嘘彼-前編-
高校生のある秋の夕方、数ヶ月ぶりに会った幼馴染がある提案をしてきた。
それが、嘘彼。
幼馴染の由佳は、異常なまでに本が大好きな子だった。
休み時間のみならず授業中も登下校の時間も給食の時間さえも読書につかっていた。
由佳のランドセルの中には本しか入っていなかった。
それでも由佳は常にテストで満点を取り、全国統一小学生学力テストでは1位をキープし、神童とうたわれた。
だが、すべての時間を読書につかっていた由佳は、友達と遊びに行くことも着飾ることもせず、己の見た目を気にすることもなく髪は伸ばしっぱなしにし服も黒や灰色などの地味なものばかり着ていたため、”貞子”というあだ名をつけられいじめられていた。
先生方はなんとかしようとがんばっていたが、結局は解決することはできなかった。
そんなことはまったく気にせずにただひたすら本を読んでいる由佳に俺はだんだんと惹かれていったのを覚えている。
由佳の読書量はすさまじく、小学4年生で学校の図書室の本をすべて読破し、中学校あがるまえに地域の図書館の本をすべて読破していた。
俺も由佳の横で一緒に本を読んだ。
中学生になり由佳は変わった。
読書をやめてしまった。
それに気づいたのは入学してから1週間後。
「4組にかわいい子がいるらしいから見に行こうぜ。」
そう新しくできた友達が誘ってきたから由佳のいるクラスでもあったし見に行ったのだ、そのかわいい子を。
そこには、ひとつに束ねていた長い長い髪をばっさりと切り、制服のスカートを短くし、化粧までしている由佳がいた。
中学に入ってからできたのであろう見た目のとても派手な女の子たちとともに机に腰掛け、携帯をいじっていた。
俺は、ただ、それを見ていることしかできなかった。
由佳は見た目の派手な友たちとテニス部に入った。
俺もテニス部に入ったのだが、変わってしまった由佳を見ているのがつらくてすぐにやめてしまった。
その後、図書委員になった俺は本を読みながら図書室からテニス部の様子を見るのが日課になった。
我ながら女々しいと思う。
由佳は同じテニス部内で彼氏を作っていたのに。
2年生になり、それでも由佳のことをぐじぐじと思い続けていた俺にある日転機が訪れた。
同じ図書委員の女の子が告白してきたのだ。
「本を読んでいる横顔を見て以来、ずっと好きでした。」
かわいそうなことをしているという自覚はあった。
それでも、俺は由佳のことをあきらめるためだけに彼女と付き合った。
俺が図書委員の子と付き合いだしたことは、すぐにうわさで広がったらしい。
付き合いだして3日経ったころに、由佳とその派手な仲間たちが俺と彼女のところに来た。
「どこまでいったの?」
由佳はニヤニヤしながらそう聞いてきた。
無神経なやつめ。
「そういうお前はどこまでいった?」
そう聞き返してやったら真っ赤になって引き返していきやがった。
一体なんなんだ。
そういう質問をしてきたのは由佳なのに。
その後、俺は彼女とは1ヶ月ほどで別れた。
「ぜんぜん私のこと見てくれない。」
泣きながらそういって彼女は去っていったのだ。
追いかけてほしそうにしていたが、俺は由佳のことをあきらめ切れなかったことに愕然としている最中だったので彼女の期待にこたえることは最後までできなかった。
由佳のほうは中学3年間で数え切れないほどの男と付き合ったらしい。
由佳と別れた男は、必ずといって良いほど俺のとこに来た。
「あいつと俺が別れたのはお前のせいだ。」
などとのたまいながら俺にけんかを売る者、俺をみて鼻で笑って去っていく者、いきなり泣き出す者、多種多様だった。
なぜ俺のところに来るのか良く理解できないまま相手にしていた。
県下でもトップレベルの高校に入学した俺は、高校生活を満喫していた。
一方の由佳は、とても有名な、なんというか、荒れた高校に入学していった。
一言で言えば馬鹿高校に入学したのだ。
読書をやめた由佳は、授業中ずっと居眠りをしていたらしい。
どこからも知識を得ることをしなかった由佳の成績はどんどん落ちていき、そんなレベルにまでなってしまった。
馬鹿高校でも由佳は彼氏を幾人も作っていたらしい。
「元彼がしつこくってぇ、ストーカーみたいなこともしてくるしぃ、新しい彼氏を作ってもいいんだけどぉ、結城だったら幼馴染だし頭良いから身の程を知ってあきらめてくれると思うのぉ。だからぁ、嘘彼、してくんない?」
街で久しぶりに会った幼馴染に言うことか、などと思いながらすぐに断った。
「新しいのを作れば良いじゃんか、俺に頼るな。」
由佳は少しむっとした様だ。
「うちの高校じゃあおんなじのになるかもじゃんかぁ?そんなのやだしぃ、んなんだから結城にお願いしてるんだけどぉ、その辺わかってるぅ?」
「は、なに言ってんの?ならなおさら俺じゃだめじゃん。」
「なんでぇ?」
「普通に考えろよ、俺の高校のやつとお前の高校のやつが付き合うと思うか?」
少なくとも俺の高校のやつは由佳の高校を見下してるからありえない。
「だからこそぉ、真実の愛っぽく見えない?」
「見えないな。」
「・・・。」
「・・・。」
「もう遊びはやめようと思ってるの。だったら新しいのは作らないほうが良いでしょ?」
由佳の口調が変わった・・・。
もしかして本気なのか?
そう思ったときだった。
「由佳ちゃんいたぁ。」
後ろから声をかけられた。
「・・・なによ。あんたとは別れたでしょ、声かけないでよ。」
「一緒にいるの誰かなぁ?」
由佳が俺の腕をつかむ。
「私の今の彼氏、格好良いでしょ?わかったなら今いいとこなんだから邪魔しないで。」
由佳さん俺まだそのこと了承してない。
「ふぅ~ん?」
元彼さんが俺のことをすごく観察してる。
「その人さぁ、彼氏なんかじゃなくってぇ、頭のいい高校に通ってるっていう幼馴染さんでしょぉ?」
何で俺のこと知ってるんですか、気持ち悪い。
「その幼馴染だけど、今は私の彼氏なの。てかあんたにそのこと話した記憶ないんだけど。」
だから了承してないって。
つか調べたのか、元彼さん。
「そんなこといわれても信じないもーん。由佳ちゃんが好きなのはおれだけだもーん。由佳ちゃんのことはおれが一番知ってるんだからぁ、話す必要なんてないんだぜぇ?」
なにこいつマジ気持ち悪い!
「・・・結城ィ・・・。」
由佳が俺を見つめてくる。
思わずため息が出る。
こういうことならしょうがない。
元彼さんを真正面からにらみつける。
「自意識過剰野郎。気持ち悪い。普通に考えろ、今、こいつは俺ので、お前はただのイタイやつだ。」
「はぁあああああ!?なに言っちゃってんのぉ??マジウケるんですけどぉ。」
いやいやお前がなに言っちゃってんの?マジウケる。
「由佳、こいつのこと好きか?」
元彼さんには現実を見させてあげようか。
「嫌い。」
由佳さん即答。
当たり前か。
「はい、今の答えを聞いたでしょ、いい加減、己の置かれた状況を理解しなよ。」
そこから先のことはあまり覚えていないんだ。
元彼さんがいきなり突進してきたとこまでは覚えてるんだけど、気づいたら俺の足元に腹抱えてうずくまってた。
そんで、周りがざわざわうるさくて注目を集めてることに気づいたのか、由佳が俺を引っ張って走ってその場から逃げた。
だいぶ暗くなってきた秋の道を走り続け、人通りのあまりないところで立ち止まり、息を整えてから由佳が一言、
「馬鹿じゃないの。」
足に鈍い痛みがあったからきっと蹴ったんだろう、思いっきり。
「仕方ないじゃないか、いきなり襲ってきたんだぞ?」
蹴る以外の選択肢としては殴るしか用意されてなかったと思うのだが。
「あの手の相手にあんな言いかたしたらそうなるでしょ。普通蹴る?」
「じゃあ、どうすればよかったんだよ!?大体、お前が持ち込んできたコトだぞ!?」
二人してうつむいてしまった。
「・・・。」
黙りこくりゃ良いってモンじゃないぞ、特に今は俺自身抑えが利かないから、
「人の気持ちも知らんで嘘彼とかふざけんじゃねえ!!小学生のころからうじうじと想いつづけてた俺の気持ちはどうなるんだ!?無視か!?」
口走ってしまうんだ、閉じ込めていた想いを。
由佳は、はっと顔を上げ思いっきり俺の顔を見つめてくる。
その視線に耐え切れず、ダッシュで逃げる俺。
由佳は追ってこなかった。
情けないにもほどがあるだろ、と家で後悔。
と、言うか、元彼からストーキングされてる由佳を暗い道に置いてきてしまった・・・!!
やばい、これはかなりやばい。
・・・と、思ってたら由佳からメールが一通。
”女の子一人夜道にほうっておくなんてサイテー タクシー拾ったから良いけどさ ないわー”
・・・無事で何よりです。
つか、俺の告白スルーされてね?
無かったことにはしたいけど、スルーされるとなんかむかつくな・・・。
そう思ってたらもう一通きた。
”これからも、嘘彼、よろしく”
よろしく、じゃねえし!
ふざけんな、こっちの気持ち知ってるのにシカトか!!
頭きたので携帯はほうっぽって寝ることに決定。
翌朝、休日なので調子に乗って遅くまで寝てたら由佳からメールが着た。
”結城が昨日叫んだことについて話し合いたいから10時に結城の家にいくからね?”
現在午前9時半。
あと30分もすれば由佳が来てしまうわけだな。
・・・超逃げたいがここで逃げたらいろいろとアウトな気がする。
大体、ここで決着つけなくていつつけるんだ!
そういうわけで俺は何年も想いつづけていた相手への気持ちに決着をつけることに決めた。
煮詰まったのできりがいいところで投稿してみました。
後編は2月が終わるまでには書き上げるつもりです。