく分からないが、素直に答えておく。
「そうだな」少しだけ照れが入って言葉が止まるが、気持ちは素直に告げておく。「分かるさ」
「それは素晴らしい。彼女と仲良くしてください、きっと喜びますから」
「浮気しても構わないぞって言いたいのか?」
「まあ、そう思ってくれて構いません」あっさりとした肯定が帰ってきた。
この男が常識から外れた精神の持ち主だと分かっていても、若干の困惑を覚える。自分には恋の経験など無いが、こういう場合は大抵、怒りを覚える所ではないか。
「アンタの恋人だろ?」
「ええ、しかし私の所有物ではない」
確かな感情がそこに含まれていた。
圧倒される気分にさせられる。この男は、自分の想いで愛する人を縛らず、ひたすら献身的な気持ちを向けているのだ。それは恋ではなく、愛と呼ぶべきだろう。少なくとも、昔見た作品にはそう書かれていた。
異常なまでの無関心と、カナエに対する凄まじい愛情。それらは相反する様でありながら、絶妙に噛み合っている。自分が物語を愛する代わりに世界への愛情を失ったのと同じだ。
「成る程、確かにアンタはカナエを愛しているみたいだ」現実的ではなく、リアルさも無い。しかし現実に有る強烈な愛情の塊を目にする事が出来て、嬉しかった。
このプランクという男やカナエは、物語的だ。出来れば後一歩、後一つの致命的な要素が加われば良いのだが。
そんな事を考えていると、扉をノックする音が激しくなっていた。ノックと呼ぶより、『叩く』と表現するべきだ。
「ところで、開けないのか?」
「いえ、開けます」
言葉と同時に扉が開かれる。その先を見てみると、一人の従業員が立っているのが分かった。ルームサービスか何かを持ってきたらしい。
従業員の男は帽子を目深に被って周囲を窺い、プランクに向かって最大限の礼を取った。
「お待たせいたしました」そこで自分の存在に気づいたのか、首を傾げてくる。「あれ、その人は誰ですか?」
「誰でも構いません。それより、料理が届くのが遅過ぎるかと思われますが?」
プランクの声に鋭さが混ざり、従業員が姿勢を正した。いや、従業員と言うよりは『部下』と表現するくらいが丁度良いかもしれない。
ふと、その男の顔に見覚えが有る気がした。しかし、知人の顔など殆ど覚えていないし、名前は把握していない。考えるだけ無意味だと思った。
「何か、有ったみたいですね」
緊張気味の従業員に、追撃が加えられる。
「ええ、貴方が来るのが遅いので、カナエが片づけてくれました」
プランクの視線がバスルームの方向へ移る。優れた聴覚を持っていれば微かな布の擦れる音を捉えられる筈だが、やはり、自らの恋人が着替える音を聞いているのだろうか。
そんな素振りは見せずに、彼は部下らしき従業員の肩を叩いた。「まあ、構いません。貴方を囮に連中の隙を作るつもりでしたが、残念ながら、とでも言っておきましょう」
許されたと知って、従業員が見るからに安堵する。が、プランクの声は止まっていなかった。
「それで? 一体どうして到着が遅れたのですか。そちらのメールには返信した記憶が有りますが?」
「いやその」従業員が目を逸らして、言い難そうに答える。「この制服、俺には似合わなくって。下に着込んでいたんですよ。ほら、スーツを」
白と茶色を基調とした従業員の制服を僅かに脱ぐと、その下には紺を主体とするスーツが着込まれていた。相当に厚く邪魔になる筈だが、それでも着る辺りが拘りを感じさせる。
「その拘りで自らのボスの命を危険に晒すから、たまりませんね」
「すいません、つい気になって」
「結果的に私は生きているのだから問題は無い、そういう事にしておきましょう。ところで、料理の方は?」
「これです」生気を取り戻した顔で、従業員が料理の蓋を開けた。
パスタだ。かなり大きめのミートボールとソースが大量に入って、見るからに一人で食べられる大きさではない。余程の大食らいなら別だが、少なくとも自分には無理だと思える。
「注文通り、ミートボールが沢山入ったパスタ……三人分ですね。三人分注文したというのに、食べてくれる人が居ませんが」言葉は困っている様だが、その口振りはまるで無感情だ。
彼はその皿を取って、部屋の奥に有る机へと置いた。そして従業員の肩を叩き、言外に配置へ戻れと指示している。指示を受けたスーツの従業員は慌てた様子で外へ出ていき、扉はプランク自身の手によって閉められた。
また、嫌な沈黙だ。正直な所、居心地が悪くてたまらない。そう思っていると、彼の表情が唐突に少し柔らかくなった。
「食べますか」彼はバスルームに繋がる扉へ声を掛けていた。「カナエ」
「勿論食べるよ、そういう豪快な料理とか大好きっ」名前に反応する形でカナエは扉の向こうから現れて、すぐに返事を口にした。
その服装は大きく変わっている。レディーススーツの下に特徴的な虹色のワイシャツを着込み、丈の短いスカートの下からは黒のストッキングに覆われたスラリと伸びる足が見えている。加えて、子猫のバッジが着けられたソフト帽が実に可愛らしい。
今までのウェディングドレスとは全く異なる格好だ。しかし、非常に似合っている。何を着ても相応に使いこなすだろうが、この格好は彼女の魅力を高めている様に思えた。
「可愛い格好だな」思わず、素直な感想が漏れる。
「えへ」嬉しそうに照れて、彼女は自身の頭を小突いた。「そうかな」
「そうですね、そういう服も似合っていますよ」プランクの感想に対して、彼女は悪戯心に溢れた顔をしていた。「それはお世辞?」
「嘘を吐く必要が?」
「無いね。でも、ちょっと落ち着かないかな」
ストッキングに覆われた自分の太股やスカートの端を撫でて、頻りに足を擦り合わせている。本人が言う通り、落ち着きという物が全く無い。仄かな恥じらいが見え隠れしている影響か、あの明快で奇妙な態度を一切感じさせない。
そんな彼女の挙動を微笑ましそうに一瞥すると、プランクは机に取り皿とフォークを置いた。「さて、食べましょう」
椅子へ座り、カナエは食器を手に取る。味に期待しているのか、机の下で両足が軽くリズムを取っていた。
しかし、まだ口へ運びはせずに、自分へ声を掛けて来る。
「名無しの誰かさんも一緒にどう? 美味しそうだし、後一人は食べる人が居ないとね、食べきれそうにも無いんだ」
満面の笑顔で提案されると、断れない。しかし恋人同士の楽しい食事を邪魔して良い物か。一度プランクの方へ視線を向けてみると、軽く頷かれる。つまり、『彼女が喜んでくれるなら』という事なのだろう。
大人しく座って、食器を取る事にする。
「喰わせて貰う」
カナエの表情が今までより明るくなった。それは強烈な精神性や不気味な存在感を吹き飛ばすくらいに魅力的で、何より自分の心を揺らせている。
決して、悪い気分では無かった。
+
死体の数々から嫌な臭いが漂ってくる。腐敗など起きている筈も無いのだが、気分としては良い物ではない為に、そういう錯覚を覚えているのだろう。
カミラとしては簡単に耐えられる物でも、不快感自体が無くなる訳ではないのだから、居心地は最悪と表現出来る。
嵐の様に去っていったカナエにこの場を任され、残される形となってしまった。押しつけられた様だが、彼女には自分への確かな信頼が有ったのだ。それを裏切ろうとは思わない。
では、どうするべきなのか。大量殺人の現場の後始末など、流石に経験が無い。決して表情には出さないが、少し困った。
それでも普通の人間の様に慌てたり、取り乱す事は出来ない。子供の頃に憧れた人に、一歩でも近づく為だ。この程度で動きが鈍るのでは、まだまだ道は遠いと言わざるを得ない。
とりあえず、落ち着いて死体を観察する。どれも服装は異なるが、それほど裕福そうではない。金に困っていそうな者も居る。勿論、どちらにせよ死んでしまえば無意味な話だが。
「何かの目的を持つ一つの集団、そう考えるべきか?」独り言として呟いてみると、それが正解である気がする。
頭の端で先程見た男の顔が浮かんだ。自分を見る目は熱意の有るファンと言うべき物だったが、全体的な気配は妙に怪しげで、とてつもなく虚無的だったのだ。
カナエが逃げる様に男を連れ去っていったのも、何となく気になった。思い返すと、自分から男を逃がそうとした様に思えて、やはり怪しい。
だが、この場に居ない人間達の事を考えても仕方が無い。首を振って考えを振り切り、改めて死体の姿を観察していく。
首が無い物から蜂の巣や単なる肉塊まで、何とも酷い有様だ。中には人間だとは思えないくらい損傷の激しい物も有って、見るに耐えない為に、目を逸らしたくなる。だが、絶対に逸らさない。
ふと、意識を逸らしてあの監督の事を思い出す。「奴なら、本物の死体を使っても不思議じゃないか」彼が作らせた特殊メイクの死体の方が、こちらより現実味が有った。
落ち着いて思い出せば、死体の山に囲まれるのは初めてではない。此処まで酷いのは久しぶりだが、初めてではないのだ。子供の頃、まだ自分を過信していた頃に何度か見た記憶が有る。憧れの人との出会いも、そういう場所での事だった。
ある意味では懐かしい光景だ。率先して見に行く趣味は無いにせよ、感傷に浸るくらいは許されるだろう。
死体の前でノスタルジックな気持ちになる辺り、過去の自分は随分と血生臭く、愚かしかった様に思う。その足を止めてくれた憧憬と目標に感謝しておく事にする。
そして一応、無関係であっても死体を弔っておく。彼らが何処に入信しているかは分からなかったので、知っている限りの宗教で行われる弔いを行っておいた。
それを終えると、死体から距離を取った。銃弾で穴だらけになった部屋は無惨で、従業員と警察のどちらを呼ぶかで迷う。
割られた窓から外を見てみた。何の変化も無く、静かな時間が過ぎている様に思える。ホテル内部で起きている事が全く伝わっていない。窓が吹き飛んだというのに、静か過ぎる。
思ったよりも混乱が少ない。銃撃が響いたのだから、パニックが起きていても不思議は無いのだが。それに、騒ぎを聞いたホテルマンや野次馬も来ない。実に、不自然だ。
気づけば、眼は地上を走る車へ注目していた。どれも警察車両ではないし、慌ただしく現れる警官も居ない。鋭敏な感覚を駆使しても、影も形も見えてこなかった。
警察はまだ来ていないのだろうか。はたまた、呼ばれていないのか。不自然な状況に対する思考を始めていると、背後から物音が聞こえた。
「お、おい」扉の方で、死体を困惑気味に見つめている男が立っている。「これ、どういう……」
男の眼は自分に向けられて、明らかに怯えていた。服装はいかにも旅行者と言うべき物で、単なる宿泊客に見える。やっと野次馬の一つでも訪れたらしい。
しかし、誤解は解いておく必要が有るだろう。
「おっと、私じゃないぞ。落ち着いて、話を聞いて欲しいんだ」両手を軽く挙げて、無抵抗を見せつけておく。
安心してくれるかと思ったが、男はもっと酷い反応を見せる。精神が振り切れる様な顔をしたかと思うと、懐へ手を突っ込んだ。取り出されるのは電話ではない。膨らみの形から見る限り、小口径の自動式拳銃だ。
「死ね」予想通りに銃を握って、怯えた男が殺気を向けてきた。
引き金を引く瞬間、それに呼応する形で世界が止まる。正確には、止まった様に見えた。時間すら越えた世界で、自分の超感覚だけが全てを捉えているのだ。
ほぼ停止した世界で男の持っている銃の口径や腕の位置から射線を割り出す。後は簡単だ、腰を軽く横へ逸らすだけ。そこで時間の流れが戻り、銃弾は側を通り過ぎる。更に、誰が認識するより早く男の方へ飛び込み、驚く暇も与えずタックルを叩き込んだ。
倒れ込んで噎せ込む男の手から、銃を弾き飛ばす。ようやく暴れ出す男の両手を押さえつけ、のし掛かって全身の動きを止めさせた。
「悪いんだが、本当に撃たないで欲しい。信じて貰うしかないが、この死体とは無関係だ。私は」説明を終える暇も無く、刃物が風を切る音が聞こえる。
飛んできたのはナイフだ。とりあえず掴んでおき、ついでに男を一発だけ殴って巧く気絶させる。それから脚力に任せて跳躍し、そこから数メートル離れたソファの上に着地した。
次のナイフが何本か飛んでくる。同時に、銃弾が自分へ迫っているのが分かった。射線を察するに、どちらも外れる。それが分かれば何も考える必要は無い。飛んできたナイフを一本掴んで、自分のすぐ横を通る銃弾に突き刺してみる。結果、弾丸を簡単に切り裂き、刃が落ちた。
まだ終わっていない。追撃に何発か銃声がするものの、小口径で威力の低い弾ではソファすら貫通出来ない。とりあえず、扉の前に居たナイフを持つ男に椅子を投げつけておく。
呻き声と倒れる音が聞こえ、また廊下から何人もの男が物騒な武器を手にして、冷や汗を流しながら現れた。
今の反撃で下手な行動は命取りになると悟ったのか、警戒を決め込んでいて、何もしてこない。それはそれで面白味の無い話だ。
「それで」話しつつも、床に落ちたナイフを蹴り上げ、掴む。「お前達は、誰なんだ?」
「そっちこそ、誰だ」男達は明確な敵意、あるいは恐怖心を向けてくる。「何をしているんだ」
質問に質問で返されてしまった。だが、仕方が無いのも分かる。得体の知れない女が死体と共に居て、仲間を気絶させた上で、更には武器を向けられても全く怯んでいないのだ。異様に思うのもやむなし、と言った所だろう。
それにしても、自分がカミラ・クラメールだと誰も気づかない。そこそこに知名度の有る女優のつもりだったが、どうやら慢心だったらしい。これは戒めとするべきだろう。
より一層、自分を高める努力をしなければならない。決意していると、男達が余計に緊張しているのが見えた。銃の前で考え込むのがいけなかったのか。
「大人しく、こっちに来るんだ」
「そういう台詞を吐く奴が、大人しくした奴を丁重に扱うのは稀だと思うんだが?」
「だがこの人数で撃てば、当たるぞ。死にたいのか」
至極、当たり前な脅しだ。これだけの数の銃器を前にしては、余程の理由が無い限り降伏するだろう。そう、普通は。普通は、だ。
思わず、腹を抱えて笑い出してしまう。抑えなければと思う気持ちが吹き飛び、肺の奥から出る様な大笑いで喉が壊れるかと思った。勿論、この程度で不調になる身体ではないのだが。
震え上がる様に笑いつつも、背筋を伸ばす。高揚する気持ちが抑えきれず、頬の辺りに熱が籠もるのが分かった。
「冗談は止せ、それで私がどうにかなるか」
刃を素手で握り潰し、鉄屑に変える。同時に、気が弱い者なら失神しても不思議ではないくらいの殺意と敵意を叩きつける。
死体が発していた雰囲気が塗り潰されるのが、自分でも分かる。これが最後通牒だ、逃げなければ戦う事になるだろう。
「本当に撃つぞ、脅しに見えるか?」そして、期待通りに男達は逃げなかった。
彼らの腕は確かに震えていたが、その両足は地面を掴む様に止まっていた。その瞳は、何やら自分を通して別の『誰か』を見ている気がした。大方、知り合いに変な女でも居るのだろう。
彼らの意志は総じて固まったのか、完全にこちらを攻撃する準備を整えている。相応の訓練を受けたと思われる、同士討ちなど考えられないくらいに完璧な陣形だった。
「さて」更に、威圧感を強くする。「私と戦うと?」
「そうだ」完全に腹を括った返答だった。もう一度聞くのが失礼だと思えるくらいに。
「そうか。分かった」
口元の笑みを強めるが、気をつけなければならない。かつてはともかく、今は殺人鬼ではない。だから、どれほど気が乗ったとしても殺さない様にしなくてはならない。
一人も殺さないまま、全員を倒す。無理難題だが、だからこそ燃え上がる。憧れに近づく為には、もっと不可能な事に挑戦しなければならない。
自分の中で炎を燃やしつつ、近づいてくる『敵』かつ『的』の集団を、静かに睨んだ。




