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中央分離帯 『完全版』  作者: usk
半年目 秋
12/31

聡美 Ⅶ




 週末から始まるイベント会場の設営も終盤を迎え、それに伴いあたし達の仕事も終わろうとしていた。この仕事が終わればようやく休みが取れる。まだ知美と一緒にいる啓輔が心配だし、ほんのすこし疑惑は残っている。でもあの時久しぶりにしたキスからはやっぱり強い愛情を感じたし、啓輔とゆっくり過ごせばこの疑惑も杞憂に終わる。あたしはそう確信していた。


「ようやく終わったな。俺はもう企業の仕事は勘弁だからな」

 イメージボードとレイアウトの照らし合わせをしていると、拓実が缶コーヒーを差し出しながら話しかけてくる。

「バカなこと言わないでよ。この仕事が成功したらもっと増えるかもしれないんだよ」

 拓実の性格上、細かい注文をしてくる企業の仕事に向かないことは解っていた。あたしは缶コーヒーを受け取りながら、拓実が文句を言うのも仕方がないと思った。

「もし仕事が増えるんならこっちを中心でやるチームを作れよ。こういう仕事は俺よりも、林とか大島の方が向いてるよ。あいつら真面目だからな」

「あら、真面目さで言えば啓輔でしょ」

「あいつをこっちに回すのか? あいつがどんだけ人気か知ってんだろ。もったいねぇよ」

 確かに、口コミで広がった啓輔の人気は今やオフィスのトップだった。彼の仕事の丁寧さに加えてあの人柄だ、人気が出るのも当然だろうと思う。なぜか依頼人の多くが30代女性に偏っているのがあたしとしては少々腑に落ちないけど。



 拓実は缶コーヒーを一口飲むと「ところで」と唐突に話題を変えた。

「この仕事終わったらお前らなんか約束してんだろ?」

 どうしてそれを? と思わず口から零れた。

「啓輔が話したの?」

「バーカ、お前の顔見りゃわかんだろ。毎日ニヤけた顔さらしやがって」

「ニヤけてないよ」と顔に手を当てる。そんなに出てた?

「いいから、啓輔のことだから『デートできればいい』くらいにしか思ってねぇだろ。お前はそれでいいのか?」

「どういう意味よ」

「我慢できんのかってことだよ」

「あたしは、あんたみたいに性欲で生きてないから大丈夫です」と嫌味交じりに言うが、拓実は嫌味など全く意に介さず、平然と話を続ける。

「久しぶりに二人きりになってみろ、絶対我慢できなくなるぞ」

「飢えてるみたいに言わないでよ」と言葉を返すが、飢えてねぇのかよ。と言われるとすぐに言い返せない自分もいた。


 確かに、最近拓実といることが多いせいだろうか、あたし自身啓輔の体を求めている部分も否めない。こないだだってあたしからキスを迫ったし。拓実の言うことを真に受けるのもしゃくだけど、二人きりになったら我慢できなくなる、かも。


「前にも言ったけど、もし本当にやりたいんだったら、自分から行けよ。啓輔は経験がないから誘惑すれば一発だ」

 拓実は茶化すわけでもなく、いたって真面目だ。拓実なりにあたし達の事を考えて言ってくれているのは解る。それは解るんだけど露骨なんだよなぁ。


「もしかしたら啓輔も待ってるかもしれねぇぞ」

「何を?」

「お前の許しを、だよ。お前に許してもらわないと先に進めないのかもしれない。もしそうだとしたら、いくら待ってても先に進待ねぇぞ」


 それは衝撃だった。まさに雷に打たれたような、という表現がぴたりと当てはまるほどの強い衝撃だ。

啓輔も待っているとは考えたことがなかった。あたしが待っているように、啓輔も待っていても確かにおかしくはない。そうなんだ、待ってるんだ。


 得意げな顔で腕を組む拓実を横目で見ながら、もしも本当にそういう雰囲気になったら


誘惑してみようかな、とほんの少しだけ、思った。





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