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中央分離帯 『完全版』  作者: usk
半年目 秋
1/31

プロローグ 聡美と啓輔

啓輔と聡美のお話。




       聡美 Ⅰ



 最近啓輔の様子がおかしい。

仕事はちゃんとしてるけど、妙にソワソワしたり、不意に携帯をかけてみたり、帰りなんていつも知美と一緒に帰る。

 知美とたまたま同じアパートに住んでることは知ってるけど、一緒に帰る必要なんてないはず。時にはどっちかの仕事が終わるまで待っている始末だ。まるで付き合ってるみたいじゃないか。


 去年の暮れにあたしから伝えて、あたし達は付き合いだした。伝える時も歳の差には少なからず抵抗はあったし、付き合ってからも、ホントにあたしでいいのかな。もっと歳が近くてかわいい子の方がいいんじゃないかな。その思いはどうしても拭うことはできない。だって八歳もあたしの方が年上だから。

 そのことを口にすると、啓輔は決まって「俺は聡美さんが好きなんだよ」と言ってくれる。そのことに安心してる自分もいる。



 今日も啓輔は知美と一緒に帰った。

「お疲れ様。後で電話するね」と帰り際に笑顔をくれた。

 ホントに信じていいの? ホントにあたしのこと好きなの?

訊きたい気持ちをぐっと堪える。

「お疲れ様。気をつけて帰ってね」

 あたしの口からは室長としての言葉が出る。意識すればいつだって頼れる室長を演じることができる。

 でもきっと電話がかかってきたら今日も訊いてしまう。

「ホントにあたしでいいの?」

 啓輔はどうこたえてくれるのだろう。




      啓輔 Ⅰ



 最近聡美さんの様子がおかしい。

仕事はちゃんとしてるけど、妙にソワソワしたり、不意にボーっとしてみたり、帰り際に声をかけると、いつも室長としての顔をのぞかせる。

 理由はなんとなく解っていた。俺が篠原さんと一緒にいるからだ。


 先日、篠原さんの大学の先輩だった、三浦さんに会った。どうして俺に会わせるのか解らないまま食事に誘われたのだが、会ってみて理由が解った。

 篠原さんが別れた彼氏からストーカー行為を受けている、と相談された。

「同じアパートに住んでる山田さんなら、適任なんです」と篠原さんの警護を頼まれた。

 当然、同じオフィスで働く仲間を放っておくことはできず、引き受けることにした。その際、ちゃんと聡美さんにも話をするように言ったのだけど、篠原さんと三浦さんは頑として受け付けなかった。だから俺もそのことを隠す必要があった。


 嫌われてしまうんじゃないだろうか。そう思うと胸が痛くなる。

 聡美さんは時々突発的に不安に襲われたように「あたしのこと好き?」とか「ホントにあたしでいいの?」とか訊くことがあった。その度に俺は「俺が好きなのは聡美さんだけだよ」といつでも、どんな時でも伝えてきた。俺には聡美さん以外いないから。



「お疲れ様、後で電話するね」

 帰り際に笑顔を見せる。俺の笑顔は聡美さんだけに向けられる。

 聡美さんは、一瞬ちらっと篠原さんを見て

「お疲れ様。気をつけて帰ってね」といつものように室長の顔を見せた。

 胸が痛い。どうして笑顔を見せてくれないのか。俺はこんなに好きなのに。





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