2話
「あひゃ、あひひひひ! これ、これ凄いよぉ!? 気持ちいいし幸せだしぃ、もうっ壊れちゃいそぉっぉ!」
一人の女の奇声の様な何かがその場所では響いていた。タイルと木で作られた簡素な部屋の中には奥に便器が備え付けられて居る。そう、そこはトイレだ。
女は、自分の腕や腹を持っていた刀で引き裂いている。その度に血が周囲に飛び散って壁にぶつかり、部屋中に血をまき散らしている。何故か、陶酔する様な表情で自害し続ける女は、死なない。
首筋には何かを注射した痕跡がある。女はそこから入ってきた物に凄まじい反応を示している。血が吹き出していても顔には痛みを感じている雰囲気は一切無い。
「お薬ぃ……すっごおーい……ひひ、ふふふ、あはひゃひゃひゃ!」
狂気と混乱と快楽に溺れきった、耳を塞ぎたくなる笑い声が響いている。血みどろの女は見るからにおぞましく、目を背けてしまいそうだ。
しかし女の外見に意識を向ければ、誰もがその美しさに魂を奪われてしまうだろう。整いすぎている程に整った顔立ちはある種恐るべき物だ。鮮血ですら、神秘的な芸術に思えてしまう。
「いひ! ひひ! きもちぃいぃ……! ほんとぉにきもちいぃー……わたしおかしくなりゅうぅ……」
そんな女が、自分の体を傷つけては惚けた様な顔をしている。段々と呂律が回らなくなってきたのか、声も間延びした物になっていた。
そのまま行けば、女の精神は崩壊してしまうのかもしれない。いや、既に精神も体も崩壊しているのだろう。床に膝から崩れ落ち、痙攣する姿からは人間らしさを一分も感じられない。
「……何やってんだ、お前」
ピタリ、と女の動きは止まった。まるで時が止まったかの様に痙攣は一瞬で完全に無かった事になり、声も完全に止まる。腹部は貫いていた刀はゆっくりと抜かれ、自分を傷つけていたという事実も忘れたと言わんばかりだ。
油を差していない機械の様な動きで、女は振り向く。声の主がそこには居た。呆れ返って物も言えないとばかりに肩を竦め、奇人変人を見る様な微妙な顔色をしている。
女は心の底から恥ずかしそうに顔を真っ赤にして----
「……あ、あう。ボス? 今のは見なかった事には出来ませんか」
----羞恥心の溢れる顔で、喋りだした。
今の今まで何とか意味のある言葉に聞こえなくもない奇声と頭のおかしな笑い声だけを発していた女の口からは、まともな意識を感じさせる言葉を発している。
口調こそ恥ずかしそうで情けない物だが、声の質はそれを補ってなお上回る程の美声だ。余りにも美しすぎる声はこの世の生命体が発するには違和感を覚える程の物である。
しかし、声を聞いていた男はどうでも良さそうに疲れた顔をすると、性別を問わずに魂を捉えてしまいかねない女に心底呆れた声を発した。
「見なかった事にして欲しいなら、最初から止めておけよ……」
「その……あの薬ってやっぱり気持ちよくって……あはは、ちょっとだけ調子に乗ってふざけてしまいました」
自分の首筋にある注射痕を見せて、女は照れる様に頭を掻く。首筋を見せた時にわざとらしく胸元まで服を引っ張り、自分でやっておいて恥ずかしそうにしているのだ。
妙に変態的で男にとっては悲しくなる姿だ。それでも、外見は良いのだから始末に負えない。そんな事を考えつつも、男は本心から呆れと疲労を見せつける様な顔をする。
「見られたくないなら俺を此処に居させるなよ、女用のトイレで待ってるのは正直……自分が変態みたいで辛かったんだぞ? 従業員の連中は盗聴防止で此処まで漁るんだよな! 流石、秘密保持で有名な店だよな!」
男が疲れきった雰囲気で声を荒げている理由は至極簡単だ、今、この場は女性用のトイレなのである。それも、この場所はとあるレストランの秘密の部屋の人間だけが使うトイレだ。
麻薬カルテルの代表者や大規模テロ組織の計画者が会合を行う事すらあり、この場所の機密保持はかなり固い物だ。
そんな場所で、男は店を出るフリをして長い時間を隠れていたのである。通常の人間であれば、不可能な芸当だ。
「ああ、やっぱりこの店の連中はあなたを見つけられなかったんですね。それはそうでしょうが……でも良かったです」
不満そうな顔をする男に対して、女は安堵した様に軽い息を吐く。自分がそうして欲しいと言ったというのに、反省の色は一切無い。
いや、『ある』。ほんの少しだけ節目がちなのがその証拠だ。一応、余り良くない事をさせたという自覚は会った様だ。そこで男は追求する事を止めた。
「まあその……私が男用のトイレに入るよりは、事前にあなたが女の方で待っていてくれた方が不自然ではないと思いまして、悪い事をしました」
「ああいや、もう良いさ。怒鳴って悪かった……で、報告は?」
互いに、穏やかな様子で和解する事を決める。それを終えると、男は一気に真剣な顔付きになって本題に入る。この場に残った目的を終える為に。
女の方はまだ、真剣とは呼べない緩い顔をしている。目尻を下げて嬉しそうな顔をする姿は鋭利な刃物を思わせる姿とは程遠く、まるで小動物の様な物だ。
「それも良いですねー……じゃ、そうしましょっか」
そのままの様子で柔らかく頷き、女は言う。
頭の中身が空にでもなったかの様な間延びした声で話す姿は余りにも馬鹿に見える。しかし、その奥にある何か怪しい物を見通す事が出来る男にとってはどこか胡散臭い様に思えた。
ある意味、男のそんな予感は正しかったのだろう。次の瞬間には、数歩離れた場所に居た筈の女が目の前に立っていて、思い切り自分に飛び込んできたのだから。
「でも……その前にっ!」
ギュッ、と。女は男へ抱きついた。その動きは余りにも唐突で恐ろしい早さで、何の抵抗も許さない物だ。どうしても、それがやりたかったらしい。
見た目の細い腕とは違う力強い抱擁。腰に回した手は愛おしそうに背中に触れていて、唇同士が触れてしまいそうな程に顔が接近する。流れる様な柔らかな髪がまるで意志を持つかの様に絡み付いて来た。
女は腕の力を強めて思い切り抱きしめてくる。普通の人間であれば気絶しかねない程強い物だ、密着した体は服越しに分かる程細く引き締まっていて、それでいて柔らかい。
どんな彫刻家でも表現出来ない、完璧すぎる肉体だ。この世ならざる物の気配が漂う程に。
甘い香りが男の鼻孔に入り込み、魂を揺さぶろうと嗅覚を惑わせる。しかし、男は軽く女の額を小突いて、顔を横に逸らさせた。
「あ、あいたっ! もう、ちょっとしたスキンシップなのに!」
見た目とは全く違う雰囲気で声を上げ、女は頬を膨らませて来る。
同じくらいの身長だからか、二人の顔はすぐ隣合っている。内容こそただの抗議だが、耳に入る声は女が知性のある存在だと証明する輝きがある。
「……何のつもりだ?」
「ほらほら、あそこにカメラがあるじゃないですか。見られたら困るでしょう? トイレで行為に及ぶカップルだと思われた方がまだマシだ」
「いいや、お前が壊したカメラに何の意味があるんだ。それにな、そんな目で見られるくらいならバレた方がマシだ」
何やら楽しそうに部屋の隅と割れた鏡を指さして居る女へ、男はどこか冷ややかな返事をする。そこには恐らく、カメラがあったのだろう。刃物で両断された機械が側に転がっているのがその証だ。
錯乱したフリをした女がカメラと、ついでに周囲の壁を斬った事を男は知っている。元々この場所で話し合う予定だったのだから、最初からカメラを壊すと決めていたのだろう。
そんな部分だけ『まとも』に考えている女に対し、男は盛大な溜息を吐く。
「そんな面倒な事をするくらいなら、明日にでも別の場所で会えば良かっただろ……」
「いやぁ、向こうの組織は私を頭のイってる変態女だと思ってる訳だから、もし見つかったら困るじゃないですか」
言いながら女は抱きしめる力を更に強め、体の距離をより縮める。今度は、男がそれを拒む事はなかった。それ以上、無駄な話をしたくなかったのだ。
それを完全に分かっている女がわざとらしく首筋や耳元に息を吹きかけて悪戯をしてくるが、それも無視する。下手に反応をして面白がられるよりは、その方が話が早い。
相手が何も言ってこない事を知った女は、また頬を膨らませて唸り声をあげる。が、それも飽きてしまったのか軽く息を吐き----雰囲気を一変させた。
「彼らは……薬を売る為に海の向こうへ行く様です」
声音が完全に切り替わり、上位者への敬意を感じさせる雰囲気が女の身から湧き出てくる。自らの尊敬する存在へ情報を渡せるという喜びがその中からは見て取れ、真剣な様子は情報に嘘が無い事を表している。
やっとまともな話が出来る様になった。それを認識した男は今までの会話が無かったかの様な力強い気配で、女の言葉に軽く頷く。
「だろうな、売る相手も大体は分かってる」
「おや、何故そう思うんですか? いや、海の向こうと言えばボスが昔追い出した組織ですが……もしかして?」
懐かしむ様な声で、十年以上前に男が町から叩き出した組織の事を女は呟く。そして、男の頭の中にもその組織が浮かんでいたのだ。
「……お前がそっちに入り込んだ後な、その組織のボスから手紙が来たんだよ、ご丁寧に船のチケットまで付けてな」
言いながら懐から一枚の紙を取り出して、すぐ横にある女の目の前に持っていく。それは、表向きは客船として監視の目を逃れている、薬が運ばれる船のチケットだ。
女は僅かに目を見開いて、次の瞬間には楽しそうに微笑んだ。彼らが『売人達は船で薬を運ぶ』と知ったのは、つい先程の事だ。
偶然として処理するには、出来すぎている。
「あそこのボスの顔は、最後まで誰も知らないままだったからな……多分、俺達の顔も向こうは覚えてないだろうが……」
十数年前に自分が倒した組織から送られてきたチケットを、男は複雑そうな顔で見つめた。
それは彼にとっても懐かしい記憶だった。先日、Mr.スマイルの手で殺されたという噂の『元相棒』と共に町を駆け回り、最終的にその組織に勝利した記憶が彼の頭に浮かんでいる。
「それで、その話はみんなには?」
「話してない。言ったら付いてくるのが目に見えてる。言わなくても付いてくるだろうが……まあ、リドリー辺りは何かを見抜いてる感じだ」
自分を船に招待した『古い知人』というのが誰を指すのかを、彼は部下達に告げなかった。
十数年前に自分が撃破した組織からの招待となれば、あるいは全員が付いてくる危険さえある。そして言わずに船に乗り込んでも、心配して追いかけてくるだろう。
だから、その辺の詳細はあえて話さなかったのだが、それでもリドリーには見抜かれているという確信が彼にはあった。勿論、目の前のエィストにもだ。他の者達は「ボスからの怪しい招待」という事で本能的に避けるだろうが、この二人は違う。
他にも、エドワースが妙にそわそわとしていた覚えもあったが、その点は気にならなかった。付いてくる筈が無いと思ったのだ。
「リドリー君か……」
「仲良いもんな、お前等」
リドリーという名前に反応したエィストの呟きがその場に響く。彼女らが一緒に映画を見に行ったりする程度の仲だという事は有名な話だ。特に色気のある物ではなく、単なる映画友達程度の物だろうが。
まともとは言えずとも、真っ当に友達をやっている二人に、男は少し微笑ましくなる。しかし、そうも言っては居られない。女にせよ男にせよ、余り長時間この場に居るのは得策ではない。
「……それで? 売人共のボスはどんな奴だ?」
頭の中の感情を振り切って、男は本題に戻る事を決める。一度首を振った男の中には、もうその話は残っていない。
女はそれほど早く元の話に戻るとは思っていなかったのだろう、少し戸惑った様だ。が数秒もすれば元の真剣な様子に戻って話を続けた。ただ、そこにはふざける様な空気も微かに見て取れる。
「え? ああ、彼はそうですね……色々な意味で冷たい人、という表現が一番でしょうか。ほら、ボスが色々な意味で暖かいのと対照的にね」
後半の言葉は、更に体の距離を縮めると共に告げられた。
甘い香りは意識を奪いかねない程に強くなっている。女の事をよく知らなければ、どんな人間でも抱き締め返してしまうだろう。
だが、そうはならない。男にとって、この女はどうにも『女』ではない様に思えるのだ。別な存在、別の種族、別な世界に住む存在だ。例えるなら、トカゲとドラゴンの様な違いだ。
だからこそ、男は女の行動を完全に無視した上で冷静に話を続ける事が出来た。
「名前や格好、顔はどうだ?」
「ふふっ、会えば分かりますよ。どうせ船に行くなら、その方がきっと楽しい。きっと……貴方とは気が合うタイプの筈だ」
この質問に関してはまともに答える気がなかったのか、女は「その時が楽しみで仕方がない」とばかりに軽く声を上げて笑ってみせる。
恐らく、初めから女は全てを教える気など無かったのだろう。情報提供をする側としては問題のある態度と言えるが、男はもう慣れている。いつもの事なのだ。
試しに、男は他の事も聞いてみる。だが、女は大した答えを返しては来ない。『いつも通り』煙に巻く様な声音で喋るだけだ。
この女の悪い癖が出たと、男は苦笑する。昔から、女は何もかもを知ってるというのに喋らない所があったのだ。その癖最後には皆が得をするのだから、恐ろしい限りだ。
「教える気は無い、か……」
「正確には……『今回は』知らない、というのが正しいですが」
ほんの少しだけ、女は申し訳なさと楽しさが融合した様な声を上げている。普段であれば、嘘だと思っても仕方がないだろう。
しかし、男はどこか女が本当の事を言っている様に思えた。何でも知っている筈の女が、今回の事だけは大した事を知らない様に見えた。
男は、それ以上は何も聞かない事を決める。そろそろ、女が戻らなければ向こうに怪しまれてしまうだろう。
「まあ、いいさ。そいつらが船に乗ってる。その事実だけ知る事が出来れば十分だ、見極めは俺自身でやるさ。助かったぞ----エィスト」
「カナエ」
唇に手を当てて、言葉を止めてくる。そこには何やら、訂正させようとする意志が見て取れた。思わず男は首を傾げる、初めて聞く名前だ。
だが、その名前が女を指している事は何故か、はっきりと伝わって来た。
「……カナエ?」
「付けて貰いました。出来れば、『エィスト』よりもそちらの方が良いです」
抱き締めたまま顔をまた男へ近づけて、女は誰よりも魅力的な柔らかい笑顔を浮かべてみせる。照れる様に頬が紅潮していて、その名前を気に入っている事がよく理解できる。
その名前で呼んで欲しそうな顔になってこちらを見てくる女に対して、男は似たような笑みを浮かべた。
「……そうか、カナエか。そっちの方が似合うな。だがお前に必要なのはエィストって名前だろう?」
「えへへ、似合うでしょう? 『今は』カナエって名前の方が私にはふさわしいんですよ。観客ではなく、登場人物としてはね」
何やら意味が有る様に思える、全く意味の無い会話を繰り広げた女は名前に対して照れる様に頭を掻く。嬉しそうにするその姿は、どこか明るい少女の様に見える。
いつの間にか、女----カナエは男から離れていた。どこまでも明るく可愛らしい笑顔は消え去り、何故か内臓を全て吐き出した様な青い顔になっている。
迫真の演技だ。恐らく、そういう顔をしている方がそれらしい物に見えると踏んでいるのだろう。
そんな顔をした女はトイレの隅に置いてあった抜き身の刀を拾うと、男を背を向ける。しかし、まだ何かを言いたかったのか、足は動いていない。
「では、また後日……船の上で会いましょう? ……そうだ、その時はどんな名前を名乗りますか?」
足を動かさないまま、女は質問している。男は余り本当の名前を使わない。彼の部下達や親しい知人は名前を知っているが、大して知らない相手には本名を名乗らないのが彼の癖の様な物だった。
毎回、違う名前を自分に付けるのだ。どんな名前になるのかが彼の部下の間では賭けの対象になる事もあるのだが、それを彼は知らない。
だからこそ、男は何の気も無い調子で返事をして、軽く手を振ったのだ。
「……ケビン・ミラーだ。じゃあ、またな……良い船旅を」
「ええ、良い船旅を……よしっ、賭けは私の勝ちぃ……」
それだけ言って、背後へ手を振った女はその場から消え去った。最後に呟いた言葉は本当に小さく、それなりに耳の良い男にすら届かない程小さい声だった。
「……あいつめ、相変わらず騒がしい。黙ってれば、絶世どころじゃないのにな」
女が消えると、後には男だけが残される。彼を除いて誰もが居なくなってしまった部屋は、静かだ。それまで騒がしく楽しそうに喋っていた女が居なければ、その場所は元々静けさの漂う空間だったのだろう。
その事にほんの少しだけ寂寥感を覚えながらも、男は困惑した様子で周囲を見ていた。
わざと狂乱した女が暴れた為に、その部屋は傷だらけだ。自傷行為に及んだ形跡として、壁には血飛沫が染み着いている。とてもではないが、次の客が来るまでに修復する事は不可能だろう。
それが理解できている男は、心の底から困った顔で溜息を吐いた。
「……誰が修理費を払うんだ、ここ」
+
----私はボスの右腕であり、一番の敵。そうあるべきだ、敵にも味方にも、敵で居るんだ……度を過ぎなければ、その方が良いだろう
男は一瞬たりともその気持ちを忘れた事は無かった。それは自らの将来全てを使うに値する役目であり、男が生涯を通して仕えたい存在に対して、最も役に立つ方法だったのだ。
男は、それを最初に考えた時はまだボスの意志に、命令に忠実に動く存在だった。それこそが最も良い方法だと思っていたのだ。
しかし、そう考えた男はそれ以降の人生においてボスの意志や命令に反する行動を行い、結果的にボスと組織への利益を作る事が彼の使命になった。
男は売っても構わない情報を他組織に売った事もあれば、裏切りをしていた幹部の一人を裏切りが発覚する前に敵対組織に殺させ、『英雄的な死』と見せかけて暗殺した事もある。
結果的に、内部からは『信頼できない』。外部からは『薄汚い裏切り者』と扱われたが、彼は構わなかった。何せ、それこそが、自分への不信感が結果的にボスへの忠誠と内部の結束を産み出すと分かっていたのだから。
ボスも、その意図が分かっている為に本格的に拒む事は無い。彼はどんどんと行動を増し、ついには『ボスの娘』や『ボスに命を救われた者』ですら男を忌み嫌い、軽蔑した目を向ける様になっていた。
当然の事だ。組織とボスに従う事が本来あって当然の忠誠で、男はそれを裏切っているのだ。彼らは何も間違っていない。男は、自分が憎まれ役になる事を喜んで引き受けている。
そんな男----サイモンの生涯に、巨大な変化があった。
「おい、話は聞いたぞ!」
サイモンの自宅の扉が蹴破られる勢いで開き、向こう側から一人の男が室内へ飛び込んでいく。その勢いは余りにも強く、開けられた扉は叩きつけられる様な音を立てている。
そこから現れた男は服装や持っている物を見るだけならば何の怪しい所も無い、見るからに一般人の雰囲気を放っている。精々、下げられたカメラや持ち物の一部からどこかの記者の様な雰囲気が見て取れる程度だ。
特徴的な所が無いのは顔も同じだ。どこにでも居る様な、しかしどこにも居ない地味すぎる顔立ちだ。例え何らかの印象的な事を行っていたとしても、すぐに顔を忘れてしまうだろう。
しかし男の体から沸き出す殺気と怒気、そして威圧感は男の存在を熱烈に見せつけていて、非常に目立っている。
そんな、地中から吹き出るマグマすら劣って見える程の怒りを向けられた男、サイモンは自宅の扉を壊された瞬間から警戒を頭に浮かべて銃を手に握っていた。
彼はその手の襲撃を加えられる事を覚悟しなければならない職業に就いているのだ。この程度は当然と言える。
「そろそろ来る物だと思っていましたよ、ボス」
しかし、そんな派手で剣呑な登場の仕方をした男に対してサイモンが行ったのは、最敬礼して迎え入れる事だった。銃は一瞬の内に懐に仕舞われ、まるで無かったかの様に敬意だけがそこには残る。
そんな反応を当然の事として男は受け取った。これが彼らの普段の状態なのだ、長年の部下であるサイモンの敬意は受け慣れている。
「そろそろも何も……ああ畜生! で、どこまで掴んでる?」
それでも、男の体から流れる様な怒りは一切止まっていない。いや、サイモンの姿を見た瞬間から更に強烈になっている。
灼熱の怒りは室内の温度を急上昇させてしまいそうだ。空調が壊れてもおかしくは無いくらいに思えてくる。サイモンはそう感じつつも、あくまで冷静に返事をする事は忘れない。
「そうですね、どこぞのふざけたクソ野郎に内の幹部がやられたって事と、ボスとジェーンと私は生きてる、って事と……まあ、その他色々って所でしょうか」
「つまり、色々掴んでるって所だな……! いや、お前……」
どこか誤魔化す様な色を持った言葉に男は思わず強烈な怒りを放ったが、サイモンの言葉の奥から感じられる物に対して思わず口を噤む事になる。
奥の方から、強烈な怒りが滲んでいるのだ。男のそれとは違い、極寒の大地の大気さえ凍らせてしまいそうな冷たい怒気だ。そこに振れる物はたちまち寒さに体を震わせるに違いない。
サイモンが同じ様に怒りを感じているのだと分かって、男は少し落ち着いた様子を見せた。元々、怒りを向ける対象はサイモンでは無いのだ。
「……で、報告は?」
「犯人はMr.スマイルと名乗っています。仮面で顔を隠していて、手口は限りなく残虐。武器はナイフと軽機関銃、服装は異常に強度のあるトレンチコートに山高帽……明らかに、当時のお二人を知っている奴です」
冷たい怒りを発したまま、サイモンは軽々と犯人の情報を話してみせる。思わず毒気が抜かれる程詳しい情報だ。その人物に対する怒りよりも、どうやってそんな情報を得たのかの疑問の方が先行する程に。
「どうやって知った?」
「ああ、幹部連中の自宅に仕掛けていた監視カメラがそれを見つけていました……ジェーン以外は信頼、出来なかった物で」
男は自分の仲間を盗撮していた事を言って見せる。何ら悪びれた様子も無く、一瞥しただけで当然の事だと思っているとすぐに読み取れる顔をしている。
しかし、その話が本当であれば何よりも信頼出来る情報だ。恐らく、サイモンが言った予想も的中しているのだろう。
昔、自分ともう一人が着ていた服や武器を思い浮かべてみれば確かにその特徴は一致する物だ。
「ではボス、まずはその映像を見ましょう。こちらでどうぞ」
いつの間にか男は一つのモニターをどこかから運び出して来て、同じ様にどこかから持ち出してきた椅子を側に置く。用意の良い事に、テーブルの上には飲み物まで置かれている。
万全の準備をしていた事から察するに、最初から男が来る事を分かっていて用意したのだろう。いつも通りのサイモンの様子に、男は少し落ち着く事が出来た。
「……コイツか」
映像は既に始まっている。その中では一組の男女が仲睦まじく会話を楽しんでいた。その姿を男は知っている、何故なら、この二人の『結婚式』に参加したからだ。
そう、映像の中に居る人間は男の部下だ。サイモンにとっては同僚と呼べる幹部の一人である。最近結婚したばかりで、盛大に祝った事を二人は忘れた訳ではない。
映像の中の二人は、とても幸せそうだ。子供が欲しいと漏らしていた姿が浮かんできて、思わず目尻が緩んでしまう。
丁度、この時は夕食の時間だったのだろう。妻である女が柔らかな笑みを浮かべて料理をテーブルに並べ、夫である男も自分が作った料理を並べている。二人で一緒に夕食を作っていたのだろう。理想的すぎる夫婦だ。
料理をテーブルに並べ終えた夫婦は、椅子に座る。
本当に幸せそうだ、妻に先立たれている男にとってはどこか羨ましく、サイモンにとっては仲間を幸せに出来ている組織が誇らしく思ったのと共に----次の瞬間に起きる出来事を呪いたくなった。
「ここからです、ここから……クソッ……」
サイモンは普段とは様子の違う悪態を吐く。普段の彼は仲間を一切信じていない、自分が裏切り者の様な立場に居る事で仲間の裏切りを監視する様な人物だ。その心は組織とボスにだけ捧げられている。
カメラを仕掛けているのが、その証拠と言えるだろう。そんな彼をしても、ここからの映像は怒り狂う物だった。
「……! コイツ、かぁ……!」
男は、湧き出る怒りを抑えきれずに声を漏らす。映像の中で、変化が起きていた。食事に手を付ける寸前の夫婦の前に、何者かが現れたのだ。夫婦の側にある窓から飛び込むという形によって。
その存在は仮面を付けていた。古ぼけたトレンチコートを着ていて、どこか間抜けにすら見える。
しかし、その仮面の何者かは男が何らかの抵抗を見せる前に画面越しにも分かる殺気と共に接近し、ナイフによって男を刺す。すぐに殺す気は無かったのか、腹に突き刺していた。
男は突き飛ばされ、壁に激突する。口から吐き出した血が状況を物語っていて、目を背けたくなる姿だ。だが、仮面の存在はそれだけでは満足しなかったのだろう、軽機関銃を足へ向ける。
その存在が引き金を引く寸前に、男の妻が背後から体当たりをする事で男を守ろうとした。力強い目でその存在を見る姿には、一抹の恐怖が見て取れる。しかし、女は一歩も退かない。
男が、悲鳴を上げる様な声で女へ逃げる様に言う。しかし、女は聞こえていないと言わんばかりに仮面の存在を睨み付け、殺気だっている。
仮面の存在は男へ蹴りを入れて抵抗出来ない様にすると、女へ近づいていく。ナイフも軽機関銃も下げられている。すぐには殺さない、そんな意志が見えるかの様だ。
震え上がる程の恐怖を感じているだろうに、女はその場から一歩も動かない。握り込まれた拳が体の震えを誤魔化している。
「おい、まさか……」
女に近づいていくその存在を見て、映像を見ていたサイモンの隣で男は呟く。映像の中では傷を負った男が何とか起き上がろうと震え、その度に崩れ落ちては悲痛な声をあげている。
夫の苦しそうな姿を見て、女は悲しそうな顔をしていた。これから自分がどんな目に遭うのか、分かっている顔だ。一瞬にして幸せを壊された夫婦に幸せが戻る事は無いと、分かっている顔だ。
仮面の存在は、苦しみや諦観を覚える二人をあざ笑っている様に見えたかと思うと、静かにテーブルの料理を一つ手に取って女へ近づいていく。
そして、女の目の前にその存在が立ったその瞬間----
それ以上は、言葉に出来なかった。
余りにも残酷で、余りにも悲惨な事が映像の中で繰り広げられている。まさしく地獄と同義の状況だ、見ている二人すら旋律を禁じ得ない。
しかし、男達が感じたのは悲惨な状況に対する嘆きや悲しみではなく、圧倒的な激怒だった。
「……許せん、俺の仲間を……やりやがったな……」
「ええ……許せません。見れば見る程、怒りが込み上がってくる」
先程の怒りがマグマの様な、と表現するならば今の怒りは、太陽どころの話ではない。宇宙が誕生する瞬間を上回りかねない物だ。
もしも怒りが体から物理的に吹き出すのであれば、この宇宙はこの時に終わっていただろう。それほどの強烈な怒りだ。
サイモンの怒りもまた、極寒の域から絶対零度の域にまで達している。もはや、映像の中で何が起きていても彼らは怒り以外の感情を覚える事は出来なくなっていた。
映像は終盤に入ってきていた。その中で先程まで仲睦まじく共に居た夫婦は、互いの存在が解け合う程に抱き合ったまま動かなくなっている。
凄惨極まり無い殺しを行ったその存在は、まだ満足出来ないのか二つの死体を引き離し、死んでもまだ許さないと恨みでもぶつける様に顔や首を踏み潰した。
そこでやっと、その存在は二人を地獄に落としたと感じたのか、落ち着いた雰囲気で部屋から出ていく。後には、それまで確実にあったのだと分かる幸せの残骸が残るのみだ。
そこで、サイモンが映像を止めた。
「……ああ、確かに俺達はギャングだよ」
暗くなった画面から目を離さないまま、男は静かに呟いていた。深い悲しみと怒りが拮抗して、声をそんな物に変えている。
「だが、今、目の前で殺されたあいつはカジノを仕切っていただけの男だ。殺しだってヤクだって密売だってやらせなかった」
声は本当に悲しそうだ。体は全力で怒りをまき散らしている。その中には、どこか悔いる様な色も見て取れた。
「そんな男が……奥さんを目の前で殺されて自分も殺される様な、酷い目に遭うのが良い事か……? いいや、違うだろう……」
頭を抱えて、独り言を呟く。サイモンに聞かせる意図が無い事は明白だ。こんな弱々しい声を、意図的に聞かせる必要は無い。
これまでで一番に弱く聞こえる男の声を聞いて、サイモンは怒りを強めた。まるで、仲間を殺すよりも男を苦しめた事の方がずっと優先して怒るべきなのだと言いたげに。
「罰を受けるとしたら、俺だ……あいつらの悪行は全部俺の元に集約するんだからな……」
「いえ、それは……」
「分かってる、分かってる……自暴自棄になんてなっちゃいない。だが、自分にもあのクズにも腹立たしくて仕方がないってのは事実だ」
自分への苛立ちと『Mr.スマイル』という存在への憤怒が混じり合って、奇妙な表情をさせている。まるで映像の中のMr.スマイルが付けていた仮面の様な、世界の全てを嘲笑する笑みに見えているのだ。
映像と怒りを脳に刻み込んだ男は、静かに席を立つ。何かを決意した顔付きだ。
しかし、雰囲気を切り替えようとしているのか全身から出る圧倒的な威圧や怒気は薄れていき、努めて平静を保つ事で人に顔を覚えさせない地味な存在になろうとしている。
それが何を意味するのか、サイモンにはすぐに分かった。
「ボス、やはり」
「ああ……これは、記事にする。Mr.スマイルとか言う下種は記事を読んで思うだろう、『ホルムス・ファミリーの奴がこの記事を書いた』ってな……ああ、おびき寄せてやる」
言いつつ、手の中にあるメモ帳に今見た出来事を細かく書いていく。彼にはその正体を隠す為の幾つかの顔があり、アール・スペンサーという名前で地方新聞の記者として働いているのもその一つなのだ。
今の時間からでも、急げば明日の新聞には何とか間に合うだろう。素早くメモを取る姿は男が急いでいる事を如実に表していた。
「待ってください、ボス」
そんな急ぐ男へ、サイモンは声をかける。
組織の今後の動きに付いて話す為ではない。この二人は確かに主従として互いを認め合っているが、主義はかなり違う部分がある。ここで話し合っている暇は無いのだ。
その証拠に、サイモンは特に組織に関しては何の発言もする事は無く、映像を見せた後は一枚の紙を男へ手渡すだけだ。
「この紙に書かれた場所へ、後日向かってください。Mr.スマイルなんて名乗るゴミが、そこに居る可能性が高い。ただ、罠の可能性もあります、あらかじめ気を付けてくださいよ」
紙を受け取った男は、詳細なメモを取ると同時に紙を見る。そこには、ある船の名前が書かれていた。男やサイモンにとっては、見覚えのある名前だ。
どこに根拠があるのかも分からない発言である。何故そう思ったのか、どうしてそんな事を知っているのか、サイモンは説明しない。しかし、男は信じる事にしたらしい。
「……船、か……確か、これは売人共の息がかかった奴だな……分かった、メモも取ったから先に行くぞ」
メモ帳を懐に戻した男は、一つ頷くと静かに扉の方へ歩いていく。もう怒りは見えてこない。完璧に隠されたそれは、サイモンを以てしても見破る事は出来ない。
一礼して、サイモンは敬意の籠もった顔で男の背中を見送る。振り返る事は無い、男の歩みは止まらない。その背中からサイモンの元へ届いた声は確かな意志の力を感じさせる。
そう、釘を刺す様な意志の力が。
「お前、何か隠してるだろ。いや、詳細は聞かないさ。いつも通り、好きに動け」
釘を刺す様な声の中には、サイモンが自由に行動出来る様にと考える配慮の色が見て取れた。
「やれやれ、ボスは相変わらず勘が鋭い……」
男が扉の向こうへ去って完全に見えなくなった頃、サイモンは安堵の息を吐いて僅かにかけていた肩の力を抜き、懐からまた一枚の紙を取り出す。
船の名前が書かれた物ではない。封筒へ丁寧に入れられた紙だ。一見して手書きではないと分かる文字があって、何らかの意味のある文章を作りだしていた。
つまりそれは、手紙だった。ただの手紙ではない。サイモンをして戦慄する程の情報が書かれた手紙だ。
「……ボスに見せたら、あの人を殺しに行きそうだしな……いや、俺も危ないか」
やれやれと肩を竦め、封筒へと紙を戻して懐へ戻す。恐らくは男が想像している以上に、このサイモンという男は隠し事をしていた。
----しかし、俺の居場所は分かってもボスの住居までは分からなかったと見える。当然か、ジェーンと俺しか知らないんだからな。
自分の元へ届けられた封筒は彼の懐で確かに存在感を表している。普通であれば悪戯と判断して捨ててしまったとしてもおかしくは無いのだが、サイモンはどうしてもその紙を偽物だと断ずる事は出来なかった。
その理由は紙に書かれていた内容がまだ情報統制によって隠されている筈の『ホルムス・ファミリーの幹部が殺された』事に言及している点がある。
だが、それ以上に----十数年前にこの町から追い出した筈の組織の名前が、真実味を与えているのだ。
----罠であってもこの情報は貴重だ……限りなく、あり得る。しかしいざとなったらボスを逃がす方法を考えなければ……
その名前から考えられる限りでは、罠の可能性が高い。何せ、この町から送り主達を叩き出したのは彼らなのだ。『十年越しの報復』という言葉が頭に浮かぶ。
だが、サイモンはその情報を信じる事にした。何らかの意図がある事は明らかであっても、信じるだけの価値を感じさせた。勿論、裏は取るつもりなのだが。
「ジェーンが何かを企んでた……ってのは、ボスには言わない方が良さそうだよな……チッ、あいつらにボスが死んだ、なんて言ったら何をしでかすか……」
懐へ封筒を戻したサイモンは、次に男の娘、ジェーンという名前の少女の事を思い浮かべる。
父親にその存在を依存している少女だ、組織の幹部が殺されたというだけで恐らく激怒しているだろうに、それ以上に刺激は加えたくない。
しかし、サイモンは少女へ父親が死んだと言うつもりだった。生きている、というよりはまだ良いのだ。その場合は、父親であるボスが直接何かを言わない限りは確実に暴走するのだから。
「……嫌われ者っていうのは……弊害があるな」
父親が死んでいると信じ込ませるのは何とかなる、同じ様に生きている事を信じ込ませる事は簡単だ。しかし、少女はサイモンをまず信じていない。
組織を守る為に、サイモンは組織を売る事を辞さなかったのだから、誰が信じると言うのだろう。ボス以外の幹部は皆、彼を嫌っている。
嘘を飲み込ませる事は出来るが、父親の名前を出して釘を刺した所で信じられないのは分かっている。そして、父親である男は余りに怒りが強すぎて娘の事まで意識を向ける余裕が無い。
ある意味それは父親としては間違った態度なのかもしれないが、ボスとしての彼は組織の幹部達を凄惨な方法で殺した存在に対する報復だけが頭の中で渦巻いているのだ。
父親として振る舞うなど、土台無理な話だ。
「……俺の役目は、ボスが安心して考えを実行出来る様にする事だ……例え、何をしてでも」
自分に言い聞かせる様な口調でサイモンは呟いた。
この様な状況は、彼にとっては初めてではない。海の向こうの組織を町から叩き出した頃、二人の男が袂を分かった事があった。その時の彼は自らのボスが行動し安い様に組織を動かし、規模を拡大する事を選んだ。
今回は、より面倒な状況にある。ある少女が行動するか、行動しないかでその面倒さは変動する物だった。
「せめて、塞ぎ込むくらいにしてくれ……自殺とか報復は後が面倒なんだからな……」
言葉の中に空しい響きが見て取れる。そうはならない事を確信しているかの様な声だ。それは、同族に対する哀れみの様な感情も表していた。
サイモンは思っていたのだ。「恐らく、自分が同じ事を言われても同じ事をするのだろうな」と。
「……そういえば、ジェーンの飼ってる中毒者にまだ正気の奴が居たか。あいつに吐かせるかね」
しかし、彼は組織の人間である。もしも何かが起きたとすれば、彼は非情にならねばならないのだ。例えそれが、ボスの娘であっても。
そんな自分の立場を辛いと思うサイモンではないが、出来れば『最悪の事態』は避けたいと思うのも事実だ。
「……ボスが自分の娘を殺す、なんてのは止めてくれよ……頼むぜ」
どこか懇願する様な口調で呟くと、サイモンは一瞬も音を立てないままに部屋から出ていく。その顔は表情や顔立ちが出来るだけ覚えられない様にと帽子で隠されている。
そして----怒りを紛らわす為に弄ばれるルービックキューブが、手の中でその存在感を主張していた。




