エピローグ
「……そうだ、こんな話をしておきましょう」
もう半分まで沈んだ船がどんどんと遠くなっていく姿を眺めつつ、ふとプランクが独り言の様に口を開いていた。
しかし、声は周囲に聞かせる為のよく響く物だ。当然、隣に居るアールとケビンの偽名二人組にもその声は届いている。軽い調子ではあったが、何やら重要な意味が籠もっている気がして、二人は耳を傾ける。
二人が聞く姿勢に入った事を確認すると、プランクはいかにも何となくと言った風に言葉を続けた。
「スコットから聴きましたよ、ケビン。あなたが……昔、街の治安を二人だけで守っていた、『私が取引するつもりだった組織の侵略を防いだ』男だという事、そして、もう一人はそっちのアール・スペンサーだと言う事」
殆ど一息でそこまで告げると、事実かどうかを確認する為に二人を見る。そこには静かに頷く二人が居た。少し、過去の自分への気恥ずかしさを感じる表情ではあるが、隠している訳でも無い様だ。
ここから話す事を言っても問題は無い。そう確信したプランクはゆっくりと口を開き、今回の事件において最も重要だったかもしれない事を告げようと決める。
決めれば、行動は早い。
「そこで……こんな話が一つ」
一度だけ深呼吸をしたプランクは、二人の過去であり今の事件に繋がった、『三人の少年を助けた一件』に関して話し出す。
「昔、店先から食い物を盗んで殺されかけた少年達が颯爽と現れた二人組に助けられて、その時の経験から三人はどうやら別々の組織に関わる事になりました」
言いながら、少し離れた場所で落ち込んでいるパトリックと、その彼を肩を叩いて慰めるスコットの姿を見る。意気投合している様で、相手が『少年時代の友人』だと認識していなくとも、気は合っている。
そんな姿を見たプランクは何という偶然かと苦笑した。
「それが、私の側に居るスコットと、アールさんの側に居るパトリック? でしたか、彼です。そして恐らく、残りの一人は……」
意味深げな視線を、ケビンに向ける。スコットとパトリック、この二人は偶然にも、Mr.スマイルが姿を現した日にその場に居た者達だ。
そして、残った一人もまたこの船に乗っている。
偶然なのか、必然なのかは分からない。だが彼らは確実に、再会していたのだ。恐らく、本人達は一切の自覚も無いままで。
静かに、プランクが言葉を続けた。
「……少年達は、助けられた時に見た顔から異名を付けました、当時のごく一部の人間の間にのみ流行っていた噂の殺人ヒーローから取った異名です」
そこまで話すと、またプランクは一呼吸置いた。目線はケビンに向けられていて、決定的な証拠を掴んだ警察か何かの様な意志を送っている。
何かがあると思わせるには、十分過ぎる態度だ。誰でも気になってしまう筈だ。ケビンとアールはそれまでよりもずっと真剣に、言葉を聞く事にした。
そして、事実をプランクは口にする。それが今回の事件を起こした原因だと、言っているかの様に。
「あなたは昔----『Mr.スマイル』、と呼ばれていたんですよ」
「その少年達以外は、誰も知らないままにね」
+
手に紙袋を持った一人の男が、一つの店に急いで向かっている。
呼ばれたのだ。あの沈んでしまった船から生き残った者達で、パーティを行おうと言うのだ。勿論、動けない者以外は誰もが参加する事になった。
男は、走っている。予定より少し遅れてしまったのだ。急がねばならない、自然と足は速くなるだろう。
遅れたくない、そんな男の気持ちが伝わったらしい。目的地である会場が見えてくる。もっと足が速くなる事を自覚して、男は急ぐ。
目の前まで扉が来ると、男は勢い余って扉に体当たりを決めそうになる。だが慌てて避けると同時に勢いを抑え込み、軽く深呼吸をする。
ドアノブに手を掛ける。いつ開けても問題はない。自分の状況や格好を確認した男は、思い切り扉を開けて、固まった。
そこには剣呑な雰囲気を放つ者達が何人も居た。敵対しているのか、睨み合っている様にも見える。
特に凄まじい雰囲気を放っているのが、男達の中心に居る三人の人物だ。
最初の一人は、麻薬の売人を取り仕切っているボスだ。
次の一人は、大組織の頂点として心酔する者の多いボスだ。
最後の一人は、圧倒的な雰囲気と実力を持ち合わせたボスだ。
そんなボス達が、互いに銃を向け合って剣呑な雰囲気を発している。誰であろうと、危険を感じるに違いない。
何とか制止するなり、慌てるなりしなければ。男はそんな事を考えて動こうとしたが----その前に、銃声が鳴り響いていた。
これにて『キラーハート The killer In Smiling MAN S 一笑編』終了となります。さて、次は大笑編です。頑張って投稿……と行きたいですが、正直眠いのでまた後で。




