1月 意外な伏兵
カン、カン。フロアから高いヒールの足音が響き、こちらに近づいてくる。周平の胸の中から真紀が慌てて身体を離したその時、足音の主が階段に姿を現した。ミルクティー色の巻き毛にピンヒールのニーハイブーツ。貴重品をいれた小さなビニールトートをぶら下げたあの店の店員だった。
「えっ」
思わず真紀は固まってしまう。彼女のワンピースをちらりと見て、店員は、ああっ、と高い声を上げた。
「さっきはありがとうございますう!彼氏さんと待ち合わせですかあ?」
店員は周平を見上げて満面の笑みを浮かべた。
「ねっ、このワンピ素敵ですよねっ?」
いやいや、着替えて怒られましたけど?ていうか彼氏ということでいいの?真紀は困ったように周平を見上げたが、
「うん、よく似合ってる」
周平からすっと澱みなく出た賛辞に、真紀は目を見開いた。しかも周平は臆することなく店員に微笑むと、真紀の両肩に手を置いて見せつけるように、
「綺麗にしてくれて、ありがとうございます」
とまで宣った。このヒト、こんなキャラだっけ?真紀はめまいがしそうだった。
「うわあ、ゴチソウサマですー。」
店員は頬を赤く染めながらも満足そうに何度もうなづいた。
「こういうことがあると、この仕事やっててよかったあって思うんですよー」
また来て下さいねぇ!店員はぶんぶん手を振って去って行った。両肩に置かれた彼の手が熱い。解こうとして肩を捻ると、今度は手が固く繋がれた。
「・・・離して?」
もう恥じらいで焼き切れそうだ。
「どの口でそんなこと言う?」
いわゆる恋人繋ぎで握り直されて、周平は意地悪く笑った。
「もう逃がすつもりはないから・・・二度と」