23話
「ほら、ほらっ! もっと頑張ってっ? ね!」
緩い笑みを浮かべたエィストは、果敢に攻め込んでくるMr.スマイルの攻撃の全てを何も使わずに、ただの体捌きだけで回避しながらそんな事を言って見せた。
挑発ではなく、本心の様だ。まるでスポーツの大会に出る選手を励ますかの様な意志が見えていて、それが逆に神経を逆撫でしている。
だが、それすらも計算の内なのだろう。
気づいているのかいないのか、遠回しに挑発してくる彼女に対してそんな事を思いながらも、Mr.スマイル、いやエドワースは右の拳を振るって顔を狙う。
エィストはその一撃を前かがみになる事で頭を下げて回避する。しかし、視界に広がったのはMr.スマイルのコートではなく、彼の膝だった。
「うわぉ! あっぶないね! ……でーもっ、それは失敗さっ」
自分の回避行動が読まれていた事など一切驚かず、彼女は顔面に迫る膝に対して体を『ぐにゃり』と曲げる様に横へ動く事により、紙一重で避ける。
しかし、それだけでは終わらないのが彼女だ。それを知っていたエドワースだったのだが、避けられた事を理解するより早くエィストの脚が片足に放たれては、分かっていても対応できない。
膝を使う事によって浮いた足の分までバランスを保っていた片足に衝撃がやって来て、エドワースを転がそうとした。
だが、そこは仮にもMr.スマイル。無様に倒れる事だけは避けようと、浮いた足を地に戻す事で何とかバランスを保つ。
「頑張って! 今の私、カナエなんかに負けちゃったら、いけないんだよ!」
何とか直立したMr.スマイルにの目の前に、自らをカナエと呼ぶエィストの姿があった。
相変わらず楽しそうだが、相手に対して圧倒的に有利に立つ事への優越感は欠片も感じられない。友人とゲームでもする程度の気安さで、エドワースを追いつめている。
Mr.スマイルとして弱い悪人ばかりを虐殺し、その快感に酔いしれていた己とは、『楽しい』という感情の規模が大違いだ。Mr.スマイルとしてのよく分からない感覚でそれを理解した彼は、何故かエィストを羨ましく思った。
だがすぐに錯覚だと自分に言い聞かせて、エドワースは相手が自分より背の高い事を利用して全力で腰を落とし、一気に彼女の視界から消える。
もちろん、それを見切られている事までが彼の想定通りだ。そして想像通り、『お手本』とばかりに膝が顔面にやって来た。
「ぐっ……!」
あえて受け止めたエドワースは軽く呻く。仮面越しでも十分な威力だ、意識をしっかり保たなければ気絶させられてしまいかねない。
あらかじめ覚悟していた物よりも、ずっと強烈な一撃だ。
「だが、なっぁ……!」
痛みに耐えながらも、エドワースはそのままナイフを彼女の首筋めがけて放つ。彼女の一撃がそれほど効いたのか、そのナイフはさほど動きが良くない。
エィストは軽い調子でナイフを避けた。それなりの身体能力があれば誰でも避けられる程度の物だ。しかし、その印象は次の瞬間には一変していた。
「甘いね、あ、でも顔に蹴り入れちゃったのにはごめんなさ……って、うぁ!?」
変わった驚きの声が彼女から漏れた事で、思わずエドワースの口に笑みが浮かんだ。
エドワースが握っていたナイフは、彼女が軽く首を逸らす事で避けられた瞬間、そのままの勢いの方向だけを曲げたかの様に進路を変えたのだ。
いくら『カナエ』とて、予想もしない動きで迫る刃物を避ける事は出来ない。だが足の力で後方へ飛びながら首を引く事で致命傷を避けるのは、流石と言えるだろう。
少しエドワースから距離を取ったエィストは、自分が彼の攻撃を避けきれなかった事を知って、嬉しそうに微笑んだ。
「んっ……あは、凄いや……」
彼女の首筋には、一本の赤い線が生まれていた。そこからは軽く赤い液体が滴り落ちていて、まるで植物の根の様に広がっている。
指で血を拭う事でそれを確認したエィストは滴る血を完全に拭き取ってから軽く柏手を打ち、楽しそうにエドワースを賞賛する言葉を発した。
「凄い、凄いね。やっぱりさ、Mr.スマイルじゃなくて、エドワースとしての君も十分に魅力的だよ?」
何とかエドワースが彼女に傷を負わせた事を理解した頃には、彼女はもう十歩程の距離を取っていた。
普通であれば銃撃戦に持ち込む所だが、そんな物が効かない事は百も承知だ。それならばまだ、近接戦に持ち込んだ方が何倍も良い。
しかし、自分から飛び込む事の不利を彼はよく理解している。
「……」
「黙っちゃうのはよくないよ? ちょっ……と喋ろうよ!」
黙り込んだ事に不満そうな顔を作った彼女は、言葉を共にして凄まじい勢いで飛び込んで来た。
どう動いたのかも何をしたのかも理解できないが、その事実だけはそこにある。そして、それはエドワースにとって十分に予測出来ていた事だ。
----来い、来い……来い!
自分から飛び込めばカウンターを受けて倒されてしまいかねない事を知っていた彼は、エィストが向こうから近寄ってくる事を狙っていたのだ。
迷う事無く、ナイフを取り出して目の前に飛び込んで来た彼女に向ける。仲間だと分かっているからこそ、彼はエィストを攻撃する事に躊躇しない。その程度では死なないと、知っているのだ。
そのまま行けば、彼女は自分からナイフに突き刺さりに行く格好になる。面白がってそのまま刺さってくれるかもしれない。そんな予想がMr.スマイルにはある。
しかし、それだけでエィストが倒せるなどと思い上がった事は考えない。直線的に近づいて来るエィストはそれでも脅威であり、例えナイフを突き立てたとしても構わず仕掛けられてしまえば、どうしようも無いのだ。
----これを使えば俺が無防備になるのは、分かってるんだがなっ!
だから、彼は即座にコートを脱ぎ、それをすぐ目の前にまで来ていた彼女へ覆い被せた。
「え、わふっ……!」
エィストの少し驚いた様な声が聞こえて来た。厚いトレンチコートで覆うのは胸部から上である。強固過ぎるそのコートを目隠しに使うには、攻撃したい部分を露出させておかなければならないのだ。
狙うは腹部、内臓を突き刺してそのまま貫通させてしまう程の勢いでナイフを持った腕を振るう。
そこで初めて危機感を覚えたのか、彼女は慌ててもがいた様だが、エドワースは残る片腕を使って彼女の動きを止め、彼女の足を踏みつける事で動きを封じる。
そのまま行けば、ナイフが彼女に突き刺さる筈だ。しかし、そうは行かないのが常である。
「あは、失敗だね」
コート越しだと言うのにやけにはっきりとした声が耳に届く。それを聴いた瞬間、エドワースはこの一撃が届かない事を即座に察する事が出来た。
ナイフは彼女の着るセーターに届く瞬間に、彼女の指二本によって見事に掴まれていた。僅か二本だけの指は確実にエドワースの腕の力を上回っていて、少しも動かせない。
彼女の言う通り、失敗だ。
「それが、なんだぁ!」
止まった事で諦める気にはなれなかった。どうしても、負けて良いとは思えなかったのだ。Mr.スマイルの仮面を付けたエドワースはナイフを即座に手から離した。
「届け、とどけよぉ!」
雄叫び、または駄々をこねる幼子の声を上げて、エドワースはそこまでの一応は冷静だった思考を全て捨て、形振り構わず彼女の腹部へ全力で拳の一撃を放つ。
もう片方の手は思わず力んでコート越しに彼女の頭を掴んだが、気にもならなかった。
ただボスやリドリーやエィストを下から見上げていた時には沸き上がらなかった、強烈な嫉妬。それとも憧れと呼ぶべき感情なのだろうか。
どちらにせよ、激情には違いない。仮面を付け、自らをMr.スマイルとしたエドワースの感情が、溢れ出ている。 だがどれだけ感情を籠めたとしても、ただの拳が彼女に届く筈も無く。拳は空を----
「----うんっ! 届いたよ! 君の、その気持ちが!」
切らなかった。
何もかもを受け入れて受け止めて、それらすら楽しいと楽しむ彼女の意志が、溢れんばかりの享楽的な感情が、その一撃を受け入れた。
+
特大の地雷を踏んでしまった事をサイモンが後悔した時には、もう遅かった。既に言葉は相手の耳へ届いてしまっていて、今更訂正しようにも言葉が通じるとは思えない。
少々の苛立ちが自分を滅ぼす様な一言を告げた事を自覚したサイモンは、思わず自害したい気分になりながらもルービックキューブを全力で回転させた。
「エドワースを売る? いや、それは断る」
ケビンからの答えは想像通りの物で、思ったよりはあっさりとした物でもあった。しかし、口調とは別に感じる圧力の様な物は数倍に膨れ上がっていて、サイモンの全神経が相手の挙動に集中せざるを得なくなる。
強烈な存在感だ。ケビンが一つの組織を束ねるにふさわしい人間なのだと、サイモンは再認識した。
その存在感は全てを出した訳ではないというのに、憎悪と憤怒を爆発させたアールと並ぶ程に大きい物だ。それ自体の規模の大小に貴賤が無いと分かっていても、それは気になってしまう。
仲間を大事に思っている、相棒と呼び会う二人。その間にある人格の差をサイモンは思い出す。彼のボスであるアールは仲間を家族同然に扱うが、ケビンはあくまで仲間を部下として扱っているのだ。
親しい家族を相手にするのと、親しい部下を相手にするのとでは勝手が違う。部下に対する長年の認識の差が、二人の『ボス』の小さな、だが決定的な違いを生んでいるのだろう。
「ああ、そうだろうな。お前なら、馬鹿をやった部下を容赦無く売り飛ばすだろう、利用価値がなければなおさらな。分かってるさ、ああ」
静かに、ケビンが続ける。やはり、サイモンのあの言葉は特大の地雷だった様だ。後悔してももう遅いのだが、静かな中にも苛立つ雰囲気を持つ彼を見ていると後悔しそうになってしまう。
そんなサイモンの姿を見て何を思ったのか、ケビンは一度頷いて自嘲気味な顔をする。己の愚かさなど百も承知、そういう目をしていた。
「分かってるよ、俺が馬鹿だって事くらい。本当なら道を外れた部下は切り捨てて、お前らとの関係改善を計るべきなんだろう」
疲れた様にそう続けたケビンの顔は、しかしその存在感をより強めていた。意識して力を入れていなければ、サイモンですら膝を屈してしまいそうだ。
恐ろしいまでの圧力を加えるケビンは自分のそんな一面に気づいているのかいないのか、顔が強ばるサイモンに対して警戒しながらも独り言めいた話を続ける。
「俺も……多分、お前のボスもそんな事はしない。あいつなら部下が生きのびる道を探すだろう、俺は……」
そこまで言うと彼は一度軽く呼吸を行って、更に続けた。
「俺の部下は変人だらけだ、扱い難い連中だよ。だから……あいつらの行動を理解出来なかった事の決着は、俺の手でつける」
目の奥には『理解しがたい者でも受け入れる』という、巨大な覚悟の光が有った。
例え部下を殺す事になっても、部下の起こした事の決着は自分で片づける。エドワースがMr.スマイルだったという程度では全く揺るがない、輝く意志がそこには見えるのだ。
そして、それこそが変人と扱われる者達に対する誘蛾灯になるのだろう。
余りにも圧倒的すぎる雰囲気はサイモンの心にまで到達し、そこにある意識という名前の思考を凄まじい勢いで揺るがしてしまう。だからこそ、心で考えた事がすぐに口から漏れるのだ。
「…………つまり、引き渡していただけない、と」
「ああ、悪いがお前の言う事を素直に聞く程には、耄碌しているつもりはない。何せお前、俺の仲間じゃないからな」
小さな呟きを耳聡く聞き取ったケビンは、また少し不機嫌な色を顔に浮かべて返事をする。
『仲間じゃない』
揶揄でも皮肉でも何でもなく、この二人は仲間ではない。同じ組織に居る訳ではなく、同じ考え方を持っている訳でもなく、どこかで意気投合出来る要素を持っている訳でもない。
サイモンにとっては、『ボス』の親友兼、喧嘩別れした『敵』。ケビンにとっては、『元相棒』の部下兼、組織とボスの為なら何でもする『敵』。この二人の関係は、そういう物だ。
間に『ボス』または『元相棒』が挟まるからこそ二人はまだ穏やかに会話をする事が出来ている。が、もしその抑えが無ければ互いにとっての最悪の敵になっていたに違いない。
「あなたは、馬鹿ですね。部下を切り捨てたりしないのはまだ分かりますが、どうせ決着を付けるなら誰でも構わないでしょうに」
「……お前のボスだって、多分そうは思わないぞ?」
「でしょうね、だから、私が居ると言って良い。あの、仲間と組織と町を愛するボスの心の隙を埋める為にね」
いつの間にか心から焦りが消えていたサイモンはどこか朗らかでありながらも巨大な敵意の籠もった声を上げている。
その言葉は自らの内心を表現している事がよく伝わってきて、声は今までで一番に深い物を出していた。恐らく、『ボス』の前では余計な重荷にならない様にそんな声を出す事は無いに違いない。
「ある意味では素晴らしい部下を持ったな、あいつは」
「……でしょう?」
どこか意味深げなケビンの言葉を聞いて、サイモンは不敵な笑みを作って誇らしげに返事をした。ただの賛辞の類ではないと知っていても、素直に受け取った。
それが少し意外だったのか、ケビンは僅かに目を見開く。だがすぐに気持ちを整えると、少々の苛立ちと警戒の混じる表情に戻る。
「……それにしても、エドワースめ。エィストみたいになりやがって」
整える瞬間に緩んだ気持ちから、思わず小さな声が漏れ出ていた。しかし言葉はサイモンの耳に届く前に消え去っていて、その場の空気になんら影響を与える事も無い。
しかし、口元が動いた事だけはサイモンにも認識出来た。口の動きで読み取る事が出来なかった為に発言内容を聞く事はすぐに諦めるが、訝しげな目は相手に伝わるだろう。
「まあ、それで、何だ。お前の所にエドワースをくれてやる訳には行かない」
ケビンがもう一度、エドワースを渡さない事を宣言した。
元より彼からそんな許可を貰おうなどという考えは欠片もなかったサイモンは、改めてそれが不可能である事を実感する。
やはり、Mr.スマイルに全ての罪を負わせてプランクに引き渡すという考えは使えない。諦めたサイモンは、頭の中でジェーンをどうやって捕まえるかを考える。
が、その感情はすぐに消え去り、本来は今最も優先してやらねばならない事を思い出した。
----……仕方ない。後は、エィストの事か。
本当に気にしなければならない問題は、エィストだ。ケビンの精神的な地雷を踏んだ事を乗り越えた事でまた、その危惧が心の中で巨大な不安を作り上げている。
「エィストなら大丈夫だと思うが……いや、エィストだからな」
その顔から思考を察したかの様に、ケビンが声をかけてくる。彼の方が余程エィストの事を知り尽くしていて、確かに信じられる物だ。
心の中の不安はそれだけで片づけられるが、一度会っておかなくてはならないと思う事もまた事実である。というよりは、盗まれた形となる起爆装置を回収したいのだ。
爆破されてはたまらない。ケビンから感じられる圧倒的な雰囲気が消えた為に、やっとサイモンは動ける様になっていた。
「勝手な事を言ってるのは分かってるが、エィストを追いたいなら追ってくれて良いぞ? 俺はお前がエドワースの事を知っているかいないかを聞きたかっただけだ」
どこか苛立ちを残しつつも、ケビンは軽い調子で言う。自分で止めておいて何を言っているのかとサイモンは思わなくも無いが、どうやらその点に関しては自覚がある様だ。
「聞かないと、お前が町を空爆してでもエドワースを殺す為に動いた時の抵抗が難しくなるからな」
そして、言葉を続けたケビンの判断が正しい事もサイモンは分かっている。実際、裏切り者が出た時はそれを始末する為に『色々』とやっているのだ。
----ああ、また普段の行いが警戒させていたのか。有事の際にはまずいな、本当に。
もしも、サイモンがMr.スマイルの正体を知っているかどうかを把握していなければ、ケビンは暴走したサイモンがエドワースを葬る為に襲撃を仕掛ける可能性を考慮しなくなってしまう。
真偽の確認の為にこの船に乗り込んだが、もしもこれが船ではなく自分の見知った町中であれば、例え民間人がどれほど犠牲になったとしても行動を起こす筈だ。その結果、アールに半殺しにされる程に怒られたとしても、彼は気にしない。
そんな、自分の組織とボスに悪影響を与える者に容赦をしない性格を、ケビンは世界で三番目に詳しく知っている。ちなみに一番目はサイモン自身、二番目はアールだ。
しかし、それを認めるのも何だか癪だと感じたサイモンは努めて軽い調子で声に答えた。
「ははっ、悪いと思うなら、それに私の性格を分かっているなら、エドワースの身柄をこっちへ寄越して貰えるとお互い助かると思いますよ」
「それは断る。……だが、そろそろお前のボスとも『仲直り』すべきなのかもな。エドワースの事とか、あいつとしっかり話さないと、な」
またあっさりとエドワースを引き渡す事を拒絶すると、ケビンは少し別の何処かを見る様な目になる。言葉通りであれば、『元相棒』の姿を見ているのだろう。
アールとケビン。どちらも今は偽名だが、二人は喧嘩別れした元相棒同士である。二人の関係が改善するのであれば、怖い物が無い程だ。
それほど簡単に何年もの軋轢が消えるのかともサイモンは感じたが、その辺は無かった事の様に扱えるのだろう。それどころか、あれ程手が付けられなかったボスの憤怒と憎悪も四散するに違いない。
二人を長らく見ていたサイモンには、何となく分かる。そしてほんの少し、それほどに仲の良い二人を羨んだ。
「安心しろ、エィストが馬鹿をやった様なら俺が殴っておく。だがあいつ、殴ると本当に心が痛むんだよな……」
その視線を感じて何を勘違いしたのか、ケビンは溜息混じりにエィストの事を話し始めた。
「……」
それを聞いたサイモンは僅かながら数歩後ずさりして、自分の気持ちを表現する。少しは人の心があるサイモンだが、彼女に関しては『心が痛む』などと思う事すら遠い彼方の存在だ。
何をしても、何を言っても、何があってもそれを楽しむ彼女の姿勢を知っていれば、その辺の遠慮は必要ではない事は誰しもが理解できる事である。
何せ、彼女自身は楽しいのだから。
「忘れていましたよ、そうだ。あなたも変な人でしたね」
思わず、相手を変人扱いする発言が口を付いて出ていた。これに関しては訂正するつもりも無く、本心をそのまま文字にした物だ。
だが、それを聞いたケビンはほんの少しだけ目を丸くして、次いで首を傾げる。あからさまに様子の変わった彼にサイモンは疑問を浮かべたが、それはすぐに氷解した。
「なあ、お前……忘れてるんじゃないか?」
訝しげな様子でケビンは話しかけて来た。だがそれだけでは理解した様子の無いサイモンに対して、彼は言葉を続ける。
「ボスの為なら組織を滅ぼし、ボスの意志すら無視する姿勢。手段を選ばない程の依存と忠誠とも呼べない何か……」
目の前の男の特徴を声に出して、ケビンはもう一度サイモンの顔を見る。彼が上げた要素は全て、サイモン自身も認める物だ。侮辱する様でもない為、怒りも覚えない。
ケビンは、心根では自覚の無いサイモンを見て少し哀れむ様な顔をした。
「……お前も、十分にこっち側なんだぞ?」




